売買価格決定申立てとは|譲渡制限株式・少数株式の価格を裁判所で決める手続

譲渡制限株式や非上場会社の少数株式では、会社や大株主から提示された価格に納得できないことがあります。特に、第三者へ譲渡しようとしたところ会社が承認せず、会社又は指定買取人が買い取る流れになった場合、当事者間の協議だけで価格が決まらないことがあります。

このような場面で重要になるのが、裁判所に株式の売買価格を決めてもらう手続です。この記事では、少数株主の立場から、売買価格決定申立ての流れ、他の株式価格決定手続との違い、裁判例で重視される評価方法、交渉段階で準備すべき資料を整理します。

坂尾陽弁護士

売買価格決定は、単なる価格交渉ではなく、期限と資料準備が重要な手続です。
  • 売買価格決定申立ては、譲渡制限株式の不承認後に価格を裁判所で決める手続です。
  • 典型的には、譲渡承認請求、不承認、会社又は指定買取人の買取通知、価格協議を経て問題になります。
  • 反対株主の株式買取請求やスクイーズアウトでも、裁判所が株式価格を決める手続があります。
  • 裁判例では、純資産法、DCF法・収益還元法、配当還元法を株主の立場に応じて組み合わせる傾向があります。
  • 少数株主は、期限管理、決算書、株主構成、評価資料、税引後手取りを早めに整理する必要があります。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年  京都大学法学部卒業
2011年  京都大学法科大学院修了
2011年  司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

弁護士 坂尾陽

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売買価格決定申立てとは

売買価格決定申立てとは、譲渡制限株式について会社が譲渡を承認せず、会社又は指定買取人がその株式を買い取る場合に、売買価格の協議がまとまらないとき、裁判所に価格を決めてもらう手続です。会社法144条の価格決定手続が典型です。会社又は指定買取人による買取通知がされた後、売買価格の協議がまとまらない場合には、通知から20日以内に申立てを検討する必要があります。

非上場株式の少数株主にとって、この手続の意味は大きいです。任意交渉では、会社や大株主に「買う義務」がない場面も多く、少数株主側は価格交渉で弱い立場に置かれやすいからです。これに対し、譲渡制限株式の不承認後の買取手続では、会社又は指定買取人による買取が制度上予定され、価格が合意できなければ裁判所の判断を求める余地があります。

もっとも、売買価格決定申立てをすれば必ず高額になるわけではありません。裁判所は、相続税評価額や会社側の提示額をそのまま採用するのではなく、会社の資産、収益、配当、株主の持株比率、買い主の立場、株式の分散状況、譲渡制限や市場性の有無などを総合して判断します。評価方法の前提は、非上場株式の評価方法で詳しく整理しています。

売買価格決定申立てに進む典型的な流れ

売買価格決定申立ては、いきなり裁判所に価格を決めてもらう手続ではありません。通常は、譲渡制限株式を第三者に売りたい、会社が承認しない、会社又は指定買取人が買い取る、価格協議がまとまらない、という流れを経ます。

  • 定款で譲渡制限を確認する:非上場会社・同族会社では、株式の譲渡に会社の承認が必要とされていることが多いです。まず、定款と株主名簿で、譲渡制限の有無と対象株式を確認します。
  • 譲渡承認請求をする:株主が第三者に株式を譲渡したい場合、会社に対して譲渡を承認するかどうかの決定を求めます。不承認の場合に会社又は指定買取人による買取を求める旨も、手続上重要です。
  • 会社が承認又は不承認を決める:会社が承認すれば、原則として予定していた譲受人への譲渡に進みます。会社が承認しない場合には、会社又は指定買取人による買取の問題に進みます。
  • 会社又は指定買取人が買取通知と供託を行う:会社又は指定買取人が買い取る場合、一定の金額を供託し、供託を証する書面を交付することが問題になります。ここで供託された金額が最終価格とは限りません。
  • 売買価格を協議する:買取通知後、株主と会社又は指定買取人との間で売買価格を協議します。協議が整えば、その価格で解決します。
  • 協議が整わなければ裁判所に申立てる:協議がまとまらない場合、会社法上の期間内に裁判所へ売買価格決定の申立てをすることができます。典型的には買取通知から20日以内という短い期間で判断する必要があり、典型的には買取通知から20日以内という短い期間で判断する必要があり、期限を逃すと、一株当たり純資産額を基準とする価格に進むため注意が必要です。

