少数株式や非上場株式を持っているものの、会社経営には関与できず、配当も受けられず、会社や大株主に買い取ってもらいたいと考える少数株主は少なくありません。親族会社・同族会社の株式を相続した場合、退職時に従業員持株会や株主間の約束が問題になる場合、会社側から低額の買取価格を提示されている場合など、事情はさまざまです。
もっとも、少数株式については、株主が「会社に買い取ってほしい」と希望すれば、当然に会社や大株主に買い取らせられるわけではありません。任意の買取交渉なのか、譲渡制限株式の不承認後の買取なのか、契約上の買取請求なのか、反対株主としての株式買取請求なのかによって、根拠、手続、交渉相手、価格の考え方が変わります。
この記事では、少数株式・非上場株式の買取について、少数株主側が最初に整理すべき全体像を説明します。この記事を読めば「どのルートを検討すべきか」を判断できるようにしつつ、詳しい実務論点は各個別ページへ進めるように整理しています。
- 少数株式は、常に会社へ買い取らせられるわけではありません。
- 任意の買取交渉と、法律上・契約上の買取請求は別のものです。
- 会社・大株主・他株主・第三者・買取業者のどこを相手にするかで進め方が変わります。
- 買取価格は、会社の一方的な提示額や額面だけで決まるとは限りません。
- 資料がない場合でも、弁護士から会社に資料請求や権利行使を検討できる場合があります。
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
- 少数株式・非上場株式を買い取ってもらう方法の全体像
- 買取交渉と買取請求は分けて考える
- このページの読み方:自分の状況から該当記事へ進む
- 会社・大株主に任意で買い取ってもらう交渉の進め方
- 第三者・他株主・投資家への売却を交渉にどう使うか
- 買取業者を利用する場合のメリットと注意点
- 譲渡制限株式で会社・指定買取人に買い取ってもらうルート
- 契約・持株会規約に基づいて株式を買い取ってもらう場合
- 反対株主の株式買取請求・スクイーズアウトで買い取られる場合
- 法的な買取ルートを選ぶときの判断軸
- 買取価格・低額提示への対応
- 会計帳簿閲覧請求と価格資料の集め方
- 資料がなくても相談できる|少数株主側で整理しておきたいこと
- 少数株式の買取で、どのルートを選ぶべきか
- まとめ|少数株式の買取は、交渉・請求・価格資料を分けて考える
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少数株式・非上場株式を買い取ってもらう方法の全体像
少数株式を換価したい場合、株主側から見ると「売却したい」という問題であり、買い手側から見ると「買取」の問題です。ただし、法的には、誰に売るのか、会社が承認するのか、契約上の買取条項があるのか、会社法上の株式買取請求権があるのかによって、使える手段が異なります。
そのため、最初に「会社に買い取ってもらえるか」だけを考えるのではなく、買い手候補と法的根拠を分けて整理することが重要です。ここを混同すると、会社に一般的な買取義務がない場面で「買取請求権がある」と誤解したり、逆に本来使える手続を見落としたりするおそれがあります。
最初に分けるべきなのは「誰が買い取るのか」
少数株式の買取を考えるときは、まず、誰が株式を買うのかを整理します。買い手候補ごとに、会社側の反応、価格交渉のしやすさ、必要な資料、法的リスクが変わるためです。
- 会社が買い取る場合:自己株式取得の手続や会社側の資金事情が問題になります。任意交渉で進める場合もあれば、譲渡制限株式の不承認後に会社が買い取る流れになる場合もあります。
- 大株主・経営者が買い取る場合:資本構成の整理、事業承継、親族内の将来紛争防止など、相手方にも株主整理のニーズがあると交渉が進みやすい場合があります。
- 他の株主が買い取る場合:もっとも自然な買い手候補になりやすい一方で、他株主から株式を買い増して交渉力を高めるという逆方向の検討が必要になることもあります。
- 取引先・投資家など第三者が買い取る場合:譲渡制限、情報提供、会社側の承認、経営者側との関係調整が重要になります。競合や取引先への売却では情報流出を理由に反発されることもあります。
- 買取業者が買い取る場合:早期現金化の選択肢になり得ますが、価格、契約条件、会社との関係、法的リスクを慎重に確認する必要があります。
売却方法全般を広く整理したい場合は、非上場株式の売却方法や、既存の少数株式・非上場株式ガイドも参考になります。本ページでは、その中でも「買い取ってもらう」場面に絞って整理します。
「売却」と「買取」は同じ取引を別の側から見た言葉です
少数株主が「株式を売る」ことと、会社・大株主・第三者が「株式を買い取る」ことは、同じ株式譲渡を別の側から見た表現です。
