少数株式を売却できた事例|複数株主の一斉売却で会社全体譲渡に至ったケース

非上場会社の少数株式は、上場株式のように市場で売却できるものではありません。会社に譲渡制限がある場合も多く、少数株式だけを第三者に売ろうとしても、買主候補から「その株式だけでは経営に関与できない」と見られ、話が進まないことがあります。

もっとも、少数株式を売却できるルートは一つではありません。この記事では、最初は一人の少数株主からの相談として始まったものの、複数株主の一斉売却へ発展し、最終的に会社全体譲渡として数十億円規模の売却が実現した事例を紹介します。

  • 最初の相談は、一人の少数株主が自分の株式を売却したいという内容でした。
  • 少数株式だけでは買い手がつきにくく、譲受候補者も全株式取得の可能性がある場合にM&A検討へ進むという姿勢でした。
  • 他の株主にも接触し、事業承継や将来の株主分散リスクを整理したことで、複数株主の一斉売却へ方向転換しました。
  • 最終的には、少数株式単体の売却ではなく、会社全体譲渡として数十億円規模の売却が実現しました。

坂尾陽弁護士

少数株式は「誰に、何を、どの単位で売るか」を変えるだけで、交渉の見え方が大きく変わることがあります。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年  京都大学法学部卒業
2011年  京都大学法科大学院修了
2011年  司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

弁護士 坂尾陽

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事例の概要|一人の少数株主の売却相談から始まったケース

本件のご依頼者は、非上場会社の株式を保有する50代男性でした。会社の株式は複数の株主グループに分散しており、誰か一人が過半数を握っているというより、いくつかの株主グループが並び立っている状態でした。

ご依頼者の当初の悩みはシンプルでした。自分の少数株式を売却したい。しかし、非上場会社であるため市場で売ることはできず、会社や他の株主に買い取ってもらえるかも分からない。自分の株式だけを売ろうとしても、買主候補にとって魅力があるのかも見えないという状況でした。

当初は、他の株主に買い取ってもらう交渉も想定していた

最初の段階では、ご依頼者の株式を他の株主に買い取ってもらうことも選択肢として検討しました。株主間で経営方針や事業承継をめぐる温度差があり、誰かの株式を買い取って株主構成を整理するという発想自体は、会社側にとっても不自然ではなかったためです。

しかし、話を進めるうちに、単に一人の株式を買い取るだけでは根本的な解決にならない可能性が見えてきました。株式が分散したままであれば、将来の相続や事業承継のタイミングで株主関係がさらに複雑になるおそれがあります。また、会社全体としても、後継者問題や外部承継の選択肢を避けて通れない状況でした。

譲受候補者は、少数株式単体ではなく全株式取得の可能性を重視した

本件で重要だったのは、譲受候補者の見方です。譲受候補者は、ご依頼者一人の少数株式だけを取得しても、会社経営に関与できる範囲は限られると考えていました。つまり、少数株式単体では、M&Aの対象として本格的に検討しにくいという反応でした。

一方で、他の株主にも接触し、全株式又は相当程度まとまった株式を取得できる可能性があるなら、会社全体の譲受けとしてM&Aの検討に入る余地がありました。そこで、単独株式の売却交渉に閉じず、他の株主の意向確認と、会社全体の出口戦略を並行して検討する方針に切り替えました。

注意

少数株式だけでは買い手がつきにくいことがありますが、それは株式に価値がないという意味ではありません。買主から見て、支配権・事業承継・株主構成の整理と結びつくかどうかで、交渉の意味が変わります。

問題点|少数株式だけではM&Aの対象になりにくかった

少数株式の売却で最初に壁になるのは、「誰がその株式を買うのか」という点です。会社や大株主にとっては、株主構成を安定させるメリットがありますが、第三者から見ると、少数株式だけを持っても経営に関与しにくく、配当や情報取得も思うように進まないことがあります。

本件でも、ご依頼者一人の株式だけでは、買主候補が積極的に買い進める理由を作りにくい状況でした。譲渡制限株式であれば会社の承認手続も問題になりますし、売買価格の算定根拠、会社資料の開示、他株主の反応など、実務上のハードルが複数ありました。少数株式の基本的な売却方法については、少数株式を売却するにはの記事でも整理しています。

株主が分散している会社では、個別売却より全体売却が合理的になることがある

株式が分散している会社では、一人の少数株主だけが離脱しても、会社全体の課題が残ることがあります。たとえば、後継者がいない、株主が高齢化している、将来の相続でさらに株主が増える、経営に関与しない株主が複数いるといった事情があると、会社側・株主側の双方にとって、個別の買取交渉よりも会社全体の出口を検討する方が合理的になることがあります。

