株主代表訴訟とは|少数株主が取締役の責任追及を検討する前に知るべきこと

株主代表訴訟とは、会社が取締役などの役員等に対して責任追及をしない場合に、株主が会社に代わって役員等の責任を追及する訴えです。非上場会社・同族会社では、代表者による会社財産の私的流用、不透明な親族役員への支出、株主総会決議のない役員報酬・退職慰労金、利益相反取引などが疑われる場面で問題になります。

ただし、株主代表訴訟は、少数株主が株式を高く売るための直接の制度ではありません。勝訴して損害賠償が認められても、回収される金銭は原則として会社に帰属し、少数株主個人の売却代金として支払われるわけではありません。この記事では、少数株主が代表訴訟を検討する前に知っておくべき要件、流れ、典型例、費用、売却・買取との違いを整理します。

  • 株主代表訴訟は、会社に代わって役員等の責任を追及する制度です
  • 原則として、まず会社に提訴請求をし、60日経過後に訴えを検討します
  • 勝訴しても賠償金は原則会社に帰属し、少数株主個人の売却代金には直結しません
  • 会計帳簿閲覧請求や株価評価、売却・買取交渉とは役割を分けて考える必要があります

坂尾陽弁護士

代表訴訟は強い手段ですが、目的は「会社の損害回復」であり、株式の現金化とは分けて考えましょう。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年  京都大学法学部卒業
2011年  京都大学法科大学院修了
2011年  司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

弁護士 坂尾陽

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株主代表訴訟とは何か

株主代表訴訟は、取締役、監査役、執行役などの役員等が会社に損害を与えたのに、会社自身がその責任を追及しない場合に、株主が会社のために責任追及等の訴えを提起する制度です。会社法847条の「責任追及等の訴え」として説明されることが多く、一般には株主代表訴訟と呼ばれます。

通常、会社に損害が発生した場合、その損害を回復するために会社自身が役員等へ請求します。しかし、非上場会社・同族会社では、代表取締役、大株主、親族役員が会社を支配していることがあり、会社が自ら責任追及をしないことがあります。そのような場合に、少数株主が会社のために責任追及を検討するのが株主代表訴訟です。

少数株主権全体の中では、株主代表訴訟は「情報を集める権利」ではなく、「会社に損害を与えた役員等の責任を追及する権利」です。少数株主権の一覧は、少数株主権とは何かを整理したページで確認できます。

少数株主が株主代表訴訟を検討する典型場面

少数株主が株主代表訴訟を検討する場面では、単なる経営方針への不満ではなく、会社に損害を与える違法又は不当な行為が疑われるかが重要です。経営判断の失敗があっただけで、直ちに役員責任が認められるとは限りません。

  • 会社財産の私的流用:代表者や親族が、会社資金を私的な支出に使っている疑いがある場面です。
  • 不透明な親族役員への支出:実態のない役務提供、過大な報酬、親族への貸付金などが疑われる場面です。
  • 株主総会決議のない役員報酬・退職慰労金:定款や総会決議の確認が不十分なまま役員側へ金銭が支払われている場面です。
  • 利益相反取引・関係会社取引:支配株主側の会社や親族会社との取引により、会社に不利益が生じている疑いがある場面です。
  • 会社資産の不自然な処分:不動産、車両、設備、知的財産などを不当に安く譲渡している疑いがある場面です。

これらの場面でも、すぐに代表訴訟を起こすのではなく、まず事実関係と資料を整理する必要があります。役員報酬や退職慰労金の問題は、役員報酬に株主総会決議がない場合で個別に扱います。

株主代表訴訟の要件

株主代表訴訟を検討するには、誰が提訴できるのか、どのような手続を経る必要があるのかを確認する必要があります。代表訴訟は強い手段であるため、会社法上の要件を満たさなければ、訴えが不適法になる可能性があります。

原則として株主であることが必要

株主代表訴訟は、株主が会社のために提起する訴えです。公開会社では、原則として6か月前から引き続き株式を保有している株主であることが問題になります。一方、非公開会社では、この6か月保有要件は不要とされています。非上場会社・同族会社の多くは非公開会社であるため、定款や登記事項を確認する価値があります。

また、株式数については、一定の持株比率を要求される制度ではなく、1株でも提訴請求を検討できる場合があります。ただし、単元未満株式や定款の定め、訴訟中に株主であり続ける必要など、個別に確認すべき点があります。持株比率ごとの権利は、持株比率で変わる株主の権利で整理しています。

