役員報酬に株主総会決議がない場合|少数株主が返還請求・代表訴訟を検討する方法

同族会社・親族会社・非上場会社では、代表者や親族役員に役員報酬、役員賞与、役員退職慰労金が支払われているものの、少数株主にはその根拠が説明されていないことがあります。決算書や会計帳簿を確認したときに「株主総会決議がないのではないか」「過大な役員報酬で会社価値が下がっているのではないか」と疑問を持つこともあります。

もっとも、役員報酬に株主総会決議がないように見える場合でも、直ちに全額返還できるとは限りません。定款、過去の株主総会決議、報酬総額の上限決議、取締役会への配分一任、全株主同意、事後承認・追認、信義則上の例外などを順に確認する必要があります。

  • 取締役の報酬・賞与・退職慰労金は、原則として定款又は株主総会決議による根拠が必要です
  • 決議なしの支給は問題になりますが、後日の株主総会決議で事後承認・追認される場合があります
  • 退職慰労金は金額が大きく、内規・一任決議・説明義務・過大性が争点になりやすい支出です
  • 少数株主は、会計帳簿閲覧請求、株主総会での質問、代表訴訟を組み合わせて検討します
  • 返還や責任追及で会社価値が回復しても、少数株主個人の売却代金に直接なるわけではありません

坂尾陽弁護士

「決議がないから必ず返還できる」と考えるのも、「後から決議すれば必ず問題ない」と考えるのも危険です。少数株主側では、支給根拠、承認経緯、金額の相当性を資料で確認することが出発点になります。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年  京都大学法学部卒業
2011年  京都大学法科大学院修了
2011年  司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

弁護士 坂尾陽

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役員報酬に株主総会決議が必要な理由

会社法361条は、取締役の報酬等について、定款に定めがないときは株主総会の決議で定めることを求めています。取締役は会社の業務執行に関与する立場にあるため、取締役だけで自分たちの報酬を自由に決められると、会社財産を自己に移す「お手盛り」の危険があります。株主総会決議を要求する趣旨は、このお手盛りを防ぐことにあります。

ここでいう報酬等には、毎月の役員報酬だけでなく、役員賞与、業績連動報酬、非金銭報酬、職務執行の対価として支払われる役員退職慰労金などが含まれます。中小企業では、株主総会で取締役全員の報酬総額の上限を決め、その範囲内の個別配分を取締役会や代表取締役に一任する形もあります。ただし、そもそもの総額上限や算定方法について株主総会決議がない場合には、少数株主側から問題視されやすくなります。

なお、本記事は税務上の損金算入や会社側の報酬設計ではなく、少数株主が「決議のない役員報酬・退職慰労金」を見つけた場合に、返還請求、取締役責任、株主代表訴訟、株価評価への影響をどう考えるかを中心に解説します。

まず確認すべき資料

役員報酬に株主総会決議がないように見える場合でも、最初から返還請求や代表訴訟に進むのではなく、支給の根拠資料を確認する必要があります。少数株主側で最初に確認したい資料は、次のとおりです。

  • 定款:役員報酬や退職慰労金について定めがあるかを確認します。
  • 株主総会議事録:過去に報酬総額、個別額、退職慰労金、支給基準、取締役会への一任が決議されていないかを確認します。
  • 取締役会議事録:総会決議の範囲内で個別配分や退職慰労金額が決められているかを確認します。
  • 役員報酬規程・退職慰労金規程:月額報酬、在任年数、功績倍率、支給時期、算定基準が明確かを確認します。
  • 決算書・総勘定元帳・支払明細:実際にいくら、誰に、いつ、どの名目で支払われたかを確認します。
  • 株主間の合意資料:全株主同意、親族間の合意書、過去の承認メールなどがないかを確認します。

会社から任意に資料が出ない場合、会計帳簿閲覧請求によって総勘定元帳、役員報酬の支払明細、退職金勘定、関係会社取引、銀行振込記録などを確認することがあります。資料取得の実務は、会計帳簿閲覧請求とはで詳しく整理しています。

決議なし支給は返還請求・取締役責任の入口になる

定款にも株主総会決議にも根拠がないまま役員報酬や役員賞与が支払われていた場合、その支給は会社法361条との関係で問題になります。取締役に具体的な報酬請求権が発生していないのに会社財産が流出していると整理できる場合には、会社から取締役に対する返還請求や、取締役の任務懈怠責任が問題になります。

