会社の株式を持っているのに、経営に関与できない。配当もない。決算書や帳簿の内容もよく分からない。親族会社・同族会社・非上場会社の少数株主からは、このような相談が少なくありません。
このような場面で重要になるのが、少数株主権です。少数株主権とは、少数株主が会社に対して情報を求めたり、株主総会で正式な議論を求めたり、会社経営を監視したりするために、会社法上認められている権利の総称です。
もっとも、少数株主権は、会社に当然に株式を買い取らせる権利ではありません。会計帳簿閲覧請求や株主提案権などを使っても、それだけで会社や大株主に買取義務が発生するわけではないため、この点は最初に整理しておく必要があります。
一方で、少数株主権は、株式売却や買取交渉と無関係ではありません。会社の財務状況を確認し、役員報酬や関連当事者取引などの問題を把握し、他の株主と連携し、株主総会で正式に議論することで、売却・買取交渉の前提となる情報や交渉材料を整理できる場合があります。
この記事では、少数株主権とは何か、少数株主とはどのような株主をいうのか、持株割合によって使える権利がどのように変わるのか、そして少数株主権を株式売却・買取交渉とどのように結び付けて考えるべきかを整理します。
- 少数株主権とは、一定割合以上の株式又は議決権を持つ株主に認められる会社法上の権利です。
- 少数株主とは、一般に会社の支配権を持たない株主を指しますが、持株割合によって使える権利や交渉上の意味は変わります。
- 少数株主が使える権利には、会計帳簿閲覧請求、株主名簿閲覧請求、株主提案権、株主総会招集請求、株主代表訴訟などがあります。
- 少数株主権を行使しても、原則として会社に株式を買い取らせる一般的な権利は発生しません。
- ただし、情報収集、会社価値の確認、正式な議論の場づくりにより、株式売却・買取交渉を進めやすくなる場合があります。
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
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少数株主権とは
少数株主権とは、会社の経営権を握っていない株主であっても、一定の要件を満たすことで会社に対して行使できる権利をいいます。会社法は、多数派株主や経営陣だけで会社運営が進められることを前提にしつつも、少数株主が一定の範囲で情報を得たり、株主総会を通じて意見を述べたり、役員の責任を追及したりできる仕組みを用意しています。
少数株主権は、会社の支配権を持たない株主にとって、会社との関係を整理するための重要な手段です。特に非上場会社では、株式に市場価格がなく、会社の内部情報も外部からは分かりにくいため、少数株主権をどのように使うかが、売却・買取交渉の準備に影響することがあります。
少数株主権は一定割合以上の株主に認められる権利
法律上の狭い意味での少数株主権は、一定割合以上の株式又は議決権を持つ株主に認められる権利です。たとえば、会計帳簿閲覧請求や株主総会招集請求のように、一定の持株割合・議決権割合を満たすことが必要になる権利があります。
この割合は、権利ごとに異なります。1%以上又は300個以上の議決権が問題になる権利もあれば、3%以上が問題になる権利、10%以上が問題になる権利もあります。また、公開会社か非公開会社か、保有期間、定款の定め、議決権制限株式の有無などによって、具体的な要件が変わることがあります。
そのため、少数株主権を検討するときは、「自分は少数株主か」という抽象的な確認だけでは足りません。自分が何株を持っているのか、議決権割合は何%か、会社の株主構成はどうなっているのか、定款にどのような定めがあるのかを確認する必要があります。
単独株主権との違い
株主の権利には、1株を持っていれば行使できる権利もあります。このような権利は、一般に単独株主権と呼ばれます。たとえば、配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会で議決権を行使する権利、一定の書類を閲覧する権利などは、持株割合が小さくても問題になることがあります。
これに対して、会計帳簿閲覧請求や株主総会招集請求のように、一定割合以上の株式又は議決権を持つことが必要な権利は、単独株主権とは区別して少数株主権と説明されることがあります。
もっとも、実際に会社との交渉を考える少数株主にとって重要なのは、「法律上、単独株主権か少数株主権か」という分類だけではありません。自分の持株割合で、会社に対してどのような情報を求められるのか、株主総会で何を主張できるのか、会社価値を確認・回復するためにどの手段を使えるのかが重要です。
本記事では少数株主が使える権利を広く整理する
この記事では、法律上の分類としての少数株主権だけでなく、単独株主権も含めて、少数株主が会社に対して使える権利を広く整理します。なぜなら、実務上は、1株でも使える権利と、一定割合が必要な権利を組み合わせて、情報収集、株主総会対応、交渉、裁判手続を検討することが多いからです。
たとえば、まず株主名簿や株主総会資料を確認し、そのうえで会計帳簿閲覧請求を検討し、必要に応じて株主提案権や株主総会招集請求を使う、という流れが考えられます。逆に、いきなり強い権利行使をすると、会社側から「目的が不当である」「嫌がらせである」と反論され、交渉がこじれることもあります。
したがって、少数株主権は、単に権利一覧を覚えるだけでは不十分です。自分の持株割合、会社との関係、売却・買取交渉の段階、会社側の対応、他株主との連携可能性を踏まえて、どの権利をどの順番で使うかを考える必要があります。
少数株主とは|49%以下でも持株割合で立場は変わる
少数株主とは、一般に、会社の支配権を持たない株主をいいます。多くの場合、議決権の過半数を持たず、取締役の選任や会社の重要事項について単独で決定できない株主を指して使われます。
ただし、少数株主を「49%以下の株主」とだけ説明すると、実態を見誤ることがあります。1株だけの株主と、3%を持つ株主、10%を持つ株主、3分の1を超える株主、40%前後を持つ株主では、会社に対して使える権利も、交渉上の立場も大きく異なります。
少数株主とは支配権を持たない株主
会社では、通常、株主総会の決議を通じて取締役の選任、定款変更、組織再編、重要な会社行為などが決まります。議決権の過半数を持つ株主や、親族・関係会社を含めて多数派を形成している株主は、会社の意思決定に強い影響力を持ちます。
これに対して、議決権の過半数を持たず、単独では取締役を選任できない株主は、会社経営の主導権を持ちません。このような株主が、少数株主と呼ばれます。
親族会社や同族会社では、創業者一族の一部、大株主の兄弟姉妹、相続人、退職した元役員・従業員などが少数株主になることがあります。株式を持っていても、会社の経営には呼ばれず、配当も受けられず、売ろうとしても買い手が見つからないという状況が生じやすいのが特徴です。
49%以下という説明だけでは不十分
少数株主は、過半数を持たない株主と説明されることがあります。しかし、実務上は、持株割合をもう少し細かく見る必要があります。
たとえば、1株だけの株主でも、株主総会で議決権を行使し、会社の基本的な情報を確認し、一定の書類を閲覧できる場合があります。3%以上の議決権又は株式を持つ株主であれば、会計帳簿閲覧請求など、会社の財務内容を確認するための重要な権利が問題になります。
また、3分の1を超える議決権を持つ株主は、定款変更や合併など、特別決議が必要な重要事項について、反対により決議を阻止できる可能性があります。過半数を持っていなくても、会社にとって無視できない存在になることがあります。
このように、少数株主の立場は一様ではありません。持株比率によって変わる株主の権利を詳しく確認したい場合は、持株比率で変わる株主の権利もあわせて確認すると、自分の立場を整理しやすくなります。
株主は経営にどこまで関与できるのか