本件では、社外株主側にも事業承継や将来の株式分散への問題意識がありました。そのため、当初は「自分の株式を売りたい」という一人の相談であっても、他の株主にとっても共通する課題として整理する余地がありました。

他の株主の納得を得るには、感情論ではなく出口の合理性が必要だった

複数株主の一斉売却を進めるには、単に「売りましょう」と声をかけるだけでは足りません。他の株主にとっても、売却するメリット、今売る理由、譲受候補者の信用性、売却価格の妥当性、会社の従業員や取引先への影響を整理する必要があります。

そこで本件では、少数株主側の不満を並べるのではなく、会社の事業承継、株主構成の整理、譲受候補者の取得意欲、今後の経営責任からの離脱という観点を組み合わせて、複数株主が同じ方向を向けるように交渉を進めました。

弁護士の対応|単独売却ではなく、複数株主の一斉売却へ組み替えた

弁護士が入って最初に行ったのは、株主構成と売却可能性の整理です。誰が何%程度の株式を持っているのか、どの株主が経営に関与しているのか、誰が売却に前向きになり得るのか、会社の将来にどのような不安があるのかを確認しました。

そのうえで、ご依頼者一人の売却希望を、会社全体の出口戦略に接続できないかを検討しました。譲受候補者が重視していたのは、少数株式単体の取得ではなく、他株主との接触を通じて全株式取得の可能性が見えるかどうかでした。そのため、買主候補探索と他株主の意向確認を切り離さずに進めました。

譲受候補者との接触を、他株主への説明材料にした

譲受候補者が「全株式取得の可能性があるなら検討に入る」という反応を示したことは、他の株主に対する重要な説明材料になりました。単に一部株主が売りたいという話ではなく、会社全体を第三者に譲渡する現実的な選択肢があると示せたからです。

もちろん、譲受候補者の意向だけで売却が決まるわけではありません。秘密保持、資料開示、譲渡条件、譲渡制限株式の手続、価格交渉、クロージングまで整理する必要があります。しかし、最初の段階で「まとまれば買主が検討する」という方向性を示せたことで、他株主の検討姿勢が変わりました。

他株主にも事業承継の問題を共有し、一斉売却の方向へ進めた

本件では、社外株主も事業承継や今後の会社運営に不安を持っていました。会社の価値があるうちに第三者へ承継するのか、それとも株主間で対立や不透明感を抱えたまま保有し続けるのか。この選択を具体的に示したことで、他株主も一斉売却に前向きになりました。

結果として、個別の少数株式売却ではなく、複数株主がまとまって売却する方向に議論が進みました。ご依頼者にとっては、自分一人の株式を買い取ってもらうよりも、会社全体の譲渡に参加する方が、価格面・手続面・紛争解決面で合理的な選択肢となりました。

解決の転機

本件の転機は、少数株主一人の「株を売りたい」という相談を、他の株主にとっても意味のある「会社全体の出口戦略」に組み替えたことです。売却交渉では、相手にとっての経済合理性を作ることが重要です。

結果|複数株主が一斉に売却し、数十億円規模の会社全体譲渡が実現

最終的に、複数株主が一斉に株式を売却する方向でまとまり、会社全体譲渡として数十億円規模の売却が実現しました。ご依頼者は、当初は自分の少数株式だけをどう売るかという悩みを抱えていましたが、結果として、会社全体の譲渡に参加する形で株式を現金化できました。

この解決により、ご依頼者は、売却困難な少数株式を保有し続ける負担、株主間の対立、今後の事業承継に伴う不確実性から離脱できました。他の株主にとっても、会社の将来を曖昧にしたまま保有を続けるのではなく、第三者への承継という形で出口を作ることができました。

少数株式の売却事例として本件が特徴的なのは、単に「会社に買い取ってもらった」という話ではないことです。少数株式単体では買い手がつきにくい状況でも、複数株主がまとまることで、会社全体の譲渡という別のルートが開けた点に大きな意味があります。

この事例から分かるポイント

少数株式は、単独では弱くても、まとまると交渉力が変わる

少数株式は、単独では会社を支配できないため、買主から低く見られがちです。しかし、他の株主と連携できる場合や、株主構成が分散している場合には、単なる配当目的の株式とは違った意味を持つことがあります。

裁判例でも、発行済株式総数の約18.9%を保有する株主について、他の株主の保有割合も近く、株式が実質的に複数者に分散していた事情のもとで、他株主と協力して支配を獲得する可能性や、支配を望む他株主にとって無視できない存在であることを指摘したものがあります(大阪地裁平成25年1月31日決定)。