少数株主が直接、役員に対して自分へ返還するよう請求できるわけではありません。会社が取締役に対して返還請求や損害賠償請求を行うべき場面で、会社が動かない場合に、少数株主が会社に代わって責任追及を検討するのが株主代表訴訟の基本的な位置づけです。代表訴訟の全体像は、株主代表訴訟とはで扱っています。

少数株主側の見方

役員報酬に決議がない問題は、単に「報酬が高い」という不満ではなく、会社財産が適法な手続を経ずに役員側へ移っていないかを確認する問題です。感情的な主張にせず、総会決議の有無、支給額、支給期間、会社の業績、他の株主への説明状況を資料で整理することが重要です。

後日の株主総会決議による事後承認・追認

役員報酬に事前の株主総会決議がなかった場合でも、後から株主総会決議を行うことで、過去の支給が事後的に適法有効と扱われる場合があります。最高裁平成17年2月15日判決は、株主総会決議を経ずに支払われた取締役報酬について、後の株主総会決議の内容等に照らし、お手盛り防止という趣旨を没却するような特段の事情がない限り、事後的に適法有効になるという考え方を示しています。

そのため、少数株主側から見ると、「決議がなかった」という事実だけで終わりではありません。会社側が後日、過去分の役員報酬を承認する株主総会決議を行った場合、その決議の内容、対象期間、対象者、金額、説明状況、議決権構成、反対株主への情報提供、支配株主側の利害関係などを検討する必要があります。

反対に、会社側が後から株主総会決議をしたからといって、常にすべての問題が消えるわけでもありません。たとえば、金額や期間が不明確なまま包括的に追認するだけの決議、少数株主に必要な資料を出さないまま行われた決議、退職慰労金の算定基準が分からない決議、著しく不合理な金額を承認する決議であれば、決議取消しや取締役責任の論点が残ることがあります。

事後承認で誤解しやすい点

「後から株主総会決議をすれば必ず有効になる」という意味ではありません。一方で、「事前決議がないから必ず全額返還できる」という意味でもありません。少数株主側では、事後承認の決議内容と、お手盛り防止の趣旨が実質的に守られているかを確認します。

全株主同意・実質的同意・信義則が問題になる場合

同族会社では、正式な株主総会議事録はなくても、全株主が役員報酬や退職慰労金の支給を知っており、明示又は黙示に同意していたと会社側が主張することがあります。裁判例上も、株主総会決議がない場合でも、全株主の同意や、株主総会決議があったと同視できる特段の事情がある場合には、後から決議がないことを理由に支給を否定することが信義則上問題になる場面があります。

もっとも、少数株主が単に決算書を受け取っていた、親族会社だから何となく知っていた、長年異議を述べなかったというだけで、常に全株主同意が認められるわけではありません。誰が、いつ、どの金額を、どの資料に基づいて承認したのかが重要です。少数株主側では、同意していないこと、金額や算定根拠を知らされていなかったこと、議事録や規程が後から作られた疑いがあることを、資料と経緯で整理する必要があります。

役員退職慰労金は特に争点になりやすい

役員退職慰労金は、毎月の役員報酬とは異なり、退任時に一度に大きな金額が支払われるため、少数株主との紛争になりやすい支出です。創業者、代表取締役、親族役員に高額な退職慰労金が支払われると、会社の純資産や現預金が大きく減少し、少数株式の評価にも影響します。

退職慰労金が在職中の職務執行の対価として支給される性質を持つ場合、取締役報酬等として会社法361条の規律を受けます。したがって、定款に定めがない場合には、株主総会決議で金額、算定方法、又は支給基準を定める必要があります。実務上は、株主総会で「役員退職慰労金を当社所定の基準に従い相当額の範囲内で支給し、具体的な金額・時期・方法は取締役会に一任する」といった決議が行われることがあります。

しかし、白紙一任に近い決議や、株主が確認できない内規に基づく一任では、少数株主が金額の相当性を判断できません。退職慰労金規程がある場合でも、月額報酬、在任年数、功績倍率、加算・減算事由、支給上限、支給時期などが明確か、株主がその基準を確認できるかを検討する必要があります。

過大な役員報酬・退職慰労金と決議取消し

過大な役員報酬や退職慰労金が株主総会で承認された場合、少数株主としては「この決議を取り消せないか」と考えることがあります。ここで重要なのは、金額が高いというだけで当然に株主総会決議が取り消されるわけではないという点です。株主総会決議取消しでは、招集手続や決議方法が法令・定款に違反する場合、著しく不公正な場合、決議内容が定款に違反する場合、特別利害関係人の議決権行使により著しく不当な決議がされた場合などが問題になります。