売却まとめページでは、誰に売るか、売れない場合にどうするか、買い手候補をどう探すかという広い入口を扱います。これに対し、買取まとめページでは、会社・大株主・買取業者・契約・会社法上の買取請求など、相手方に買い取ってもらうルートを整理します。価格評価や裁判上の価格決定の詳細は、非上場株式の評価・株価算定や売買価格決定申立てのページで詳しく扱います。
少数株主側から見れば「売却」、相手方から見れば「買取」です。ただし、任意交渉、譲渡制限株式の手続、契約上の買取請求、反対株主の株式買取請求は、根拠も手続も同じではありません。
少数株式を買い取ってもらう主なルート
このページで扱う買取ルートは、大きく次の5つです。すべてを同じ方法として扱うのではなく、自分の状況に近いものから確認することが大切です。
- 会社・大株主との任意の買取交渉:法律上の明確な買取請求権がない場合でも、会社側・大株主側の資本構成整理ニーズがあれば、交渉で買い取ってもらえることがあります。詳しくは少数株主が会社・大株主に株式を買い取ってもらう方法で解説します。
- 買取業者・第三者への売却:会社・大株主が応じない場合、買取業者や第三者への売却を検討することがあります。詳しくは非上場株式・少数株式の買取業者を利用する際の注意点で整理します。
- 譲渡制限株式の不承認後の買取:定款上、株式譲渡に会社の承認が必要な場合、譲渡承認請求をし、会社が承認しないときに会社または指定買取人による買取が問題になります。詳しくは譲渡制限株式の買取請求で解説します。
- 契約・規約に基づく買取請求:株主間契約、投資契約、従業員持株会規約、退職時の買戻し条項などに基づき、買取・買戻しが問題になる場合があります。詳しくは契約に基づく株式買取請求で扱います。
- 反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求:組織再編、株式併合、スクイーズアウトなどで、少数株主が株式を買い取られる場面では、公正な価格や手続期限が問題になります。詳しくは反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求で解説します。
このように、少数株式の買取は、単に「会社に請求する」という一つの方法ではありません。会社・大株主との交渉で進めるべき場面もあれば、譲渡承認請求や裁判所の価格決定を見据えるべき場面、契約書や規約を最初に確認すべき場面もあります。
買取交渉と買取請求は分けて考える
少数株式の買取で最も重要なのは、任意の買取交渉と法律上・契約上の買取請求を混同しないことです。検索上は「少数株主 買取」「少数株主 買取請求」「非上場株式 買取請求」といった言葉が近く見えますが、法的な意味は異なります。
任意交渉では、会社や大株主に対して、なぜ今買い取るべきなのか、価格をどう考えるのか、支払時期や契約条件をどう設計するのかを話し合います。これに対し、法律上・契約上の買取請求では、会社法上の手続や契約条項など、請求の根拠があるかどうかを確認する必要があります。
任意の買取交渉は、権利の有無だけで決まるものではありません
任意の買取交渉では、少数株主に当然の買取請求権があるわけではない場面でも、会社・大株主側が買取に応じることがあります。特に、事業承継、株主構成の整理、将来の相続紛争の予防、外部株主を減らしたい事情など、会社側にも合理的なニーズがある場合には、交渉の土壌ができやすくなります。
本人同士の交渉では、親族間の感情対立や過去の経緯が前面に出てしまい、「買い取る」「買い取らない」という硬直したやり取りになりがちです。双方に弁護士が立つと、感情的な対立から、価格、支払時期、譲渡手続、守秘、今後の関係整理といった条件交渉へ移りやすくなる場合があります。
また、相手方にも弁護士が立つことで、経営者側にとっても、少数株主本人と直接対立するのではなく、相手方弁護士を通じて合理的に説明・調整しやすくなることがあります。この点は、任意交渉を進めるうえで実務上重要です。
法律上・契約上の買取請求は、根拠の確認が出発点です
一方で、法律上または契約上の買取請求を検討する場合は、「どの根拠に基づいて請求するのか」を確認しなければなりません。根拠がないまま「買取請求権がある」と主張しても、会社側に受け入れられない可能性が高く、交渉全体がこじれることもあります。
- 譲渡制限株式の手続では、第三者への譲渡を会社が承認しない場合に、会社または指定買取人による買取と売買価格決定が問題になります。
- 契約上の買取請求では、投資契約、株主間契約、退職時の買戻し条項、従業員持株会規約などの文言と成立経緯が問題になります。
- 反対株主の株式買取請求では、組織再編やスクイーズアウトなど、会社の重要な行為に反対する少数株主が、一定の手続に従って株式の買取を求める場面が問題になります。
このような根拠がある場合は、任意交渉だけでなく、手続期限、必要な通知、裁判所への申立て、価格決定の見通しを含めて検討する必要があります。逆に、根拠が明確でない場合は、任意交渉としてどう会社・大株主に働きかけるかを中心に考えるべきです。