少数株主がよく誤解しやすいのは、「株主なのだから、会社の経営に直接口出しできるのではないか」という点です。株主は会社の所有者として重要な地位を持ちますが、日常業務を直接指揮したり、取引先との契約内容をその場で変更させたり、従業員に直接命令したりする立場ではありません。
一方で、株主は、議決権、株主総会での質問・発言、株主提案権、株主総会招集請求、会計帳簿閲覧請求、株主代表訴訟などを通じて、会社に対して正式に意見を述べたり、情報開示を求めたり、役員の責任を問題にしたりできる場合があります。
つまり、少数株主は、日常業務に直接命令するのではなく、会社法上の権利を通じて会社に関与します。株主が経営にどこまで口出しできるかについては、株主が経営にどこまで口出しできるかで詳しく整理しています。
持株割合別に使える少数株主の権利一覧
少数株主が使える権利は、持株割合や議決権割合によって変わります。ここでは、少数株主が会社に対して使える主な権利を、実務上の見方に合わせて整理します。
なお、以下は全体像をつかむための概要です。具体的な要件は、会社が公開会社か非公開会社か、取締役会設置会社かどうか、定款の定め、保有期間、議決権の有無、共同株主として行使するかどうかによって変わることがあります。
| 持株割合・議決権割合 | 使える権利の例 | 売却・買取交渉との関係 |
|---|---|---|
| 1株・単独株主 | 配当を受ける権利、残余財産分配を受ける権利、株主総会での議決権、株主名簿閲覧請求、株主総会での質問・発言など | 株主としての地位を確認し、会社や他株主との関係を整理する出発点になります。 |
| 1%以上又は300個以上など | 株主提案権、議案要領通知請求など | 配当方針、役員選任、役員報酬、情報開示などを正式な議題・議案として出す余地があります。 |
| 3%以上など | 会計帳簿閲覧請求、株主総会招集請求、検査役選任申立てなど | 会社の財務情報を確認し、売却・買取交渉の前提資料を整える場面で重要になります。 |
| 10%以上など | 解散請求など、会社の存続自体が問題になる強い手段が検討される場合があります。 | 通常の交渉手段ではなく、会社運営の行き詰まりが深刻な場合の最終的な選択肢として位置づけられます。 |
| 3分の1超 | 特別決議を阻止できる可能性 | 定款変更、組織再編、重要な会社行為について、会社側が無視しにくい交渉上の意味を持つことがあります。 |
| 過半数未満だが大きな割合 | 株主構成次第で、役員選任、重要決議、価格交渉に影響することがあります。 | 単なる小口株主とは異なり、保有割合や他株主との関係によって評価・交渉上の位置づけが変わります。 |
1株でも使える権利
少数株主権という言葉から、一定割合を持たなければ何もできないと考える必要はありません。1株だけの株主でも、株主としての基本的な権利はあります。
たとえば、株主総会で議決権を行使する権利、配当がある場合に配当を受ける権利、会社が清算される場合に残余財産の分配を受ける権利などは、株主としての基本的な地位に基づくものです。また、株主名簿や株主総会議事録など、一定の会社書類を確認できる場面もあります。
これらの権利だけで会社に株式を買い取らせることはできません。しかし、そもそも自分が株主としてどのように扱われているか、株主総会でどのような決議が行われているか、他の株主が誰かを把握するための出発点になります。
他の株主を把握する必要がある場合には、株主名簿閲覧請求の使い方を確認すると、共同して権利行使を検討する際の流れを整理しやすくなります。
1%以上・3%以上などで使える権利
持株割合や議決権割合が一定以上になると、会社に対してより具体的な行動を求められる権利が問題になります。
1%以上又は300個以上の議決権などが問題になる代表例が、株主提案権です。株主提案権を使うと、一定の要件のもとで、株主総会の目的事項や議案を会社に提案できる場合があります。配当方針、役員選任、役員報酬、情報開示などを正式に議論したい場合に検討されます。
3%以上の株式又は議決権などが問題になる代表例が、会計帳簿閲覧請求です。会社の会計帳簿や関連資料を確認できれば、会社の資産、利益、役員報酬、貸付金、関連当事者取引、内部留保などを検討する手がかりになります。これは、非上場株式の売却価格や買取交渉を考える際にも重要です。
また、一定割合以上の株主は、株主総会招集請求や検査役選任申立てなどを検討できる場合もあります。これらは、会社が情報開示や議論に応じない場合に、正式な手続を通じて会社に対応を求めるための権利です。
10%・3分の1超などで意味が変わる権利
10%以上の株式又は議決権を持つ場合には、会社の状況によって、解散請求など、より強い手段が問題になることがあります。ただし、これは通常の売却・買取交渉で気軽に使う手段ではなく、会社運営の行き詰まりが深刻な場合の例外的な手段として位置づけるべきです。
また、3分の1を超える議決権を持つ株主は、特別決議を阻止できる可能性があります。特別決議は、定款変更、合併などの組織再編、重要な会社行為で必要になることがあるため、3分の1超の株主は、過半数を持たなくても会社にとって重要な存在になり得ます。
さらに、40%前後の株式を持つ株主や、20%前後でも他株主が分散している株主は、単なる小口株主とはいえないことがあります。持株割合だけでなく、会社全体の株主構成、他株主との関係、取締役選任への影響、特別決議への影響を見て、交渉上の意味を判断する必要があります。
権利一覧は「どの権利を使うか」を考える出発点
少数株主権の一覧は、自分がどのような権利を持っているかを確認するために役立ちます。しかし、一覧を見ただけで、すぐにどの権利を使うべきかが決まるわけではありません。
会社の財務状況が分からないのであれば、会計帳簿閲覧請求を検討することがあります。他の株主と連携したいのであれば、株主名簿閲覧請求が重要になることがあります。株主総会で配当方針や役員報酬を議論したいのであれば、株主提案権や株主総会での質問・発言を検討することがあります。
一方で、権利行使の目的や必要性が整理されていないと、会社側から不当目的や権利濫用を主張される可能性もあります。少数株主権は強い道具になり得るからこそ、売却・買取交渉のどの段階で、何を確認するために、どの権利を使うのかを整理することが重要です。
持株比率ごとの権利をより詳しく確認したい場合は、持株比率で変わる株主の権利を確認してください。総会で質問・発言できる範囲については、株主総会で質問・発言できることでも整理しています。
少数株主が直面しやすい問題
少数株主権を検討する場面では、単に「会社に意見を言いたい」というだけでなく、配当、情報開示、役員報酬、株式売却、親族間の関係など、複数の問題が重なっていることが少なくありません。
特に非上場会社・同族会社・親族会社では、株式に市場価格がなく、会社の内部情報も外部から分かりにくいため、少数株主が自分の株式の価値や今後の選択肢を判断しづらい状況になりがちです。
ここでは、少数株主が直面しやすい問題を整理したうえで、それぞれの場面でどの少数株主権が関係しやすいかを確認します。問題の内容によって、使うべき権利も、先に確認すべき資料も変わります。
配当がない・情報が見えない
少数株主から多い相談の一つが、「株式を持っているのに配当がない」「決算書や会社の数字を見せてもらえない」というものです。
会社が利益を出しているのか、内部留保がどの程度あるのか、役員報酬や関連当事者取引が適正なのかが分からなければ、配当を求めるべきか、株式を売却すべきか、買取交渉をすべきかを判断できません。
このような場合、まずは会社の基本情報を確認する必要があります。株主総会の招集通知、決算書類、株主総会議事録、株主名簿、定款、会計帳簿など、確認すべき資料は事案によって異なります。
会社が不透明な状態のままでは、少数株主が「安く買い取られているのか」「本当に株式に価値がないのか」も判断しにくくなります。そのため、情報が見えない問題は、少数株主権を検討する出発点になります。