不正な目的でないこと

代表訴訟は、会社のために役員等の責任を追及する制度です。そのため、株主本人や第三者の不正な利益を図る目的、会社に損害を加える目的で提起することは認められません。会社側から「嫌がらせ目的」「買取交渉の圧力だけが目的」と反論される可能性もあるため、会社の損害、役員等の責任、証拠資料との関係を整理することが重要です。

まず会社に提訴請求をするのが原則

株主代表訴訟では、原則として、いきなり裁判所に訴えを起こすのではなく、まず会社に対して、役員等の責任を追及する訴えを提起するよう請求します。これを提訴請求といいます。提訴請求では、誰のどの行為について、どのような責任を追及すべきかを特定する必要があります。

会社が提訴請求を受けた日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合、株主は代表訴訟を提起できることがあります。もっとも、60日の経過を待つと会社に回復し難い損害が生じるおそれがある場合には、例外的にすぐに代表訴訟を検討できる場合もあります。

MEMO

提訴請求の段階で、事実関係、対象者、請求の理由、会社に生じた損害を整理できていないと、会社側の調査やその後の訴訟で不利になることがあります。

代表訴訟の前に資料を集める方法

代表訴訟を検討する場合、少数株主が最初から十分な証拠を持っているとは限りません。特に非上場会社では、決算書以外の資料が開示されず、会社資金の流れや関係会社取引の実態が分からないことが多いです。

そのため、代表訴訟を検討する前に、株主総会資料、決算書、計算書類、株主総会議事録、役員報酬に関する決議、会計帳簿、契約書、領収書、関係会社との取引資料などを確認することが重要です。会計帳簿や関連資料を確認する必要がある場合は、会計帳簿閲覧請求を検討します。

他の株主と共同で対応する可能性がある場合は、株主名簿閲覧請求により株主構成を把握することも考えられます。また、株主総会で質問・発言を行い、議事録に会社側の説明を残すことが、その後の判断材料になる場合もあります。

勝訴しても賠償金は少数株主個人に入らない

株主代表訴訟で最も誤解されやすいのは、勝訴した場合の金銭の帰属です。代表訴訟は、株主が会社のために起こす訴えであるため、役員等から回収される損害賠償金は、原則として会社に支払われます。少数株主個人が、その金銭を売却代金や慰謝料のように直接受け取る制度ではありません。

この点は、売却・買取を目指す少数株主にとって重要です。代表訴訟で会社財産が回復すれば、会社価値や株価評価に影響する可能性はあります。しかし、株式の買い手が現れる、会社や大株主が買い取る、譲渡承認請求や価格決定手続に進む、という別の流れがなければ、少数株主の株式が現金化されるわけではありません。

注意

代表訴訟を「高値売却の決定打」と考えるのは危険です。会社価値の回復と、少数株式の売却・買取は別の問題として設計する必要があります。

株主代表訴訟の費用と会社法852条

株主代表訴訟では、調査費用、訴訟費用、弁護士費用などの負担が問題になります。代表訴訟は、会社のために行う制度であるため、勝訴又は一部勝訴した場合には、会社法852条に基づき、必要費用や弁護士報酬のうち相当と認められる額を会社に請求できる場合があります。

ただし、弁護士費用が自動的に全額会社負担になるわけではありません。相当額の判断は、事件の難易、回収額、会社が得た利益、弁護士の作業量、訴訟の経過などにより変わります。また、敗訴した場合でも、悪意があった場合を除き、会社に対して損害賠償義務を負わない旨の制度がありますが、訴訟準備にかかる時間や費用の負担は現実的に検討する必要があります。

代表訴訟の弁護士費用、会社法852条、費用償還の考え方は、株主代表訴訟の弁護士費用と会社法852条で詳しく解説します。

売却・買取交渉との関係

代表訴訟は、会社や大株主に株式を買い取らせる制度ではありません。したがって、「会社側に問題があるから、代表訴訟を起こせば株式を買い取ってもらえる」と考えるのは正確ではありません。株式を売却したい場合は、会社・大株主との任意交渉、第三者への譲渡、譲渡制限株式の手続、契約上の買取条項などを別途検討する必要があります。

一方で、代表訴訟を検討するほどの不透明支出や役員責任が疑われる場合、その事実関係の整理は、株価評価や買取交渉にも影響することがあります。たとえば、会社財産が不当に流出している場合、その回復可能性、役員報酬の適正性、関係会社取引の条件などは、会社価値を考えるうえで重要な資料になります。