少数株主権は、直接の買取請求権ではなく交渉・価格算定の準備に使います
少数株主権を行使すれば、当然に会社や大株主に株式を買い取らせられるわけではありません。会計帳簿閲覧請求、株主名簿閲覧請求、株主総会に関する権利、役員責任追及などは、それぞれ別の目的と要件を持つ権利です。
もっとも、会社の決算書が見られない、配当の有無が分からない、会社側の低額提示の根拠が不明、会社運営が不透明で資産状況に疑問があるといった場合には、少数株主権が買取交渉や価格算定の準備に役立つことがあります。たとえば、最高裁平成16年7月1日判決は、譲渡制限株式の適正な価格を算定する目的で会計帳簿等の閲覧謄写請求をした場合について、特段の事情がない限り、株主権の確保・行使に関する調査ではないとして拒絶されるものではないと判断しています。
したがって、少数株主権は「買い取らせる権利」そのものではなく、会社の財務状況、純資産、配当実績、過去の説明資料などを確認し、買取価格や交渉方針を検討するための手段として位置づけるのが正確です。会計帳簿閲覧請求の詳しい使い方は、会計帳簿閲覧請求の解説で整理しています。
少数株主権の行使は、買取交渉の材料になることがありますが、それだけで当然に会社・大株主へ株式を買い取らせる権利が発生するわけではありません。
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このページの読み方:自分の状況から該当記事へ進む
このページは、少数株式・非上場株式の買取に関するまとめページです。最初から最後まで通読すれば全体像を把握できますが、具体的な対応方針を検討するときは、自分の状況に近い個別ページへ進むと理解しやすくなります。
特に、この総合ページと会社・大株主との任意買取交渉を詳しく扱う個別ページは、キーワードが近いため役割を分けています。本ページは「どのルートを選ぶべきか」を整理する総合入口です。任意買取交渉の個別ページでは、会社・大株主と任意交渉を進める具体的な実務を詳しく扱います。
会社・大株主と話し合える余地がある場合
会社や大株主に「買い取ってほしい」と申し入れたい場合、まずは任意交渉の設計が重要です。相手方に買い取る義務が明確にあるとは限らないため、会社側の資本構成整理ニーズ、事業承継、将来の紛争予防、価格資料、支払条件を踏まえて話し合う必要があります。
この場合は、少数株主が会社・大株主に株式を買い取ってもらうにはを確認してください。弁護士が入る意味、本人同士で揉めている場合に弁護士同士の交渉へ移す意義、会社側にも株主整理のニーズがある場合の進め方を詳しく整理します。
第三者・買取業者・譲渡制限・契約・スクイーズアウトを検討する場合
会社・大株主との任意交渉だけでなく、第三者への売却や会社法上・契約上の手続を検討すべき場合もあります。次のように、主な問題ごとに読むべき記事を分けると、カニバリせずに判断できます。
- 買取業者・第三者売却を検討している場合:買取業者を利用する際の注意点
- 譲渡制限株式を売却したい場合:譲渡制限株式の買取請求
- 投資契約・株主間契約・持株会規約がある場合:契約に基づく株式買取請求
- 株式併合・組織再編・スクイーズアウトがある場合:反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求
退職時に従業員持株会の規約や覚書に基づいて買戻しが問題になる場合は、単なる任意交渉ではなく、契約・規約の内容を確認する必要があります。最高裁平成7年4月25日判決や最高裁平成21年2月17日判決では、従業員持株制度や持株会の株式譲渡ルールに基づく額面額での譲渡・買戻し合意の有効性が問題になりました。もっとも、どのような買戻し条項でも当然に有効というわけではなく、制度の趣旨、取得時の説明、取得価格、配当状況、自由意思などの具体的事情を確認する必要があります。
価格・売却全般・少数株主権はそれぞれの個別ページへ
買取交渉では、価格が必ず問題になります。ただし、本ページで株価算定の詳細までは掘り下げません。会社から低額提示を受けた場合、まず決算書、純資産、配当実績を確認し、必要に応じて非上場株式の評価・株価算定や売買価格決定申立てのページへ進んでください。
また、株式を売りたいという入口が広い場合は、非上場株式の売却方法で売却全体を確認し、少数株主権を広く知りたい場合は少数株主の権利ガイドを確認すると、全体像を整理しやすくなります。
次の部分では、会社・大株主に任意で買い取ってもらうための交渉設計、第三者買い手や買取業者を検討する場合の注意点を、もう少し具体的に説明します。
会社・大株主に任意で買い取ってもらう交渉の進め方
会社や大株主に少数株式を任意で買い取ってもらう場合、最初に考えるべきことは「相手に法的義務があるか」だけではありません。任意交渉では、相手方に明確な買取義務がない場面でも、会社側・大株主側の事情と少数株主側の事情が重なることで、現実的な解決に向かうことがあります。