会社や大株主から安値買取を提示される
会社や大株主から、少数株式を安値で買い取るという提案を受けることもあります。相手方から「少数株式だから価値が低い」「配当がないから高く評価できない」「譲渡制限があるから他には売れない」と説明されることがあります。
しかし、少数株式であることだけを理由に、会社側の提示額が当然に正しいと決まるわけではありません。会社の収益、資産、配当状況、内部留保、株主構成、譲渡制限の内容、過去の取引状況などを確認する必要があります。
もっとも、少数株主権を使えば、会社に希望価格で買い取らせられるわけではありません。少数株主権は、提示額の妥当性を検討するための情報を集めたり、正式な議論の場を作ったりするための手段です。
会社・大株主との任意交渉そのものを詳しく知りたい場合は、少数株式の買取交渉や会社・大株主に株式を買い取ってもらう方法で、交渉の進め方を確認することが重要です。
譲渡制限で第三者売却が止まる
非上場会社では、定款で株式の譲渡について会社の承認を必要とする旨が定められていることが多くあります。このような株式は、一般に譲渡制限株式と呼ばれます。
譲渡制限株式の場合、少数株主が第三者に株式を売却しようとしても、会社が譲渡を承認しないことがあります。その場合、会社又は指定買取人による買取、売買価格決定申立てなどが問題になることがあります。
この場面でも、少数株主権は売却そのものを直接実現する権利ではありません。ただし、会計帳簿閲覧請求によって財務資料を確認したり、株主名簿閲覧請求によって他株主の状況を把握したりすることは、価格交渉や手続選択の準備に役立つことがあります。
譲渡制限株式の売却・買取手続については、譲渡制限株式の買取請求で詳しく整理しています。少数株主権と混同せず、譲渡承認請求や売買価格決定申立てのルートを分けて考える必要があります。
同族会社・親族会社では感情的対立も起きやすい
親族会社や同族会社では、法的な問題だけでなく、親族間の感情的対立が強く影響します。相続で株式を取得したものの経営に関与していない相続人、退職後に株式だけを持ち続けている元役員・従業員、創業家の一部だけが経営に関与している会社などでは、話し合いが進みにくいことがあります。
このような場面では、いきなり強い権利行使をすることが常に適切とは限りません。会社や親族との関係、今後の相続、他の株主との関係、会社の資金繰り、売却希望時期なども踏まえて、どの権利をどの順番で使うかを考える必要があります。
一方で、関係悪化を恐れて何もしないままでは、会社の情報が分からない状態が続き、安値での買取提案を受け入れるかどうかも判断しにくくなります。少数株主保護の考え方を確認したい場合は、少数株主保護の考え方も参考になります。
問題ごとに使う権利は異なる
少数株主が直面する問題は、ひとつの権利だけで解決できるとは限りません。会社の数字が分からない場合、他株主と連携したい場合、総会で議論したい場合、役員の責任を検討したい場合では、使うべき権利が異なります。
- 会社の財務状況や資産内容を確認したい場合は、会計帳簿閲覧請求を検討します。
- 他の株主を把握し、共同で権利行使を検討したい場合は、株主名簿閲覧請求が問題になります。
- 配当方針、役員報酬、役員選任などを正式な議題にしたい場合は、株主提案権や株主総会招集請求を検討します。
- 株主総会で会社に説明を求めたい場合は、質問・発言の範囲を確認する必要があります。
- 不透明支出や役員責任を問題にしたい場合は、株主代表訴訟や差止めなども検討対象になります。
重要なのは、少数株主権を「会社に圧力をかけるための手段」とだけ捉えないことです。どの情報を確認し、どの議題を正式に出し、どの手続で交渉を進めるのかを整理することで、売却・買取交渉の前提を整えることができます。
会計帳簿閲覧請求は情報収集と価格交渉の重要な入口
少数株主権の中でも、非上場会社・同族会社の少数株主にとって特に重要なのが、会計帳簿閲覧請求です。
株式を売却したい、会社や大株主に買い取ってもらいたい、提示された買取価格が妥当か知りたいという場面では、会社の財務状況を確認しなければ判断できません。会社の数字が分からないままでは、交渉の出発点を作ることが難しくなります。
会計帳簿閲覧請求は、原則として一定割合以上の株式又は議決権を持つ株主が、理由を示して会社の会計帳簿や関連資料の閲覧・謄写を求める制度です。具体的な要件や請求方法は会社の種類や事情によって確認が必要ですが、少数株主が会社の内部情報にアクセスするための重要な手段です。
会計帳簿閲覧請求で確認できること
会計帳簿閲覧請求で確認したい事項は、単に「会社の決算が知りたい」という抽象的なものにとどまりません。売却・買取交渉の準備としては、どの項目を確認したいのかを具体的に整理することが重要です。
- 会社の売上、利益、費用の状況
- 現預金、不動産、有価証券、貸付金などの資産内容
- 役員報酬、退職慰労金、親族への支払などの支出
- 関連会社、役員、親族との取引
- 会社から役員・関係者への貸付け又は会社への貸付け
- 内部留保、配当可能性、過去の配当方針
- 過大経費や不透明支出がないか
これらの情報は、株式の価値を考えるうえで重要です。たとえば、会社に多額の内部留保があるのに配当が長年ない場合、役員報酬や関連当事者取引が大きい場合、不動産や有価証券などの資産が決算書上分かりにくい場合には、会社の実態を確認する必要性が高くなります。
ただし、会計帳簿閲覧請求で何でも自由に見られるわけではありません。請求理由、対象資料、確認したい事項を整理し、会社側から拒絶事由を主張される可能性も踏まえて進める必要があります。具体的な要件や手続は、会計帳簿閲覧請求の具体的な進め方で確認してください。
売却・買取交渉前に財務情報を確認する意味
少数株式の売却・買取交渉では、会社側が先に情報を持っていることが多くあります。会社や大株主は、決算内容、資産、負債、将来の事業計画、役員報酬、内部留保を把握している一方、少数株主は、手元にある招集通知や決算書類だけで判断しなければならないことがあります。
この情報格差があるまま買取交渉をすると、会社側から提示された金額が低いのか妥当なのかを検討しにくくなります。会計帳簿閲覧請求は、この情報格差を少しでも縮めるための手段として重要です。
たとえば、会社が「配当できる利益がない」と説明している場合でも、役員報酬、関連当事者取引、貸付金、内部留保、不動産評価などを確認すると、違う見方ができることがあります。また、会社の資産や収益力が確認できれば、非上場株式の評価方法を検討する際の資料にもなります。
非上場株式の価格評価そのものは、会計帳簿閲覧請求だけで決まるものではありません。評価方法や価格算定を詳しく確認したい場合は、非上場株式の評価や非上場株式の評価方法をあわせて確認する必要があります。
最高裁平成16年7月1日判決の位置づけ
会計帳簿閲覧請求と株式売却・価格算定の関係を考えるうえで参考になるのが、最高裁平成16年7月1日第一小法廷判決です。
この判決は、譲渡制限株式の適正な価格を算定する目的で会計帳簿等の閲覧謄写を求めた場合について、特段の事情がない限り、株主権の確保・行使に関する調査目的ではないとして拒まれるものではないという考え方を示しました。また、請求理由は具体的に記載する必要があるものの、その理由を基礎付ける事実の立証までは必要ないと判断しています。
この裁判例から分かるのは、少数株主が株式の売却や価格交渉を検討するために会社の会計情報を確認することは、単なる私的な興味ではなく、株主としての権利行使と結び付く場合があるという点です。
もっとも、この判決があるからといって、どのような請求でも認められるわけではありません。請求の理由が抽象的すぎる場合、対象資料が広すぎる場合、不当目的が疑われる場合には、会社側から拒絶される可能性があります。
目的と必要性を整理して請求する
会計帳簿閲覧請求を検討する場合、最初に整理すべきなのは、何を確認したいのか、なぜその資料が必要なのか、確認した情報をどの権利行使や交渉に使うのかという点です。