譲渡制限株式の買取請求全体の流れは、価格決定だけでなく、譲渡承認請求、不承認通知、会社又は指定買取人の選択、供託、株券発行会社の場合の株券供託などが関係します。手続全体は譲渡制限株式の買取請求で確認してください。

売買価格決定以外にも、裁判所が株式価格を決める場面がある

この記事の中心は、譲渡制限株式の不承認後に会社法144条に基づいて売買価格を決める手続です。ただし、少数株主の株式価格を裁判所で決める場面は、それだけではありません。手続名や価格の考え方は異なりますが、少数株主にとっては「会社との協議で価格が決まらず、裁判所が株式価格を判断する」という共通点があります。

  • 譲渡制限株式の売買価格決定:第三者譲渡を会社が承認せず、会社又は指定買取人が買い取る場面です。少数株主が投下資本を回収するための重要なルートです。
  • 反対株主の株式買取請求:合併、会社分割、株式交換などの組織再編に反対する株主が、公正な価格で株式を買い取るよう請求する場面です。協議が整わない場合、裁判所が価格を決めることがあります。
  • 株式併合・スクイーズアウトに伴う価格決定:少数株主を整理するための株式併合、全部取得条項付種類株式、特別支配株主による株式等売渡請求などでは、株式の価格を裁判所で争う場面があります。
  • 相続人等に対する売渡請求:相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した相続人等に対して、会社が売渡請求をする場面でも、価格協議がまとまらなければ裁判所の価格決定が問題になります。申立期間は短く、相続人側でも早い対応が必要です。
  • 契約に基づく株式買取請求:株主間契約、投資契約、退職時買取条項などで買取請求権が定められている場合、契約解釈や価格算定をめぐって裁判所で争われることがあります。これは会社法144条の売買価格決定申立てとは別の文脈です。

したがって、「裁判所で価格を決める」といっても、どの法律関係に基づく手続なのかを最初に整理する必要があります。譲渡制限株式の不承認後なのか、組織再編に反対したのか、スクイーズアウトを受けたのか、相続人等として売渡請求を受けたのか、契約上の買取条項なのかによって、期限、主張すべき価格、提出資料が変わります。契約上の買取請求は契約に基づく株式買取請求、反対株主・スクイーズアウトは反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求で扱います。

申立期限と供託額に注意する

売買価格決定申立てでは、期限管理が非常に重要です。会社又は指定買取人から買取通知と供託を証する書面の交付を受けた後、価格の協議がまとまらない場合には、通知から20日以内を目安に、法律上の期間内に申立てをする必要があります。実務上は、買取通知を受け取ってから準備を始めるのでは遅いことがあります。

期限を逃すリスク

売買価格決定申立ての期間を逃すと、法律上、一株当たり純資産額を基準とする価格に進むことがあります。会社側の供託額が低い又は算定根拠に疑問がある場合、通知を受けてから急いで弁護士に相談しても、資料収集や評価方針の整理が間に合わないことがあります。

供託額は、会社又は指定買取人が通知前に供託する金額であり、裁判所が最終的に認定する適正価格そのものではありません。少数株主側としては、供託額に不満がある場合、単に「安い」と主張するだけでは足りません。会社の決算、資産、収益、配当、株主構成、過去の交渉経緯をもとに、どの評価方法を使うべきかを整理する必要があります。