たとえば、会社側が事業承継を控えている、株主構成を整理したい、将来の相続や親族間紛争を避けたい、外部株主や対立株主を減らしたいと考えている場合には、少数株主からの買取申入れが会社側にとっても合理的な選択肢になることがあります。任意交渉の詳しい進め方は、少数株主が会社・大株主に株式を買い取ってもらう方法で詳しく整理しますが、このページでもピラーとして重要な考え方を押さえておきます。
買取に応じやすいのは、会社側にも株主整理の必要がある場合です
相続、退職、親族対立などの事情があるからといって、それだけで会社や大株主が当然に買取に応じるわけではありません。重要なのは、少数株主側の事情だけでなく、会社側・大株主側にも「今、株式を整理する理由」があるかどうかです。
会社側が買取を検討しやすい典型例としては、次のような事情が考えられます。
- 事業承継を控えている場合:後継者に経営権を移す前に、親族外・対立関係にある少数株主を整理したいというニーズが生じることがあります。
- 将来の相続紛争を避けたい場合:少数株式が次世代に分散すると、株主構成が複雑になり、会社運営や意思決定に支障が出るおそれがあります。
- 株主総会や資料請求への対応負担を減らしたい場合:少数株主との関係が悪化している場合、会社側も継続的な対応コストを避けたいと考えることがあります。
- 外部の第三者に株式が移ることを避けたい場合:譲渡制限株式であっても、第三者への譲渡承認請求が出される前に、会社側が任意買取を検討することがあります。
このように、任意買取交渉では「自分が困っている」ことだけを伝えるよりも、会社側にとっても株式を整理する意味があることを示す方が、話し合いの土台を作りやすくなります。
本人同士の交渉で揉めているときこそ、弁護士同士の交渉が機能することがあります
親族会社や同族会社の少数株式では、本人同士の交渉が感情的な対立に入りやすいという特徴があります。過去の親族関係、役員時代の経緯、相続をめぐる不満、配当がないことへの不信感などが重なり、価格や条件の話に進めないことがあります。
このような場面では、少数株主側に弁護士が入るだけでなく、相手方にも弁護士が立つことで、交渉が進みやすくなることがあります。相手方弁護士が会社経営者側の「クッション」になり、経営者本人が感情的に拒否していた話でも、法的なリスク、価格の根拠、支払条件、契約条項という形で整理し直せるからです。
弁護士が入る意味は、強硬な請求をすることだけではありません。本人同士の感情対立を、価格・支払時期・譲渡手続・守秘義務などの条件交渉に移すことにも大きな意味があります。
もちろん、弁護士が入れば必ず買い取ってもらえるわけではありません。しかし、会社側が「何を求められているのか」「どの条件なら解決できるのか」を整理しやすくなるため、本人同士では止まっていた交渉が、合理的な話し合いに移ることがあります。
最初の申入れでは、価格だけでなく条件全体を整理します
少数株主が会社や大株主に対して買取を申し入れるとき、最初から「いくらで買ってください」という価格だけを出すと、会社側から低額提示を受けたまま交渉が硬直することがあります。任意交渉では、価格とあわせて、誰が買うのか、いつ支払うのか、どの資料を前提に価格を決めるのか、どの契約条件で譲渡するのかを整理する必要があります。
交渉開始時に確認しておきたい事項は、次のとおりです。
- 買主を会社にするのか、大株主にするのか、他株主にするのか
- 一括払いか、分割払いか、支払期限をどう設定するか
- 価格の根拠として決算書、純資産、配当実績を確認できるか
- 株式譲渡契約書、株主名簿書換、株券の有無をどう処理するか
- 譲渡後の守秘義務、追加請求の有無、紛争終結条項をどう定めるか
少数株式の買取交渉では、価格だけでなく「譲渡後に紛争を残さないこと」も重要です。特に親族会社では、株式を売却しても親族関係や相続関係が続く場合があります。そのため、契約書では、対象株式、代金、支払時期、名義書換、表明保証、清算条項などを具体的に定める必要があります。
会社側から「資金がない」「少数株式に価値が低い」と言われた場合
会社側からは、「会社に買い取る資金がない」「少数株式なので価値が低い」「配当していないから価値がない」「買い手がいない」といった説明を受けることがあります。これらは交渉上よく出る反論ですが、そのまま受け入れるべきとは限りません。
まず確認すべき資料は、決算書です。貸借対照表で純資産や保有資産を確認し、損益計算書で収益状況を確認し、過去の配当実績も見ます。少数株式の価格は、会社が一方的に提示した金額、額面額、相続税評価額だけで決まるものではありません。どの評価方法が適切かは、株式の割合、会社の規模、配当の有無、資産内容、買主の立場などによって変わります。