退職慰労金では、金額そのものだけでなく、株主総会でどの程度の説明がされたかが重要です。たとえば、退職慰労金の支給基準、算定方法、対象者の在任期間、功績、最終報酬月額、功績倍率、具体額又は上限額が説明されず、株主が議案の相当性を判断できない場合には、説明義務違反や決議方法の違法が争点になります。

裁判例でも、退職慰労金議案について会社側の説明が不十分であったとして、株主総会決議取消しが認められた例があります。東京地裁昭和63年1月28日判決や奈良地裁平成12年3月29日判決は、退職慰労金議案に関する説明義務違反が問題になった例として紹介されます。

一方で、退職慰労金が高額に見える場合でも、会社側が支給の趣旨、対象者の在任期間、功労、算定基準、会社の考え方を説明していれば、説明義務違反が否定されることもあります。東京地裁平成19年10月31日判決では、会社の業績悪化や無配当などを背景に退職慰労金決議が争われたものの、会社側の説明が一定程度されていたことなどから、説明義務違反等は否定されています。

決議取消しと代表訴訟の使い分け

退職慰労金の支給を承認する株主総会決議そのものを争う場合は、決議取消しの訴えが問題になります。実際に支払われた退職慰労金が会社に損害を与えたとして役員責任を追及する場合は、返還請求や株主代表訴訟が問題になります。どちらを使うかは、決議日、支払日、資料、時効・期間制限、証拠関係によって変わります。

決議取消しを検討する場合の注意点

株主総会決議取消しの訴えには、原則として決議の日から3か月以内という期間制限があります。退職慰労金や役員報酬の承認決議に疑問がある場合、総会議事録や招集通知を後から確認しているうちに期間が経過してしまうことがあります。

また、決議取消しの主張をするには、単に「金額が高すぎる」と述べるだけでは足りません。株主が判断できる資料が提供されなかった、質問に対する説明が不十分だった、議案の内容が曖昧だった、支給基準が開示されていなかった、特別利害関係を有する株主の議決権行使によって著しく不当な決議がされた、といった具体的な事情を整理する必要があります。

少数株主側では、株主総会での質問・発言、議事録、配布資料、会社からの回答、退職慰労金規程、過去の支給例、会社の業績、配当状況を確認します。株主総会で何を質問すべきかは、株主総会で質問・発言できることで詳しく扱います。

少数株主が取るべき実務上の流れ

役員報酬や退職慰労金に疑問がある場合、少数株主側では次の順番で整理すると、返還請求や代表訴訟に進むべきか判断しやすくなります。

  1. 支給の事実を確認する:決算書、総勘定元帳、支払明細、銀行取引、税務申告書の別表などから、誰にいくら支払われたかを確認します。
  2. 承認根拠を確認する:定款、株主総会議事録、取締役会議事録、役員報酬規程、退職慰労金規程を確認します。
  3. 事後承認の有無を確認する:後日の株主総会で、過去分の報酬や退職慰労金が承認されていないかを確認します。
  4. 金額の相当性を検討する:会社の業績、職務内容、在任期間、過去の支給例、配当状況、会社資産への影響を整理します。
  5. 会社に説明を求める:株主総会で質問する、書面で説明を求める、必要に応じて株主提案権を使うことを検討します。
  6. 返還請求・代表訴訟を検討する:会社が対応しない場合、提訴請求や株主代表訴訟の要否を検討します。

株主総会で議題化したい場合は、株主提案権や株主総会招集請求も検討対象になります。詳しくは、株主提案権とはで整理しています。

代表訴訟を使う場合の効果と限界

決議のない役員報酬や過大な退職慰労金について会社が返還請求をしない場合、少数株主は株主代表訴訟を検討することがあります。代表訴訟は、会社に代わって取締役等の責任を追及する制度であり、会社財産の流出を回復する可能性があります。

ただし、代表訴訟で取締役から損害賠償金や返還金が回収されたとしても、その金銭は原則として会社に入ります。少数株主個人に直接支払われるわけではありません。会社価値が回復すれば、少数株式の評価や買取交渉に影響する可能性はありますが、代表訴訟そのものが株式売却代金を生む制度ではない点に注意が必要です。