たとえば、「会社の株式を売却するにあたり、会社の資産・収益・配当可能性を確認したい」「会社から提示された買取価格の妥当性を検討するため、役員報酬や関連当事者取引を確認したい」「配当が長年ない理由を検討するため、利益処分や内部留保の状況を確認したい」といった形で、目的を具体化することが重要です。
逆に、「会社を困らせたい」「経営陣に圧力をかけたい」という見え方になると、会社側から不当目的や権利濫用を主張されやすくなります。少数株主側としては、感情的な対立を前面に出すのではなく、株主として必要な情報を確認するための正式な手続として整理することが大切です。
- 自分の持株数・議決権割合が要件を満たしているか
- どの帳簿・資料を確認したいのか
- 確認したい理由は具体的か
- 売却、買取交渉、配当請求、役員責任追及など、どの目的と関係するか
- 会社側から想定される拒絶理由にどう備えるか
会計帳簿閲覧請求は、少数株主にとって強力な入口になり得ます。ただし、その目的は、会社に株式を買い取らせること自体ではなく、交渉や権利行使に必要な情報を整理することです。この点を誤解しないことが、実務上も重要です。
株主名簿閲覧請求・株主提案権・総会対応で正式な議論の場を作る
少数株主権は、財務情報を確認するためだけのものではありません。他の株主を把握し、株主総会で議題を出し、会社に説明を求めることで、正式な議論の場を作る役割もあります。
ただし、ここでも重要なのは、権利行使を「嫌がらせ」や「圧力」としてではなく、会社法上の正式な手続として整理することです。目的と必要性が整理されていれば、会社や大株主との交渉でも、感情論ではなく制度に基づいて話を進めやすくなります。
株主名簿閲覧請求で他株主を把握する
株主名簿閲覧請求は、他の株主が誰か、どの程度の株式を持っているかを確認するために重要です。非上場会社では、株主が親族、創業者一族、元役員、従業員、取引先などに分散していることがあり、少数株主が自分だけで交渉しても会社が動かない場合があります。
他の株主を把握できれば、同じように配当がないことに不満を持っている株主、会社から安値買取を提示されている株主、会社の情報開示に疑問を持っている株主と連携できる可能性があります。
東京高裁平成20年6月12日決定は、株主提案について委任状勧誘を行うための株主名簿閲覧請求が問題となった事案で、株主名簿閲覧請求が株主の権利確保・行使や会社機関の監視に関係する制度であることを示しています。
この裁判例は公開会社・委任状勧誘の文脈が強いものですが、少数株主が他株主を把握し、共同して権利行使を検討するという発想は、非上場会社でも参考になります。具体的な手続や注意点は、株主名簿閲覧請求の使い方で確認してください。
株主提案権で議題・議案を出す
株主提案権は、一定の要件を満たす株主が、株主総会で議論してほしい事項や議案を会社に提案する制度です。少数株主が会社に対して正式に問題提起する手段として、重要な位置づけがあります。
たとえば、配当方針、役員選任・解任、役員報酬、退職慰労金、定款変更、情報開示、関連当事者取引の見直しなど、会社の重要事項を正式な議論の対象にできる場合があります。
もっとも、株主提案権を使えば、提案内容が当然に可決されるわけではありません。議決権割合、他株主の意向、提案内容の適法性、期限、形式、会社側の反対意見などを踏まえて、現実的な方針を立てる必要があります。
株主提案権や株主総会招集請求の要件・手続を詳しく確認したい場合は、株主提案権の要件・手続を確認してください。本記事では、少数株主権全体の中で、正式な議論の場を作る手段として位置づけます。
株主総会招集請求で会社に総会開催を求める
会社が必要な議論を避けている場合には、株主総会招集請求が問題になることがあります。これは、一定割合以上の株主が、株主総会の目的事項と招集理由を示して、取締役に株主総会の招集を求める制度です。
会社が任意に対応しない場合には、裁判所の許可を得たうえで、株主側が総会を招集する制度が問題になることもあります。ただし、これは手続上の負担も大きく、要件や期限、議題設定、招集通知、議事運営などを慎重に確認する必要があります。
株主総会招集請求は、売却・買取を直接実現する手続ではありません。しかし、配当方針、会社の情報開示、役員報酬、役員選任、会社財産の流出などを正式に議論する場を作ることで、交渉環境を変えるきっかけになることがあります。
株主総会で質問・発言する
株主総会では、株主が議案や会社の状況について質問・発言する場面があります。少数株主にとって、会社に対して直接説明を求める貴重な機会になることがあります。
たとえば、配当がない理由、役員報酬の考え方、関連当事者取引の内容、会社の資産状況、株式買取の方針、譲渡制限株式の取扱いなどについて、株主総会で質問することが考えられます。
もっとも、株主総会での質問・発言は無制限ではありません。取締役等の説明義務には範囲があり、議案や報告事項との関係、平均的な株主が合理的に判断するために必要な説明かどうか、議事運営上の制約などが問題になります。
株主総会でどこまで質問・発言できるか、議長が質問を打ち切った場合にどう考えるかなどは、株主総会で質問・発言できることで詳しく整理しています。
経営に口出しできる範囲は限られる
少数株主からは、「株主なのだから経営に口出しできるのではないか」という相談もあります。たしかに、株主は議決権、株主提案権、株主総会での質問・発言、会計帳簿閲覧請求、株主代表訴訟などを通じて、会社に一定の関与をすることができます。
しかし、株主は日常業務を直接指揮する立場ではありません。取引先への対応、従業員の配置、日々の営業判断、個別の契約締結などは、原則として取締役の業務執行の領域です。
そのため、少数株主ができることは、「経営陣に代わって日常業務を動かすこと」ではなく、「株主として情報を確認し、総会で意思表示し、法的手続を通じて不当な会社運営を是正すること」です。
この線引きを誤ると、会社側から「業務妨害」「不当な目的」と反論されやすくなります。株主が経営にどこまで関与できるかは、株主が経営にどこまで口出しできるかで整理しています。
権利行使は目的を整理して進める
株主名簿閲覧請求、株主提案権、株主総会招集請求、株主総会での質問・発言はいずれも、少数株主にとって重要な権利です。しかし、権利行使の目的が不明確なまま進めると、会社側から拒絶されたり、対立が激化したりする可能性があります。
最高裁平成2年4月17日判決は、株主名簿の閲覧・謄写請求について、不当な意図・目的によるなど権利濫用と認められる場合には、会社が請求を拒絶できると判断しています。
この裁判例は、少数株主側にとっても重要な注意点です。会社に不満がある場合でも、嫌がらせや報復と見られるような形ではなく、株主としての権利確保、会社価値の確認、正式な議論のために必要な手続として整理する必要があります。
少数株主権は、感情的な対立を強めるための道具ではありません。会社の情報を確認し、他株主との関係を整理し、株主総会で正式に議論し、必要に応じて売却・買取交渉につなげるための制度です。目的と順番を整理して使うことで、権利行使の効果を高めやすくなります。
株主代表訴訟・差止め・検査役選任申立ては会社価値回復の手段になり得る
少数株主権の中には、会社の情報を確認する権利だけでなく、役員の責任追及や違法行為の是正に関係する権利もあります。代表的なものとして、株主代表訴訟、取締役の違法行為の差止め、検査役選任申立てなどが問題になります。
これらの手段は、少数株主が会社に株式を買い取らせるための直接の手段ではありません。しかし、役員の不正支出、過大な役員報酬、関連当事者取引、会社財産の流出などがある場合には、会社価値を確認・回復するための手段として意味を持つことがあります。
会社価値が回復すれば、株式価値や買取交渉の前提に影響する場合があります。したがって、株主代表訴訟や差止めは、売却・買取交渉とは別の制度でありながら、交渉環境を整える補助的な手段として検討されることがあります。