もっとも、このページでは価格評価の詳細には入りすぎません。低額提示への本格的な対応では、非上場株式の評価・株価算定や、裁判所で価格を決める場面を扱う売買価格決定申立てもあわせて確認する必要があります。
第三者・他株主・投資家への売却を交渉にどう使うか
会社や大株主が任意買取に応じない場合でも、少数株主側には第三者への売却を検討する余地があります。ただし、非上場会社の株式には譲渡制限が付いていることが多く、買い手候補を見つければ直ちに自由に売却できるとは限りません。
第三者売却は、実際に売却先を探す手段であると同時に、会社・大株主との買取交渉を進めるための材料にもなります。会社側が外部株主の参加を避けたい場合、第三者売却の可能性が見えることで、会社又は大株主による買取交渉が進むことがあるからです。売却全体の流れは非上場株式の売却方法でも整理しています。
他株主は自然な買い手候補になりやすい一方、買い増しの選択肢もあります
第三者買い手の候補として、まず検討しやすいのは他の株主です。他株主は会社の事業内容や株主構成を一定程度理解しているため、外部の投資家や取引先よりも買い手候補になりやすい場合があります。会社側から見ても、既存株主の間で株式が移動する方が、全く新しい第三者が入るより受け入れやすいことがあります。
一方で、少数株主側が他株主に株式を売るだけでなく、逆に他株主から株式を買い増して持株比率を高めた上で交渉するという発想もあります。たとえば、一定の議決権割合に近づくことで、株主権の行使や交渉上の存在感が変わることがあります。ただし、買い増しには資金負担があり、会社側との関係も変わるため、安易に行うべきではありません。
他株主への売却を検討する場合は、売却先の立場、会社側との関係、他株主間の対立状況、売却後の株主構成を確認する必要があります。単に「他の株主なら安全」と考えるのではなく、その株主が会社側と同じ利害を持つのか、少数株主側と協調できるのかを見極めることが重要です。
取引先・競合への売却は、情報流出と会社側の反発を想定します
取引先や競合他社も、場合によっては買い手候補になり得ます。事業シナジーがある会社、過去に資本提携を検討した会社、会社の事業に関心を持つ取引先などは、株式取得に関心を示す可能性があります。
もっとも、取引先や競合に売却しようとすると、会社側から「情報流出のおそれがある」「競合に会社情報を渡す目的ではないか」「株主権行使が会社への嫌がらせである」といった反論を受けることがあります。特に、会計帳簿閲覧請求などで会社資料を取得した後に競合への売却を検討する場合には、取得した情報の取扱いが問題になりやすくなります。
そのため、取引先・競合を買い手候補にする場合は、開示する情報の範囲、守秘義務、交渉の順序、会社側への説明方法を慎重に設計する必要があります。情報取得と売却交渉を混同すると、会社側に拒絶理由を与え、かえって買取交渉が難しくなることがあります。
投資家に売る場合は、経営者側との一定の調整が必要です
投資家やファンドに少数株式を売却することも、理論上は選択肢になります。しかし、非上場会社の少数株式を投資家が買うには、会社の財務情報、事業計画、株主構成、配当方針、出口戦略などを確認する必要があります。これらの情報が全く得られない状態では、投資家側が価格を判断しにくくなります。
また、経営者側と完全に対立したまま投資家が参加すると、会社側からは敵対的な株主として受け止められる可能性があります。非上場会社の少数株式では、上場株式のように市場で自由に売買できるわけではなく、投資家が入った後の権利行使や出口も問題になります。そのため、投資家に売る場合でも、経営者側と一定程度話をつけ、少なくとも会社側が買い手候補の存在を理解できる土壌を作ることが重要です。
投資家の関与は、会社側に対する圧力として使うというよりも、会社・大株主に対して「この株式には外部にも関心を持つ可能性がある」という現実的な交渉材料として位置づける方が、実務上は使いやすいことがあります。
買取業者を利用する場合のメリットと注意点
少数株式や非上場株式については、買取業者に売却するという選択肢が出てくることがあります。会社や大株主との交渉に時間がかかる場合、早く現金化したい場合、相手方と直接話したくない場合には、買取業者への売却が魅力的に見えることがあります。
もっとも、買取業者は「早く現金化できる可能性がある」というメリットがある一方で、価格、契約条件、会社側との関係、法的リスクを慎重に確認する必要があります。買取業者を利用する場合の詳細は、非上場株式・少数株式の買取業者を利用する際の注意点で整理します。
早く現金化できることはメリットです
少数株式は、市場で売れる上場株式と異なり、買い手探しに時間がかかります。会社・大株主との関係が悪化している場合、本人同士で交渉を続けること自体が大きな負担になることもあります。その意味で、買取業者が一定の価格で買い取る提案をする場合、早期に現金化できることは少数株主にとってメリットになり得ます。