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株主総会対応や株主提案権との使い分け

会社運営に疑問がある場合でも、必ず代表訴訟から始めるべきとは限りません。まず株主総会で質問し、議事録に会社側の説明を残す、株主提案権で配当や役員選任・報酬を議題にする、会計帳簿閲覧請求で資料を集める、といった段階的な対応の方が適している場合もあります。

株主総会に議題や議案を出す場合は、株主提案権の要件と手続を確認します。総会当日の質問・発言・動議の使い方は、株主総会で質問・発言できることで整理しています。

代表訴訟は、役員等の責任追及という重い手段です。会社との関係、親族関係、費用、証拠、売却希望の有無を踏まえ、他の少数株主権とどの順番で使うかを検討することが重要です。

多重代表訴訟はどう考えるか

多重代表訴訟とは、一定の親子会社関係がある場合に、最終完全親会社等の株主が、一定の要件のもとで子会社役員等の責任追及を行う制度です。検索上は一定の関心がありますが、非上場会社・同族会社の少数株主が通常最初に検討する代表訴訟とは場面が異なります。

本記事では、多重代表訴訟は補足的な論点にとどめます。親会社・子会社が複数あるグループ会社で、子会社役員による不正や資産流出が問題になる場合は、株主関係、会社間関係、持株構造を確認したうえで、個別に検討する必要があります。

弁護士に相談すべき場面

株主代表訴訟は、少数株主が単独で進めるには負担が大きい手続です。会社に損害があるのか、誰の責任を追及するのか、どの資料が必要なのか、提訴請求をどのように書くのか、代表訴訟以外の手段が適切ではないかを検討する必要があります。

特に、役員による私的流用が疑われる、株主総会決議のない役員報酬がある、関係会社取引が不透明である、会社が資料開示を拒む、売却・買取交渉と並行して責任追及も検討したい、という場合は、早めに弁護士へ相談する価値があります。資料収集、提訴請求、交渉、費用負担、売却方針を一体で整理することが重要です。

よくある質問

少数株主でも株主代表訴訟を起こせますか

要件を満たせば、少数株主でも株主代表訴訟を検討できます。代表訴訟は一定の持株比率を前提とする権利ではなく、1株でも提訴請求を検討できる場合があります。ただし、公開会社・非公開会社の違い、保有期間、単元未満株式、訴訟中の株主資格などを確認する必要があります。

代表訴訟に勝てば、少数株主にお金が入りますか

原則として入りません。代表訴訟は会社のために役員等の責任を追及する制度であり、損害賠償金は会社に帰属します。少数株主個人が直接受け取れるのは、会社法852条に基づく必要費用や弁護士報酬相当額の請求が認められる場合など、別の性質の金銭です。

代表訴訟をすれば株式を買い取ってもらえますか

代表訴訟だけで会社や大株主に株式を買い取らせることはできません。株式の現金化を目指す場合は、売却先、譲渡制限、任意買取交渉、価格評価などを別途検討する必要があります。

まず何から準備すべきですか

まずは、株主であることを示す資料、定款、株主名簿、決算書、総会議事録、役員報酬に関する資料、会社とのやり取り、疑わしい支出の根拠を整理します。資料が不足する場合は、会計帳簿閲覧請求や株主総会での質問を先に検討することがあります。

まとめ

  • 株主代表訴訟は、会社に代わって役員等の責任を追及する制度です
  • 原則として、会社への提訴請求と60日経過を経て代表訴訟を検討します
  • 非公開会社では6か月保有要件が不要とされるなど、会社の種類で要件が変わります
  • 勝訴しても賠償金は原則会社に帰属し、少数株主個人の売却代金には直結しません
  • 売却・買取を目指す場合は、代表訴訟とは別に価格評価と交渉設計が必要です

株主代表訴訟は、少数株主にとって重要な責任追及手段です。しかし、代表訴訟を起こすべきかどうかは、会社の損害、役員等の責任、証拠、費用、売却・買取方針を踏まえて慎重に判断する必要があります。まずは、資料を整理し、会計帳簿閲覧請求や株主総会対応で足りるのか、代表訴訟まで進むべきなのかを検討しましょう。

坂尾陽弁護士

代表訴訟は「最後の一手」になることもあります。資料収集と売却方針を整理してから判断しましょう。

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代表訴訟を検討する場合は、資料収集、費用、役員報酬、売却・買取、株価評価を分けて確認すると、目的に合った手段を選びやすくなります。

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