また、株券発行会社の場合には、株券の供託など別の手続が問題になることがあります。非上場会社では、古い定款や株券発行会社のままになっている会社もあるため、定款、登記、株券の有無を早めに確認してください。

裁判所はどのように売買価格を決めるか

譲渡制限株式の売買価格決定では、裁判所は、譲渡承認請求の時点における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決めます。これは、相続税評価額を機械的に当てはめるという意味ではありません。

裁判所が見る主な事情は、次のように整理できます。

  • 会社の資産:現預金、不動産、有価証券、借入金、簿価と時価の差、清算を前提にするべきか、継続企業として見るべきかを検討します。
  • 会社の収益力:売上、営業利益、経常利益、将来キャッシュフロー、事業計画、過去の財務実績、業界リスクを検討します。
  • 配当の実績と方針:少数株主が現実に受ける利益が配当中心であれば、配当還元法が重視されることがあります。ただし、配当が大株主側の政策で低く抑えられている場合には注意が必要です。
  • 株主の立場:純粋な少数株主か、元役員・創業者・親族株主か、持株比率は何%か、少数株主権や特別決議への影響があるかを見ます。
  • 買い主の立場:会社が自己株式として買うのか、大株主や指定買取人が買うのか、その取得により支配権が強まるのかを見ます。
  • 非流動性・譲渡制限:非上場株式で市場性がないことや譲渡制限があることをどう評価に反映するかも争点になります。ただし、同じ事情を二重に減価することは問題になります。

少数株主側では、「少数株式だから配当還元法だけで低く評価される」と決まっているわけではありません。逆に、「会社に多額の純資産があるから必ず純資産法で高く評価される」とも限りません。裁判例では、株主の立場と買い主が得る利益を見ながら、複数の評価方法を併用することが多くあります。

裁判例に見る評価方法の傾向

売買価格決定の裁判例では、時代や事案により、採用される評価方法が大きく異なります。古い裁判例では、類似業種比準方式や取引事例法を含めて複数方式を広く併用したものもあります。他方で、近時の裁判例では、取引事例法や類似業種比準方式を主たる方法として採用することには慎重で、純資産法、DCF法・収益還元法、配当還元法を事案に応じて組み合わせる傾向が見られます。

古い裁判例では、類似業種比準方式や取引事例法も併用されていた

名古屋高裁昭和54年10月4日決定は、配当還元法、類似業種比準方式、取引事例法、純資産法を併用しています。大阪高裁昭和58年1月28日決定も、配当還元法を重視しつつ、類似業種比準方式や純資産法を斟酌しています。京都地裁昭和62年5月18日決定も、配当還元法、類似業種比準方式、収益還元法、純資産法を組み合わせています。

もっとも、これらは「どの事案でも類似業種比準方式や過去の取引価格を使えばよい」という意味ではありません。東京高裁昭和59年10月30日決定は、非上場株式では市場の需要供給を考慮しにくく、取引事例があっても偶然の事例にすぎないとして、取引事例の採用に慎重な姿勢を示しています。近時の実務では、過去の親族間売買や額面取引をそのまま適正価格とすることは難しい場合が多いです。

配当還元法は少数株主側の目線として使われやすい

大阪高裁平成元年3月28日決定は、一般少数非支配株主が会社から受ける財産的利益は基本的に配当であるという考え方を示し、配当還元法を中心に判断しています。ただし同決定は、会社資産の解体価値が株価の最低限を画する意義を持つことにも触れており、配当還元法だけで常に低く評価すればよいという単純なものではありません。

東京高裁平成元年5月23日決定は、譲受人が取得する株式が9%にすぎず経営支配できないことから、基本的には配当還元法を相当としつつ、収益還元法と純資産法も併用しています。東京高裁平成2年6月15日決定も、わずか0.16%の株式では経営支配権に影響しないことを踏まえ、配当還元法を基本としながら純資産法を加味しています。