特に、相続で取得した非上場株式を持ち続けたくない場合、会社から配当がない場合、資料が少なく自分では交渉しにくい場合には、買取業者の提案が一つの選択肢になることがあります。業者に売ること自体を一律に否定する必要はありません。
ただし、早期現金化と引き換えに、価格が低くなることがあります。買取業者は、買い取った後に会社・大株主・指定買取人との交渉や売買価格決定手続を行う可能性があり、そのリスクや手間を見込んで価格を提示することがあるためです。
会社側の提示金額より高いから買取業者が良いとは限りません
買取業者の提示価格を見るときは、会社側の提示額より高いか低いかだけで判断しないことが重要です。会社側の提示額が著しく低い場合、買取業者の提示額がそれより高く見えることがあります。しかし、その価格が株式の実質的な価値と比べてどうなのか、契約条件としてどのような義務を負うのかを確認しなければ、適切な判断はできません。
確認すべきポイントは、次のとおりです。
- 提示価格の根拠:決算書、純資産、配当実績、会社の収益力などをどの程度反映しているかを確認します。
- 支払時期と解除条件:契約締結時に支払われるのか、会社側との手続後に支払われるのか、解除される場面があるのかを確認します。
- 会社資料の取扱い:株主として取得した資料や会社情報をどこまで提供するのか、守秘義務との関係を確認します。
- 紛争化した場合の対応:譲渡承認請求、価格決定申立て、会社側からの反論が出た場合に、誰がどの範囲で対応するのかを確認します。
- 弁護士法上のリスク:単なる株式売買にとどまらず、法律上の権利実行を業として行う形になっていないかを慎重に確認します。
価格が高く見える提案でも、支払条件が不明確であったり、後から解除される余地が広かったり、会社情報の提供について問題が生じたりする場合には、慎重に検討する必要があります。
買取業者の法的リスクは裁判例上も問題になっています
買取業者をめぐっては、近時の裁判例でも法的リスクが問題になっています。大阪高裁令和6年7月12日判決は、譲渡制限株式を譲り受け、発行会社に譲渡承認請求をし、売買価格決定申立てなどによって権利を実行することを業とする行為が、弁護士法73条に違反すると判断した事例です。
この裁判例を読むときに注意すべきなのは、買取業者によるすべての株式譲受けが当然に無効になるという意味ではないことです。問題になった事業の内容、権利の譲受けの方法、価格差による利益構造、売買価格決定手続の利用方法など、具体的な事情を踏まえた判断です。
それでも、少数株主側としては、買取業者に売却する前に、単なる売買なのか、会社法上の手続や紛争処理を業者が実質的に担う形なのか、契約上どのような義務を負うのかを確認する必要があります。早く現金化したいという気持ちだけで契約すると、価格や手続をめぐって後から想定外の問題が生じることがあります。
弁護士相談は「業者に売るかどうか」を決める前にも有効です
弁護士に相談するのは、会社や大株主と交渉する場合だけではありません。買取業者から提案を受けた段階で、その価格が妥当か、契約条件に問題がないか、会社・大株主との任意交渉や譲渡承認請求を先に検討すべきかを整理するためにも、弁護士相談は有効です。
少数株主が手元に十分な資料を持っていない場合でも、相談を始められないわけではありません。決算書、定款、株主名簿、株主総会資料、配当通知、会社とのやり取りなどが手元にあれば有用ですが、少数株主が無視されている場合には、資料がほとんどないこと自体が問題になります。必要な資料は、交渉や権利行使の中で会社に請求することを検討できます。
買取業者、第三者売却、会社・大株主との任意交渉は、互いに排他的な選択肢ではありません。どの方法を先に使うか、どの時点で法的手続を検討するか、価格資料をどこまで集めるかを整理することで、少数株主側の選択肢を広げることができます。
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譲渡制限株式で会社・指定買取人に買い取ってもらうルート
非上場会社や同族会社の株式には、定款で譲渡制限が付いていることが多くあります。譲渡制限株式とは、株主が第三者に株式を譲渡するために会社の承認が必要とされている株式です。少数株主が自由に買い手を見つけて売却できない一方で、手続を適切に組み立てれば、会社又は会社が指定する買取人による買取に進むことがあります。
ここで重要なのは、譲渡制限株式だからといって、少数株主がいつでも会社に「買い取れ」と請求できるわけではないという点です。基本は、譲渡しようとする相手方を想定し、会社に対して譲渡を承認するかどうかの判断を求める手続から始まります。そのうえで、会社が承認しない場合に、会社又は指定買取人による買取を求める設計を取ることがあります。具体的な手続は譲渡制限株式の買取請求で詳しく整理しています。
まず定款・株主名簿・株式の種類を確認する