株主本人が直接お金を受け取る制度ではない
株主代表訴訟について、少数株主が誤解しやすい点があります。それは、株主代表訴訟を起こして役員の責任が認められても、原則として賠償金は株主本人ではなく会社に支払われるという点です。
株主代表訴訟は、会社が役員に対して持っている責任追及の権利を、一定の要件のもとで株主が会社に代わって追及する制度です。したがって、株主本人が直接損害賠償金を受け取る制度ではありません。
たとえば、役員が会社財産を不当に流出させた場合、株主代表訴訟によって役員が会社に賠償することになれば、会社の財産が回復します。その結果として会社価値が改善し、少数株式の価値や買取交渉に間接的な影響が出る可能性はあります。
しかし、「代表訴訟をすれば自分にお金が入る」と考えると、制度の使い方を誤ります。株主代表訴訟の詳細な要件や流れを確認したい場合は、株主代表訴訟を検討する場合を確認してください。
会社価値が回復すれば株式価値に影響することがある
少数株主が株式売却や買取交渉を考えるとき、会社の価値がどのように形成されているかは重要です。会社に利益や資産があるにもかかわらず、役員報酬、親族への支払、関連会社との取引、貸付金、不透明な経費などによって会社財産が減少している場合、株式価値の判断にも影響する可能性があります。
このような場合、会計帳簿閲覧請求などで実態を確認したうえで、役員の責任追及を検討することがあります。会社財産の流出が是正され、会社に財産が戻れば、会社価値が回復する余地があります。
ただし、会社価値の回復が、直ちに少数株主の希望どおりの売却価格や買取価格につながるわけではありません。非上場株式の評価では、会社の資産、収益、配当、持株割合、株主構成、譲渡制限など、複数の要素が問題になります。
そのため、代表訴訟や差止めを検討する場合でも、目的を「株式を買い取らせるための圧力」としてではなく、会社財産の流出を是正し、会社価値と株式価値を正しく把握するための手段として整理することが重要です。
役員報酬・利益相反取引・不透明支出を確認する
少数株主からは、会社が配当を出さない一方で、経営陣や親族に高額な役員報酬が支払われている、関連会社に不自然な支払がある、会社資産が親族や役員に有利に使われているのではないか、という相談が寄せられることがあります。
このような場合、まずは事実関係の確認が必要です。決算書だけでは分からない支出の内容、役員報酬の決定手続、関連当事者取引の内容、貸付金や立替金の有無などを確認しなければ、役員責任の有無や交渉材料として使えるかを判断できません。
特に役員報酬については、会社法上、株主総会決議や定款の定めとの関係が問題になることがあります。役員報酬に株主総会決議がない場合の考え方は、役員報酬に株主総会決議がない場合で詳しく整理しています。
不透明支出があると感じる場合でも、すぐに代表訴訟を起こすのが常に適切とは限りません。会計帳簿閲覧請求、会社への説明要求、株主総会での質問、株主提案権、弁護士による内容証明など、段階的に整理することが重要です。
差止めや検査役選任申立ては最終的手段として検討する
取締役が法令・定款に違反する行為をしようとしている場合や、会社に回復しがたい損害が生じるおそれがある場合には、差止めが問題になることがあります。また、会社の業務や財産状況に重大な疑いがある場合には、検査役選任申立てが検討されることもあります。
これらは、少数株主にとって強い手段です。そのため、使う場面は慎重に判断する必要があります。会社との関係が悪化しているからといって、感情的に差止めや検査役選任を求めればよいわけではありません。
少数株主側としては、どの行為が問題なのか、会社にどのような損害が生じるのか、他の手段では足りないのか、証拠として何を示せるのかを整理する必要があります。弁護士費用や手続負担も無視できません。
株主代表訴訟や関連手続の費用が気になる場合は、株主代表訴訟の弁護士費用も確認しておくと、手続選択の現実性を判断しやすくなります。
- 会社財産の流出や不透明支出について、具体的な根拠があるか
- 会計帳簿閲覧請求などで事実関係を確認できるか
- 株主総会で質問・提案することで解決の糸口を作れるか
- 代表訴訟や差止めを使う必要性・相当性があるか
- 株式売却・買取交渉との関係をどのように整理するか
株主代表訴訟、差止め、検査役選任申立ては、少数株主本人が直接株式を換価する手段ではありません。しかし、会社価値を毀損している事情がある場合には、その是正が株式価値や交渉環境に影響することがあります。売却・買取交渉と切り分けつつ、必要な場面では検討する価値があります。
少数株主権を使っても、会社に株式を買い取らせる権利が当然に生じるわけではない
少数株主権を調べている読者の中には、「少数株主権を行使すれば、会社に株式を買い取ってもらえるのではないか」と期待している方もいます。しかし、この点は明確に区別する必要があります。
少数株主には、単に株式を保有しているだけで、会社に株式を買い取らせる一般的な権利はありません。少数株主権は、情報収集、株主総会での議論、会社価値の確認・回復、役員責任の追及などに関する権利であり、それ自体が一般的な買取請求権になるわけではありません。
ただし、少数株主権は、株式売却・買取交渉に役立たないという意味ではありません。会社の財務状況を確認し、他株主を把握し、正式な議論の場を作り、価格評価の前提資料を整えることで、交渉を進めやすくなる場合があります。
少数株主には一般的な買取請求権はない
少数株主がまず押さえるべきなのは、「少数株主であること」だけを理由に、会社や大株主に株式を買い取らせることはできないという点です。
非上場会社では株式の売却先が見つかりにくく、配当もないため、少数株主としては「会社が買い取るべきではないか」と感じることがあります。特に親族会社・同族会社では、経営陣だけが報酬を受け取り、少数株主には何も還元されないように見えることもあります。
しかし、会社法は、少数株主が不満を持っているという理由だけで、会社に常に株式買取義務を負わせているわけではありません。会社や大株主に買い取ってもらうには、任意交渉、譲渡制限株式の手続、契約上の買取請求、組織再編などの例外的場面を分けて検討する必要があります。
この点を混同すると、少数株主権の行使に過度な期待をしてしまい、会社側との交渉がこじれることがあります。少数株主権は、買取義務を発生させる魔法のような制度ではなく、交渉のための情報と手続を整える制度として理解することが大切です。
少数株主権は売却・買取交渉の補助手段
少数株主権は、株式を直接換価する権利ではありませんが、売却・買取交渉の補助手段として重要です。
たとえば、会計帳簿閲覧請求によって会社の資産や収益を確認できれば、会社から提示された買取価格が妥当かを検討しやすくなります。株主名簿閲覧請求によって他株主を把握できれば、同じ立場の株主と共同で交渉する可能性を検討できます。株主提案権や株主総会での質問を通じて、配当方針や役員報酬を正式な議論に乗せることも考えられます。
また、役員の不透明支出や会社財産の流出がある場合には、代表訴訟や差止めなどを検討することで、会社価値の回復を図れる場合があります。会社価値が回復すれば、結果として株式価値や買取交渉に影響することがあります。
このように、少数株主権は「買取請求権そのもの」ではなく、「買取交渉をするための土台を作る権利」と位置づけると分かりやすくなります。
買取を求める場合は別のルートを検討する
会社や大株主に株式を買い取ってもらいたい場合には、少数株主権とは別に、買取・売却のルートを検討する必要があります。
- 会社や大株主に任意で買い取ってもらう交渉をする
- 第三者への売却先を探す
- 譲渡制限株式について譲渡承認請求を行う
- 譲渡が承認されない場合に、会社又は指定買取人による買取を検討する
- 売買価格について合意できない場合に、売買価格決定申立てを検討する