支配権・影響力がある株式では、収益力や純資産が重視される

東京高裁平成20年4月4日決定は、譲渡人の株式が40%で特別決議を拒否でき、譲受人が取得すれば完全支配に近づく事案でした。そのため、単なる配当目的の少数株式とは見ず、経営権の移動に準じて収益還元法を採用しています。

大阪地裁平成25年1月31日決定は、譲渡人の保有割合が約18.9%であり、他株主も同程度に分散していた事案です。裁判所は、譲渡人が他株主と協力して支配を獲得する可能性や、会社の支配を望む他株主にとって無視できない存在であることを考慮し、配当還元法20%、収益還元法80%の加重平均を採用しています。

会社が買い取る場合は、配当だけでは説明しにくいことがある

札幌高裁平成17年4月26日決定は、会社自身が譲受人となる事案で、会社は自己株式取得により配当を免れる立場にあり、配当利益を受ける目的で自己株式を取得するわけではないとして、配当還元法に重きを置くことには慎重でした。同決定は、配当還元法、収益還元法、純資産法を組み合わせています。

この考え方は、少数株主側の交渉でも重要です。会社側が「少数株主なので配当還元法だけでよい」と主張しても、会社自身や支配株主側が取得することで支配関係が整理される、配当支払を免れる、外部株主を排除できるといった利益がある場合、買い主側の価値も検討すべきです。

DCF法・収益還元法は近時の重要な評価方法だが、前提資料が争点になる

広島地裁平成21年4月22日決定は、譲渡人の立場からは配当還元法、譲受人の立場からはDCF法が合理的であるとして、DCF法と配当還元法を1対1で折衷しています。同決定は、会社法による価格決定では当事者を対等の立場で評価すべきという考え方を示している点でも重要です。

福岡高裁平成21年5月15日決定は、DCF法について、事業計画や割引率の決定に困難が伴うため慎重な考慮が必要としつつ、継続企業価値の把握という面で正しいものを含むため全面的に無視できないとしました。そのうえで、業界状況や貸借対照表上の純資産にも着目し、DCF法3、純資産法7の割合で併用しています。

東京地裁平成26年9月26日決定は、譲渡人・譲受人双方の立場を分けて検討し、最終的に配当還元法0.3、DCF法0.35、純資産法0.35の割合で加重平均しています。また、会社に合理的根拠に基づく確実性のある事業計画がない場合でも、過去3年から5年程度の財務実績からフリー・キャッシュ・フローを予測することがあり得ると整理しています。

事業会社と資産管理会社では、評価方法が変わる

大阪地裁平成27年7月16日決定は、事業会社については、非支配株主間の売買であり、配当の取得を主な利益・目的とする地位にあることなどから配当還元法を採用しました。他方、株式保有だけを目的とするHD会社については、事業会社株式の時価を基準とした時価純資産法を相当としています。

このように、同じグループ内の株式でも、事業を行う会社か、資産や株式を保有する会社かによって評価方法が変わります。不動産保有会社、資産管理会社、持株会社では、配当だけでなく純資産や保有資産の時価が重要になります。

非流動性ディスカウント・少数株主割引は二重控除に注意する

非上場株式は市場で自由に売れないため、非流動性ディスカウントが問題になることがあります。東京地裁平成26年9月26日決定では、非上場株式で流動性を欠くことを考慮して30%の非流動性ディスカウントを行うのが相当とされています。また、最高裁令和5年5月24日決定は、会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格決定において、評価方法としてDCF法が用いられた場合でも、市場性がないことを理由とする減価を行うことが相当と認められるときは、非流動性ディスカウントを行うことができるとしています。

もっとも、評価額の算定過程で市場性の欠如がすでに十分に考慮されている場合に、さらに同じ理由で減価すると二重の減価になります。また、少数株主であることを評価方法の配分で考慮したうえで、さらに少数株主割引を重ねることにも注意が必要です。大阪地裁平成25年1月31日決定は、少数株主であることを配当還元法の割合で考慮したうえで、さらにマイノリティ・ディスカウントを行うべきではないと整理しています。