譲渡制限株式の買取ルートを検討する前に、まず確認すべきなのは、そもそも保有株式に譲渡制限が付いているかどうかです。非上場会社では譲渡制限があることが多いものの、会社ごとに定款の書き方、承認機関、株式の種類、株券発行の有無が異なります。
確認したい資料は、定款、株主名簿、株式取得時の契約書、株券の有無が分かる資料、過去の譲渡承認に関する通知、会社とのやり取りなどです。もっとも、少数株主が会社から情報を与えられていない場合、手元にこれらの資料がないことも珍しくありません。その場合でも、資料がないこと自体を前提に、会社への資料請求や株主権行使の可能性を検討できます。
譲渡制限の有無は、株式を売れるかどうかだけでなく、会社側に買取を求める手続へ進めるかどうかにも関わります。定款が手元にない場合でも、相談時には「会社から定款や株主名簿を見せてもらえていない」と伝えれば足ります。
譲渡承認請求は、いきなり出すより事前調整が重要です
譲渡制限株式を第三者に売却したい場合、会社に対して譲渡承認請求を行うことがあります。会社が譲渡を承認すれば、その第三者に株式を譲渡できる方向に進みます。会社が承認しない場合には、会社又は指定買取人による買取、売買価格の協議、裁判所での価格決定などが問題になります。
ただし、実務上は、譲渡承認請求をいきなり会社に突き付ければよいとは限りません。譲渡承認が見込まれる場合でも、不承認が見込まれる場合でも、会社側には期限内に判断し、必要な通知や手続を行う必要があります。会社側が手続を誤ると、会社側にも少数株主側にも予想外の結果が生じることがあります。
たとえば、会社側が譲渡を承認するつもりだったのに、期限や通知の扱いを誤ったために、承認の有無をめぐる争いが生じることがあります。逆に、会社側が不承認にして自社又は指定買取人で買い取るつもりだったのに、手続設計が不十分で価格や買主の整理ができていないこともあります。
譲渡承認請求は、会社側を動かす強い契機になり得ますが、期限管理や通知内容を誤ると紛争が複雑になります。事前に、買い手候補、会社側の反応、承認・不承認後の流れ、価格交渉の方針を整理してから使うことが重要です。
不承認後は会社又は指定買取人との価格交渉に移ります
会社が譲渡を承認しない場合、会社自身又は会社が指定する買取人が株式を買い取る方向に進むことがあります。この場面では、「買い取るかどうか」だけでなく、「いくらで買い取るか」が中心的な争点になります。
会社側は、額面額、相続税評価額、配当がないこと、少数株式であることなどを理由に、低い価格を提示してくることがあります。しかし、売買価格は会社の一方的な提示だけで決まるものではありません。協議がまとまらない場合には、裁判所に売買価格の決定を求める手続が問題になります。売買価格決定の詳しい流れは、非上場株式の売買価格決定申立てで確認できます。
譲渡制限株式の売買価格決定では、会社の資産状態、収益力、配当、株主の持株比率、支配権への影響、流動性の制約など、さまざまな事情が検討されます。最高裁令和5年5月24日決定は、会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格決定手続で、DCF法により算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると判断した事案です。これは、価格が単純に額面や純資産だけで決まるものではなく、評価方法と手続類型によって判断が変わり得ることを示しています。
本ページでは、譲渡制限株式の不承認後には価格交渉・価格決定が重要になることを押さえ、具体的な評価方法は非上場株式の評価・株価算定で確認する位置づけにします。
譲渡制限株式の手続は、任意交渉と組み合わせて使うことが多い
譲渡承認請求や不承認後の買取は、会社側との任意交渉と切り離して考える必要はありません。実際には、まず会社・大株主と任意交渉を行い、交渉が進まない場合に第三者買い手候補や譲渡承認請求を検討する、又は譲渡承認請求の準備を示すことで会社側との協議を進める、という流れもあります。
ただし、譲渡承認請求は会社側への圧力として便利に使えばよいものではありません。買い手候補がどのような相手か、情報開示をどこまで行うか、会社側が不承認にした場合に買取資金を用意できるか、価格決定に移った場合にどの資料を出せるかを見据えて使う必要があります。
特に、取引先や競合会社を買い手候補にする場合、会社側から情報流出や事業上の不利益を理由に反論されることがあります。第三者売却と譲渡承認請求を組み合わせる場合は、単に買い手を探すだけでなく、会社が承認しないときの買取・価格決定まで含めて設計することが大切です。
契約・持株会規約に基づいて株式を買い取ってもらう場合
少数株式を買い取ってもらう根拠は、会社法上の手続だけではありません。株主間契約、投資契約、退職時の合意、従業員持株会規約、覚書、誓約書などに、一定の場合に株式を買い取る条項が置かれていることがあります。この場合は、任意交渉だけでなく、契約上の権利義務として買取を求められるかどうかを検討します。