- 株主間契約や投資契約に買取条項がある場合に、契約上の請求を検討する
- 組織再編やスクイーズアウトなど、法定の株式買取請求が問題になる場面を確認する
任意交渉を進める場合は、少数株式の買取交渉や会社・大株主に株式を買い取ってもらう方法を確認する必要があります。
一方で、第三者売却や譲渡制限株式の手続が問題になる場合は、非上場株式を売却する方法や少数株式を売却する方法を確認したうえで、譲渡承認請求や指定買取人のルートを検討します。
例外的に法定買取請求が問題になる場面
少数株主には一般的な買取請求権はありませんが、例外的に、会社法上の手続の中で株式買取請求が問題になる場面があります。
たとえば、一定の組織再編、事業譲渡、スクイーズアウトなど、会社の重要な行為に反対する株主について、法定の株式買取請求権が問題になることがあります。また、譲渡制限株式について第三者への譲渡が承認されない場合には、会社又は指定買取人による買取と価格決定の手続が問題になります。
これらは、「少数株主だからいつでも買い取らせられる」という権利ではなく、特定の手続・要件がある場面で認められるものです。反対株主の買取請求やスクイーズアウトの場面は、反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求で整理しています。
少数株主としては、自分の状況が任意交渉の場面なのか、譲渡制限株式の手続なのか、組織再編等に伴う法定買取請求の場面なのかを切り分けることが重要です。この切り分けを誤ると、使うべき手続や交渉相手を間違えてしまいます。
会計帳簿閲覧請求、株主名簿閲覧請求、株主提案権、株主代表訴訟などは、少数株主が会社に対して使える重要な権利です。しかし、それらを行使しただけで、会社に株式を買い取らせる一般的な権利が発生するわけではありません。買取を求める場合は、任意交渉、譲渡制限株式の手続、契約上の買取条項、反対株主の買取請求などを別に検討する必要があります。
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譲渡制限株式・売買価格決定申立てとの関係
非上場会社・同族会社の株式では、定款で譲渡制限が定められていることが多くあります。譲渡制限株式の場合、少数株主が第三者に株式を売却しようとしても、会社の承認が必要になることがあります。
会社が譲渡を承認しない場合には、会社又は指定買取人による買取、売買価格の協議、裁判所による売買価格決定申立てなどが問題になります。このルートは、少数株主権そのものとは別の手続ですが、少数株主権によって集めた情報が価格交渉や申立て準備に役立つことがあります。
非上場会社では譲渡制限株式が多い
上場株式であれば、市場で売却することができます。しかし、非上場会社の株式には市場がなく、買い手を見つけること自体が難しいことがあります。さらに、定款で譲渡制限がある場合、買い手が見つかっても会社の承認を得なければ譲渡できないことがあります。
同族会社や親族会社では、外部の第三者が株主になることを会社側が嫌がることもあります。そのため、少数株主が第三者への売却を申し出ると、会社が譲渡を承認せず、会社や指定買取人による買取が問題になることがあります。
この場面では、単に「少数株主権を使う」だけでは足りません。譲渡承認請求、不承認通知、指定買取人、供託、価格協議、売買価格決定申立てなど、譲渡制限株式特有の手続を確認する必要があります。
譲渡制限株式の手続を詳しく知りたい場合は、譲渡制限株式の買取請求を確認してください。本記事では、少数株主権との関係に絞って整理します。
第三者譲渡が不承認になった場合の流れ
少数株主が第三者への株式譲渡を希望する場合、譲渡制限株式では、会社に譲渡承認を求めることになります。会社が譲渡を承認すれば、その第三者に売却する方向で進みます。
一方、会社が譲渡を承認しない場合には、会社又は指定買取人が株式を買い取る手続が問題になることがあります。この場合、誰が買い取るのか、いくらで買い取るのか、価格に合意できない場合にどうするのかが重要です。
価格について合意できない場合には、裁判所に売買価格の決定を申し立てる手続が問題になります。これは、会社側の提示額や少数株主側の希望額だけで価格が決まるのではなく、裁判所が会社の資産状態その他の事情を踏まえて価格を定める手続です。
このように、譲渡制限株式の買取は、単なる任意交渉とは異なります。期限や手続の進め方を誤ると不利益が生じる可能性があるため、早い段階で手続全体を確認することが重要です。
売買価格決定申立てで価格が争われることがある
売買価格決定申立てでは、株式の価格が中心的な争点になります。非上場株式には市場価格がないため、会社の資産、収益、配当状況、株主構成、譲渡される株式の割合、買主・売主の立場などを踏まえて、価格評価が争われます。
東京地裁平成26年9月26日決定は、譲渡制限株式の売買価格決定において、DCF法、純資産法、配当還元法を併用し、1株693円と定めた事案です。会社側の提示額だけで価格が当然に決まるわけではなく、評価方法や当事者の立場が具体的に問題になることを示す例といえます。
ただし、本記事では評価方法の詳細には深入りしません。DCF法、純資産法、配当還元法の考え方、裁判所がどのように評価方法を選択するか、売主・買主の立場をどう考えるかは、価格・評価の記事で詳しく確認する必要があります。
売買価格決定申立ての流れや裁判例を詳しく確認したい場合は、売買価格決定申立てを確認してください。株式評価全体については、非上場株式の評価も参考になります。
少数株主権で資料を整理しておく意味
譲渡制限株式の買取や売買価格決定申立てを見据える場合、少数株主権による資料整理が重要になることがあります。
たとえば、会計帳簿閲覧請求によって会社の資産・収益・関連当事者取引・役員報酬を確認できれば、価格交渉や評価資料の検討に役立ちます。株主名簿閲覧請求によって株主構成を把握できれば、自分の持株割合が会社全体の中でどのような意味を持つかを整理できます。株主総会での質問や株主提案を通じて、配当方針や会社の資産活用について会社の説明を引き出せる場合もあります。
このような情報は、売却・買取交渉の前提資料になります。もちろん、少数株主権を行使したからといって、裁判所の価格判断が少数株主に有利になるとは限りません。しかし、会社側の説明だけを前提にせず、必要な資料を確認したうえで価格交渉を進めることには大きな意味があります。
特に、会社から安値での買取提案を受けている場合、財務情報を確認しないまま合意してしまうと、後から価格の妥当性を検討することが難しくなります。会社の数字、株主構成、譲渡制限の内容、過去の取引、配当状況を整理したうえで、売却ルートと権利行使を組み合わせて検討することが重要です。
少数株主権と譲渡制限株式の手続を混同しない
最後に、少数株主権と譲渡制限株式の手続は、役割が異なることを整理しておきます。
少数株主権は、会社に対して情報を求めたり、正式な議論を求めたり、会社価値の確認・回復を図ったりするための権利です。これに対して、譲渡制限株式の手続は、株式を第三者に譲渡しようとした場合に、会社の承認や指定買取人、売買価格決定が問題になる手続です。
両者は別の制度ですが、実務上は関係します。売却・買取交渉を進めるためには、まず少数株主権で情報を整理し、そのうえで任意交渉、第三者売却、譲渡承認請求、売買価格決定申立てなどを検討する流れが考えられます。
そのため、少数株主としては、「どの権利を使えば会社に買い取らせられるか」と考えるのではなく、「売却・買取に向けて、どの情報を確認し、どの手続を選択するか」と考えることが重要です。少数株主権は、その判断のための土台を作る制度として活用します。
裁判例から見る「少数株主の中にも種類がある」こと
少数株主という言葉からは、「会社に対して弱い立場の小口株主」というイメージを持たれがちです。しかし、実際には、少数株主の中にもさまざまな種類があります。1株だけの株主と、3%を超える株主、10%前後の株主、3分の1を超える株主、40%前後の株主では、会社に対する影響力も、株式の価格評価で問題になる事情も異なります。