また、40%の株式の移動により譲受人が会社を完全支配できるようになる事案で、経営権の移動に準じて評価方法を検討すべきとした裁判例もあります(東京高裁平成20年4月4日決定)。本件は裁判上の価格決定ではなく任意売却の事例ですが、株式の割合や株主構成によって、少数株式の交渉上の意味が変わることを理解するうえで参考になります。

買主目線では、少数株式単体より会社全体の取得に価値があることがある

買主候補にとって、少数株式だけを取得するメリットは限定的です。会社の経営権を得られず、配当方針も左右できず、情報取得にも限界があるからです。だからこそ、少数株主側は「自分の株式を買ってください」と言うだけではなく、買主にとって何を取得できるのかを整理する必要があります。

本件では、譲受候補者が他の株主にも接触し、全株式取得の可能性があるならM&Aに入るという流れを作ったことで、売却交渉の性質が変わりました。少数株式単体の売買ではなく、会社全体の承継案件として見てもらえるようになったのです。

他株主の課題を拾うことで、一斉売却に進むことがある

複数株主の一斉売却では、他株主がなぜ売却に応じるのかを丁寧に整理する必要があります。単に価格が高いからではなく、後継者不在、相続による株主分散、経営関与の負担、会社の将来への不安など、株主ごとの課題が背景にあることが少なくありません。

本件でも、社外株主が事業承継等を考えて会社売却に前向きになったことが、一斉売却の大きな要因になりました。少数株主の売却相談では、最初の相談者だけでなく、他株主の利害や心理をどう整理するかが解決の分かれ目になることがあります。

少数株式の売却ルートは一つではない

本件は、複数株主の一斉売却から会社全体譲渡に至った事例ですが、すべてのケースでこの方法が使えるわけではありません。少数株式の売却では、会社の状況、株主構成、譲渡制限の有無、買主候補、会社資料の有無によって、現実的なルートが変わります。

  • 会社・大株主に買い取ってもらうルート:会社側に株式集約や事業承継上のメリットがある場合に検討します。詳しくは会社・大株主に少数株式を買い取ってもらった事例で扱います。
  • 第三者に売却するルート:譲受候補者が見つかり、譲渡制限手続や会社側の承認を整理できる場合に検討します。
  • 複数株主でまとまって売却するルート:本件のように、株主構成が分散しており、会社全体の譲渡に発展する可能性がある場合に有効です。
  • 少数株主権を行使して交渉環境を整えるルート:会社資料が出ない、不透明な支出がある、価格評価に必要な資料がない場合には、会計帳簿閲覧請求等が問題になります。詳しくは会計帳簿閲覧請求で会社私物化を解決した事例で扱います。

売却ルートを検討するときは、最初から一つに決め打ちしないことが重要です。会社・大株主への売却、第三者売却、複数株主の連携、少数株主権行使を並行して検討することで、相手方にとっても合理的な解決案を提示しやすくなります。

相談前に整理しておくとよい資料

少数株式の売却相談では、最初から完璧な資料がそろっている必要はありません。ただし、売却ルートを判断するには、株式数、株主構成、会社の財務状況、譲渡制限の有無が重要になります。

  • 自分が保有している株式数・持株比率が分かる資料
  • 株主名簿、株主総会資料、過去の通知書など株主構成が分かる資料
  • 定款、株式譲渡に関する契約書、退職時買取条項などの資料
  • 決算書、計算書類、配当通知、会社から届いた資料
  • 会社や他株主とのやり取りが分かるメール、手紙、メッセージ

資料が十分にない場合でも、株主名簿閲覧請求や会計帳簿閲覧請求などの方法で、必要な情報を集められることがあります。株価評価や売却価格の考え方については、非上場株式の株価評価・価格算定も参考になります。

まとめ|少数株式の売却は、買主と売却単位の設計で結果が変わる

本件は、一人の少数株主から始まった売却相談が、複数株主の一斉売却に発展し、最終的に会社全体譲渡として数十億円規模の売却が実現した事例です。少数株式単体では買い手がつきにくい状況でも、他株主の意向、譲受候補者の取得ニーズ、事業承継上の課題を組み合わせることで、別の解決ルートが開けることがあります。

  • 少数株式単体では売却が難しくても、複数株主がまとまると会社全体譲渡につながることがあります。
  • 譲受候補者は、少数株式だけでなく、全株式取得や経営権取得の可能性を重視することがあります。
  • 他株主が事業承継や将来の株主分散に不安を持っている場合、一斉売却の方向に進むことがあります。
  • 売却交渉では、株主側の希望だけでなく、買主・会社・他株主にとっての合理性を整理することが重要です。
  • 会社資料や株価評価に不安がある場合は、少数株主権の行使も含めて検討する必要があります。

坂尾陽弁護士

少数株式を売りたいときは、「自分の株式だけを売る」以外の選択肢も含めて、株主構成と買主候補を整理することが大切です。

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