交渉段階で裁判例をどう使うか

売買価格決定申立ては、裁判所で価格を決める手続ですが、実務上は、申立てに進む前の交渉段階でも裁判例の考え方が重要です。会社側・大株主側の提示額が低い場合、その根拠が配当還元法だけなのか、相続税評価額なのか、過去の額面取引なのか、純資産を無視した収益評価なのかを確認する必要があります。

少数株主側では、次のような観点で反論材料を整理します。

  • 純粋な少数株主か:単なる配当目的の一般株主なのか、元役員、創業者、親族株主、会社に関与していた株主なのかで評価の見方が変わります。
  • 持株比率と株式分散:数%でも株式が分散していれば影響力を持つ場合があります。10%台、20%台、40%程度では、裁判例上も配当だけで評価しない事案があります。
  • 買い主が得る利益:会社や支配株主が取得することで、外部株主の参入を防ぐ、支配権を強化する、配当支払を免れる、少数株主との紛争を解消する利益があるかを見ます。
  • 会社の資産と収益:不動産や有価証券の含み益、内部留保、利益水準、将来収益、配当政策を確認し、配当還元法だけでよいのかを検討します。
  • 割引の重複:非流動性、譲渡制限、少数株主性が、評価方法の選択と割引率の双方で二重に控除されていないかを確認します。

裁判例は、交渉で「この裁判例と同じ価格になる」と主張するためのものではありません。自分の事案が、配当還元法寄りなのか、DCF法・収益還元法寄りなのか、純資産法を重視すべきなのかを説明するための材料です。売却価格・買取価格の交渉全体は、非上場株式の売却価格・買取価格の記事も参考にしてください。

申立て前に準備すべき資料

売買価格決定申立てでは、短期間で価格主張を整理する必要があります。少数株主側は会社内部の資料を十分に持っていないことが多いため、申立ての可能性が出た段階で、早めに資料を集めることが重要です。

  • 定款・登記情報:譲渡制限、株券発行会社かどうか、承認機関、種類株式の有無を確認します。
  • 株主名簿・株主構成:自分の持株比率、他株主の保有割合、株式の分散状況、買い主が取得した場合の議決権構成を整理します。
  • 譲渡承認請求書・不承認通知・買取通知:期限の起算点、会社又は指定買取人の対応、供託書面の有無を確認します。
  • 決算書・勘定科目内訳書:純資産、利益、役員報酬、借入金、関連会社取引、不動産、有価証券、含み益を確認します。
  • 配当実績・株主総会資料:配当還元法の前提となる配当実績、配当政策、内部留保の状況を確認します。
  • 相続税評価資料・株価算定書:税務上の評価額や会計士・税理士による算定書は、裁判所の価格と一致するとは限りませんが、価格目線を把握する資料になります。
  • 交渉記録:会社側の提示額、算定根拠、買い主候補、過去の売買、親族間の合意、契約書や株主間契約を整理します。

会社が資料を開示しない場合には、会計帳簿閲覧請求や株主名簿閲覧請求などの少数株主権を検討することがあります。価格決定の準備に必要な情報収集は、会計帳簿閲覧請求の記事で詳しく解説しています。

税引後の手取りも交渉上は重要

裁判所の売買価格決定では、株式そのものの価格評価が中心になります。ただし、少数株主が現実に売却するかどうかを判断する場面では、税引後の手取りも重要です。特に、発行会社が自己株式として買い取る場合と、指定買取人・第三者が買い取る場合では、税務上の扱いが異なることがあります。

取得費が極めて低い非上場株式を数億円規模で売却するケースでは、発行会社による自己株式取得により、みなし配当課税が問題となり、所得状況によっては手取りが大きく減る場合があります。他方、第三者や指定買取人への譲渡では、一般株式等の譲渡益課税として整理される場面があります。具体的な税額や特例の有無は税理士等の確認が必要です。