裁判例を見ても、非上場会社の株式価格を判断する場面では、会社の資産や収益だけでなく、譲渡対象株式の割合、株主構成、売主・買主の立場、配当状況、支配株主か一般株主かといった事情が問題になります。
もっとも、本記事は少数株主権の総論ページです。ここでは裁判例の詳細な事実関係や評価方法には深入りせず、「少数株主の中にも種類がある」という点を理解するために、代表的な裁判例を短く紹介します。
40%前後の株主は単なる小口株主とは限らない
東京高裁平成20年4月4日決定は、デジタルコンテンツ配信事業を営む非上場会社の譲渡制限株式について、収益還元方式により売買価格を定めた事案です。この事案では、譲渡対象となった株式が発行済株式の40%相当であり、過半数には届かないものの、会社の重要事項に影響し得る規模の株式でした。
40%前後の株主は、形式的には少数株主であっても、単なる小口株主とは異なります。たとえば、特別決議が必要な事項では、3分の1を超える議決権を持つ株主が反対することで決議に影響する場合があります。
そのため、40%前後の株式を持つ少数株主が売却・買取交渉を行う場合、会社側から「少数株式だから価値が低い」と一方的に評価されるとは限りません。会社の株主構成、他株主との関係、重要決議への影響、譲渡後の支配関係を踏まえて、交渉上の位置づけを検討する必要があります。
約19%でも株主構成によって意味が変わる
大阪地裁平成25年1月31日決定は、譲渡制限株式の売買価格決定において、収益還元法による価格を重視しつつ、配当還元法による価格も考慮して、1株2460円と定めた事案です。譲渡対象となった株式は、発行済株式総数に対して約19%に相当する規模でした。
約19%という割合は、単独で会社を支配できる割合ではありません。しかし、他の株主が分散している場合や、会社の重要な意思決定に影響し得る場合には、単なる零細株主とは異なる意味を持つことがあります。
少数株主の交渉力は、持株割合だけで機械的に決まるものではありません。会社の株主名簿、親族関係、他株主との連携可能性、取締役選任への影響、会社側が第三者株主をどれほど避けたいかによって、交渉上の重みが変わることがあります。
このような点を整理するためにも、株主名簿の確認や、持株比率別の権利の整理が重要です。自分の持株割合が会社全体の中でどのような意味を持つかを確認したい場合は、持株比率で変わる株主の権利を確認してください。
会社側提示額だけで価格が決まるわけではない
東京地裁平成26年9月26日決定は、譲渡制限株式の売買価格決定において、DCF法、純資産法、配当還元法を組み合わせ、1株693円と定めた事案です。この裁判例は、非上場株式の価格が、会社側の提示額や少数株主側の希望額だけで当然に決まるものではなく、複数の評価方法や当事者の立場を踏まえて判断され得ることを示す例です。
非上場株式の価格評価では、会社の収益力を重視するのか、純資産を重視するのか、配当を重視するのかが問題になります。さらに、譲渡される株式の割合、支配株主か一般株主か、譲渡制限があるか、会社の事業継続性はどうか、といった事情も考慮されます。
少数株主としては、会社から提示された価格をそのまま受け入れる前に、その価格がどのような資料と評価方法に基づくものかを確認することが重要です。決算書や会計帳簿の内容を確認せずに合意すると、後から価格の妥当性を検討することが難しくなります。
評価方法の詳細は価格・評価記事で確認する
裁判例を見ると、非上場株式の評価では、配当還元法、収益還元法、DCF法、純資産法、類似業種比準方式、取引事例など、さまざまな方法が問題になります。ただし、どの方法が常に正しいというものではありません。
会社の規模、業種、収益力、資産内容、配当状況、譲渡対象株式の割合、株主構成、支配関係などによって、適切な評価方法は変わります。そのため、本記事では、評価方法そのものの詳しい説明は行いません。
非上場株式の評価方法を詳しく知りたい場合は、非上場株式の評価や非上場株式の評価方法を確認してください。裁判所で価格を決める手続については、売買価格決定申立てで詳しく整理しています。
- 少数株主といっても、持株割合によって交渉上の意味は変わる
- 3分の1超や40%前後の株主は、重要決議に影響し得る場合がある
- 20%前後でも、株主構成によって無視できない存在になることがある
- 会社側の提示額だけで非上場株式の価格が決まるわけではない
- 価格交渉では、会社の資産・収益・配当・株主構成を確認することが重要
弁護士に相談すべき場面
少数株主権は、会社法上の正式な権利です。一方で、どの権利を、どの順番で、どの程度まで行使するかは、会社との関係や売却・買取交渉の状況によって変わります。権利行使の目的が整理されていないと、会社側から不当目的や権利濫用を主張され、かえって交渉が難しくなることもあります。
特に、非上場会社・同族会社・親族会社の少数株主問題では、法律問題だけでなく、親族関係、相続、税務、会社の資金繰り、将来の事業承継などが重なりやすいです。早い段階で資料を整理し、どのルートを選ぶべきかを検討することが重要です。
帳簿や決算情報を見せてもらえない場合
会社の決算書、会計帳簿、役員報酬、関連当事者取引、貸付金、内部留保、配当可能性などが分からない場合、売却・買取交渉を適切に進めることは難しくなります。
会社から「少数株主には見せる必要がない」「経営に関係ないから説明しない」と言われても、株主として確認できる情報や、一定割合以上の株主が請求できる情報があります。特に会計帳簿閲覧請求は、会社の数字を確認する重要な入口になります。
ただし、請求理由や対象資料の整理が不十分だと、会社側から拒絶される可能性があります。どの帳簿を、何のために、どの範囲で確認するのかを整理してから進めることが大切です。
安値買取を提示された場合
会社や大株主から、少数株式を安値で買い取る提案を受けることがあります。非上場株式には市場価格がないため、提示額が妥当かどうかをすぐに判断することは簡単ではありません。
会社側は、配当がない、譲渡制限がある、買い手がいない、少数株式だから価値が低い、と説明することがあります。しかし、会社に資産や収益がある場合、役員報酬や関連当事者取引で利益が外に出ている場合、株主構成上一定の影響力がある場合には、提示額をそのまま受け入れる前に検討すべき事情があります。
買取提案を受けた場合は、価格の根拠、会社の決算資料、過去の配当状況、他株主との取引事例、定款の譲渡制限、相手方の意図を確認することが重要です。任意交渉の進め方は、会社・大株主に株式を買い取ってもらう方法も参考になります。
譲渡制限で売却が止まった場合
第三者に株式を売却しようとしても、譲渡制限があるために会社の承認が必要になることがあります。会社が譲渡を承認しない場合には、会社又は指定買取人による買取、価格協議、売買価格決定申立てが問題になる可能性があります。
この場面では、期限や手続を誤ると不利益が生じることがあります。譲渡承認請求をどのように出すか、会社からどのような通知が来たか、指定買取人が誰か、価格協議の期限はどうか、供託や申立てが必要かを確認する必要があります。
少数株主権による情報収集と、譲渡制限株式の買取手続は別の制度です。しかし、会社の財務資料や株主構成を確認しておくことは、価格交渉や売買価格決定申立ての準備に役立ちます。
相続・親族会社で関係が悪化している場合
相続によって親族会社の株式を取得した場合、株主であっても会社経営に関与していないことがあります。会社を経営している親族から十分な説明を受けられず、配当もないまま、相続税評価額だけが問題になることもあります。
親族会社では、法律上の権利行使が、親族関係の悪化と結びつきやすいです。そのため、いきなり強い請求をするのではなく、資料確認、株主構成の把握、売却可能性、会社・大株主への買取交渉、相続人間の関係を整理する必要があります。