また、代表訴訟には時間、費用、証拠、会社との関係悪化といった負担があります。勝訴・一部勝訴した場合の費用償還や弁護士報酬相当額の請求については、株主代表訴訟の弁護士費用・会社法852条で詳しく解説しています。

株式売却・買取交渉との関係

少数株主が役員報酬や退職慰労金の問題を指摘する目的は、必ずしも訴訟だけではありません。会社財産の流出や不透明な支出を明らかにすることで、会社価値、株価評価、任意買取交渉の前提が変わることがあります。

たとえば、代表者や親族役員に過大な報酬が支払われ、会社の利益や純資産が圧縮されている場合、その支出を前提にした株価評価が妥当かを検討する余地があります。また、退職慰労金の支給により会社の現預金が大きく減った場合、その支給の適法性や相当性は、買取価格交渉でも重要な論点になります。

もっとも、役員報酬の問題を指摘できることと、会社や大株主に株式を買い取らせられることは別です。少数株式の売却を目指す場合は、会社・大株主への任意買取交渉、第三者への譲渡、譲渡制限株式の手続、株価評価を組み合わせる必要があります。任意買取交渉は、少数株主が会社・大株主に株式を買い取ってもらうにはで、価格評価は非上場株式の評価方法で扱っています。

よくある質問

株主総会決議がない役員報酬は必ず返還できますか

必ず返還できるとは限りません。定款や過去の株主総会決議がある場合、報酬総額の上限決議と取締役会への配分一任がある場合、全株主同意がある場合、後日の株主総会決議で事後承認された場合などがあります。まずは支給根拠と承認経緯を確認する必要があります。

後から株主総会決議をすれば追認されますか

後日の株主総会決議によって、過去に支払われた役員報酬が事後的に適法有効と扱われる場合があります。ただし、お手盛り防止という趣旨を没却するような特段の事情がある場合や、決議内容・説明状況に問題がある場合には、なお争う余地があります。

退職慰労金が高すぎる場合、株主総会決議を取り消せますか

金額が高いというだけで当然に取り消せるわけではありません。支給基準や算定方法が説明されていない、株主の質問に十分回答されていない、議案内容が不明確、決議方法が著しく不公正といった具体的な事情が必要になります。決議取消しには原則として3か月以内の期間制限があるため、早めの確認が重要です。

会社が後から議事録を作ったように見える場合はどうしますか

議事録の日付だけでなく、招集通知、出席株主、議決権数、当時のメール、決算書、取締役会議事録、税務申告時の処理、会計帳簿との整合性を確認します。議事録があるから必ず有効、議事録がないから必ず無効という単純な判断ではなく、実際に決議が存在したか、株主が判断できる資料があったかを検討します。

代表訴訟をすれば少数株式を高く売れますか

代表訴訟は会社の損害を回復するための制度であり、少数株主の売却代金を直接増やす制度ではありません。ただし、違法支出の回復や不透明支出の是正により、会社価値や株価評価、買取交渉に影響することはあります。売却を目指す場合は、評価資料と買取交渉の設計を別に検討する必要があります。

まとめ

  • 役員報酬・役員賞与・退職慰労金には、原則として定款又は株主総会決議による根拠が必要です
  • 決議なしの支給は返還請求や取締役責任の入口になりますが、全額返還できるとは限りません
  • 後日の株主総会決議により、過去の役員報酬が事後承認・追認される場合があります
  • 退職慰労金では、支給基準、算定方法、説明義務、過大性、決議取消しが重要な争点になります
  • 少数株主は、会計帳簿閲覧、株主総会での質問、代表訴訟、株価評価を組み合わせて対応します

役員報酬に株主総会決議がない場合、少数株主にとっては会社財産の流出や会社価値低下を確認する重要な入口になります。ただし、会社法上の判断は、決議の有無だけでなく、事後承認、全株主同意、退職慰労金規程、説明義務、支給額の相当性、会社の業績、総会での経緯を総合して行われます。

売却・買取交渉を目指す場合でも、役員報酬問題を指摘すること自体が最終解決ではありません。会社価値をどう評価するか、会社・大株主が買取に応じる可能性があるか、代表訴訟を使うべきかを整理しながら、現実的な解決方法を検討する必要があります。

坂尾陽弁護士

役員報酬や退職慰労金の問題は、資料を見ればすぐ結論が出るとは限りません。決議の有無、支給額、承認経緯、株価評価への影響を一つずつ整理しましょう。

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