たとえば、額面上は会社による5億円の買取が有利に見えても、みなし配当課税により税負担が概算で50%前後になれば、手取りは約2億5000万円前後にとどまることがあります。他方、第三者への3億円譲渡で税負担が20%台前半にとどまる前提であれば、手取りは約2億4000万円程度となり、額面価格ほどの差が出ないことがあります。この点は、価格決定申立てそのものの問題ではなく、売却方針を決めるための交渉上の重要論点です。

よくある質問

売買価格決定申立てをすれば、必ず相続税評価額より高くなりますか

必ず高くなるわけではありませんが、相続税評価額よりも高くなる可能性は十分あります。相続税評価額は税務上の評価であり、裁判所の売買価格とは目的が異なります。ただし、任意交渉で相続税評価額より低い提示を受けている場合でも、裁判所が会社の資産・収益・配当・株主の立場を踏まえてより高額な価格を認定する可能性は高いといえます。

会社から供託された金額が低い場合はどうすればよいですか

供託額に不満がある場合は、期限内に売買価格決定申立てを検討する必要があります。供託額は最終価格そのものではありませんが、申立期限を逃すと一株当たり純資産額を基準とする価格に進むことがあります。通知、供託書面、定款、決算書、株主名簿を早急に確認しましょう。

過去に親族間で安く売買された価格は参考になりますか

参考になる場合はありますが、そのまま適正価格になるとは限りません。裁判例でも、取引事例が偶然の事例であったり、客観的・合理的な価格形成を示す資料がなかったりする場合には、取引事例法の採用に慎重なものがあります。一般的には裁判所が認定する価格は過去の取引価格よりも高額となることが期待できます。

少数株式なので配当還元法だけで決まりますか

純粋な少数株主で配当を受ける立場に近い場合、配当還元法が重視されることがあります。しかし、持株比率、株式分散、会社への関与、買い主が取得する利益、会社の資産・収益によっては、収益還元法、DCF法、純資産法を併用する余地があります。

申立て前に弁護士へ相談すべきですか

期限が短く、評価資料の準備も必要になるため、買取通知や供託書面を受け取った段階で早めに相談した方が安全です。特に、通知日、供託額、株券の有無、持株比率、決算書の入手状況を整理して相談すると、申立ての要否を判断しやすくなります。

まとめ

売買価格決定申立ては、非上場会社・同族会社の少数株主にとって、任意交渉だけでは価格がまとまらない場合に重要な手続です。ただし、手続の入口、期限、評価方法、資料準備を誤ると、不利な価格で処理されるおそれがあります。

  • 売買価格決定申立ては、譲渡制限株式の不承認後に裁判所で価格を決める手続です。
  • 反対株主の株式買取請求やスクイーズアウトでも、裁判所が株式価格を決める場面があります。
  • 裁判例では、純資産法、DCF法・収益還元法、配当還元法を株主の立場に応じて併用します。
  • 少数株主性、持株比率、株式分散、買い主が得る支配権の強化が価格に影響します。
  • 期限管理、供託額、決算書、株主構成、税引後手取りを早めに確認することが重要です。

会社又は指定買取人から買取通知や供託書面を受け取った場合、まず通知日、申立期限、供託額、定款、株主名簿、決算書を確認しましょう。そのうえで、裁判例上どの評価方法が問題になりやすいか、任意交渉で解決すべきか、裁判所の価格決定を求めるべきかを検討することが大切です。

坂尾陽弁護士

価格に納得できないときほど、期限・資料・評価方法を同時に整理しましょう。

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売買価格決定申立ては、評価方法、売却価格、譲渡制限株式の買取請求、反対株主の買取請求と密接に関係します。必要な論点から順番に確認してください。

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