相続した非上場株式をどう扱うかは、税務評価、売却価格、買取交渉、遺産分割、将来の相続にも関係します。税理士や公認会計士と連携しながら、法的手続と価格評価を切り分けて検討することが重要です。
相談前に準備すべき資料
少数株主権の行使や売却・買取交渉について相談する場合、事前に資料を整理しておくと、方針を立てやすくなります。すべての資料がそろっていなくても相談はできますが、可能な範囲で次のような資料を確認しておくとよいでしょう。
- 保有株式数や議決権割合が分かる資料
- 株主名簿、株券、株式取得時の契約書・通知書
- 会社の定款、登記簿、株主総会招集通知、議事録
- 決算書、事業報告、計算書類、配当通知
- 会社や大株主からの買取提案書、メール、内容証明
- 譲渡承認請求や会社からの不承認通知に関する資料
- 相続で取得した場合は、遺産分割協議書、相続税申告書、株式評価明細書
- 役員報酬、関連当事者取引、貸付金、不透明支出に関する手元資料
費用面が気になる場合は、少数株主の弁護士費用を確認してください。実際の解決イメージを知りたい場合は、少数株主の解決事例も参考になります。
少数株主権に関するよくある質問
少数株主権とは何ですか。
少数株主権とは、会社の支配権を持たない株主であっても、一定の要件を満たすことで会社に対して行使できる権利をいいます。会計帳簿閲覧請求、株主総会招集請求、株主提案権、検査役選任申立て、株主代表訴訟などが代表例です。
なお、法律上は、1株でも使える単独株主権と、一定割合以上の株式・議決権が必要な少数株主権が区別されます。本記事では、読者が使える権利を理解しやすいように、単独株主権も含めて「少数株主が会社に対して使える権利」として整理しています。
少数株主とは何%以下の株主ですか。
少数株主とは、一般に会社の支配権を持たない株主をいいます。過半数の議決権を持たない株主を指して使われることが多いですが、単純に49%以下と考えるだけでは不十分です。
1株だけの株主、3%以上の株主、10%以上の株主、3分の1超の株主、40%前後の株主では、使える権利や交渉上の意味が異なります。特に3分の1超の株主は、特別決議に影響し得るため、単なる小口株主とはいえない場合があります。
少数株主には会社に株式を買い取らせる権利がありますか。
少数株主であるという理由だけで、会社に株式を買い取らせる一般的な権利はありません。会計帳簿閲覧請求や株主提案権などを行使しても、それだけで会社に買取義務が発生するわけではありません。
ただし、譲渡制限株式について第三者への譲渡が不承認になった場合、組織再編等に反対する場合、契約に買取条項がある場合など、別の手続や根拠により買取が問題になることはあります。少数株主権と買取請求権は分けて考える必要があります。
会計帳簿閲覧請求には何%の株式が必要ですか。
会計帳簿閲覧請求は、原則として総株主の議決権又は発行済株式の一定割合以上を持つ株主が検討できる権利です。一般には3%以上が目安になりますが、会社の種類、議決権の有無、定款、保有状況によって具体的な確認が必要です。
会計帳簿閲覧請求は、会社の資産、収益、役員報酬、関連当事者取引、貸付金、配当可能性を確認するために重要です。詳しくは、会計帳簿閲覧請求の具体的な進め方で整理しています。
株主名簿閲覧請求は何のために使えますか。
株主名簿閲覧請求は、他の株主の構成を把握するために使われます。少数株主が自分以外の株主を確認し、共同して権利行使できる可能性を検討したり、株主提案や総会対応のために他株主へ働きかけたりする場面で重要になります。
もっとも、株主名簿閲覧請求も無制限に使えるわけではありません。権利行使の目的を整理せず、不当な目的や嫌がらせと評価されるような使い方をすると、会社側から拒絶や権利濫用を主張される可能性があります。
株主総会で質問・発言することはできますか。
株主は、株主総会で議案や報告事項に関して質問・発言できる場合があります。取締役等は、株主から説明を求められた事項について、議決権行使の判断に必要な範囲で説明する義務を負うことがあります。
ただし、質問・発言は無制限ではありません。議案と関係のない質問、重複する質問、議事進行を妨げる態様の質問については、議長の議事整理との関係で制限されることがあります。詳しくは、株主総会で質問・発言できることを確認してください。
株主提案権は売却・買取交渉に役立ちますか。
株主提案権そのものは、会社に株式を買い取らせる権利ではありません。しかし、配当方針、役員選任、役員報酬、情報開示、関連当事者取引などを株主総会の議題・議案にすることで、会社との正式な議論の場を作れる場合があります。
売却・買取交渉を進める前提として、会社の姿勢や他株主の反応を確認する意味を持つことがあります。株主提案権の要件や手続については、株主提案権の要件・手続を確認してください。
持株比率によって使える権利は変わりますか。
はい。持株比率や議決権割合によって、使える権利は変わります。1株でも使える権利もありますが、株主提案権、会計帳簿閲覧請求、株主総会招集請求、検査役選任申立てなどは、一定の持株割合や議決権割合が必要になることがあります。
また、3分の1超や40%前後の株主は、過半数を持たなくても重要決議に影響することがあります。持株比率別の詳細は、持株比率で変わる株主の権利で確認できます。
株主代表訴訟をすると株主本人が賠償金を受け取れますか。
原則として、株主代表訴訟で役員の責任が認められても、賠償金は株主本人ではなく会社に支払われます。株主代表訴訟は、会社が役員に対して持つ責任追及権を、株主が会社に代わって行使する制度だからです。
ただし、会社に財産が戻れば、会社価値が回復し、結果として株式価値や買取交渉に影響する場合があります。株主代表訴訟の目的を、株主本人の直接回収ではなく、会社価値の回復として整理することが重要です。
会社から安値での買取を提示された場合、どう対応すべきですか。
まず、提示額の根拠を確認することが重要です。会社の決算書、配当状況、純資産、収益、役員報酬、関連当事者取引、過去の取引事例、譲渡制限の内容などを確認しないまま合意すると、後から価格の妥当性を検討しにくくなります。
必要に応じて、会計帳簿閲覧請求、株主名簿閲覧請求、任意交渉、譲渡承認請求、売買価格決定申立てなどを検討します。価格交渉や売却ルートについては、少数株主権の行使と買取・売却手続を切り分けて考えることが大切です。
まとめ|少数株主権は売却・買取交渉の土台を整える権利
少数株主権は、会社の支配権を持たない株主が、会社に対して情報を求めたり、正式な議論を求めたり、会社経営を監視したりするための重要な権利です。会計帳簿閲覧請求、株主名簿閲覧請求、株主提案権、株主総会招集請求、株主代表訴訟などは、少数株主が不利な立場に置かれたときの重要な選択肢になります。
もっとも、少数株主権は、会社に当然に株式を買い取らせる権利ではありません。売却・買取を実現するには、任意交渉、第三者売却、譲渡承認請求、指定買取人、売買価格決定申立て、契約上の買取条項、法定の株式買取請求など、別のルートを検討する必要があります。
- 少数株主権は、情報収集・正式な議論・会社価値の確認に役立つ権利です。
- 少数株主といっても、持株割合や株主構成によって立場は変わります。
- 会計帳簿閲覧請求は、売却・買取交渉の前提資料を整理する重要な入口です。
- 少数株主権を行使しても、会社に株式を買い取らせる一般的な権利は発生しません。
- 会社から安値買取を提示された場合は、価格の根拠と会社の資料を確認してから判断することが重要です。
少数株主として重要なのは、「どの権利を使えば会社に買い取らせられるか」と考えることではありません。自分の持株割合、会社の株主構成、会社の財務状況、譲渡制限の有無、売却先の有無、価格評価の根拠を整理し、どの手続をどの順番で使うかを考えることです。
坂尾陽弁護士
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