契約に基づく買取請求は、条項の文言、契約当事者、発動条件、価格算定方法、支払期限、譲渡承認の扱いによって結論が変わります。詳しくは契約に基づく株式買取請求で整理しています。
株主間契約・投資契約の買取条項を確認する
ベンチャー企業、共同創業、役員・従業員持株、親族会社の承継対策では、株主間契約や投資契約に買取条項が置かれていることがあります。たとえば、退職、役員退任、競業、契約違反、一定の業績未達、支配権移動、相続発生などをきっかけに、会社、創業株主、大株主、投資家のいずれかが株式を買い取る条項です。
このような条項がある場合、まず確認すべきなのは、誰が誰に対して買取を求められるのかです。「会社が買い取る」と書かれているのか、「大株主が買い取る」と書かれているのか、「会社又は会社の指定する者」と書かれているのかによって、請求先も手続も変わります。
次に、買取価格の決め方を確認します。固定額、額面額、取得価格、簿価純資産、税務評価額、第三者評価、当事者協議、裁判所の価格決定など、契約によって書き方はさまざまです。価格条項がある場合でも、その条項が有効か、どの範囲の株式に適用されるか、後の合意で変更されていないかを確認する必要があります。
- 発動条件:退職、退任、相続、契約違反、競業、一定期間の経過など、どの事実で買取条項が動くかを確認します。
- 請求できる人・請求される人:会社、大株主、創業者、投資家、従業員株主の誰が当事者かを確認します。
- 対象株式:取得した全株式か、特定時期に取得した株式だけか、種類株式を含むかを確認します。
- 価格算定方法:取得価格、額面額、評価額、協議額など、価格の決め方を確認します。
- 手続と期限:通知、請求期限、支払時期、譲渡承認、株主名簿書換の流れを確認します。
契約書が手元にない場合でも、過去に株式を取得したときのメール、覚書、振込記録、株主総会資料、入社時・退職時の書類が手がかりになることがあります。少数株主が会社から書類を渡されていない場合は、弁護士から会社に資料開示を求めることも検討できます。
従業員持株会・退職時の買戻しルールがある場合
退職時に問題になりやすいのが、従業員持株会や従業員株主として取得した非上場株式です。従業員持株会規約、運営細則、入会申込書、誓約書、株式譲渡に関する覚書などに、退職時には会社、持株会、会社の指定する者が株式を買い戻す旨のルールが置かれていることがあります。
この場合、退職した株主が「会社に買い取ってほしい」と求める場面だけでなく、会社側から「規約どおり取得価格又は額面額で買い戻す」と主張される場面もあります。少数株主側としては、規約や覚書の有無だけでなく、取得時にどのような説明を受けたか、株式取得が自由意思だったか、取得価格と買戻価格の関係、配当実績、会社の運用、他の退職者の扱いを確認する必要があります。
従業員持株会や退職時買戻しに関しては、裁判例上も、額面額や取得価格での買戻し合意の有効性が問題になってきました。最高裁平成7年4月25日判決は、従業員持株制度に基づいて取得した株式を退職時に額面額で取締役会の指定する者に譲渡する合意について、制度の趣旨・内容を理解したうえで取得していたことや配当を受けていたことなどを踏まえて有効とした事案です。
また、最高裁平成21年2月17日判決は、従業員が持株会から譲り受けた株式を個人的理由で売却する必要が生じたときは、持株会が額面額で買い戻す旨の合意について、社員株主制度を維持するためのルールであること、非公開会社で市場性がないこと、取得価格も額面額であったこと、自由意思で取得していたこと、配当状況などを踏まえて有効と判断した事案です。
さらに、東京地裁令和6年4月25日判決は、退職等により従業員の地位を失った場合には、従業員株主が取得した価格で会社が全株を買い取る旨の覚書について、合意の成立と有効性が認められた事案です。もっとも、これらの裁判例があるからといって、すべての退職時買戻し条項が当然に有効になるわけではありません。個別の制度趣旨、説明状況、価格、配当、会社の運用を具体的に確認する必要があります。
従業員株主は、退職時の書類にすぐ署名しない方がよい場合があります
退職時には、会社から株式譲渡書、持株会退会届、株式買戻しに関する合意書、清算書などへの署名を求められることがあります。すでに規約や覚書で買戻しルールが定められている場合でも、退職時に新しい合意書へ署名することで、価格や権利関係が確定してしまう可能性があります。
特に、会社側から「これは退職手続の一部です」「全員同じです」「額面で戻す決まりです」と説明されても、その内容が本当に有効なルールなのか、どの株式に適用されるのか、価格が妥当なのかは別問題です。退職時に株式を手放すかどうかで迷う場合は、署名前に規約、覚書、取得時資料、配当資料を確認することが重要です。
もっとも、退職時買戻し条項がある場合には、少数株主側が常に高額買取を主張できるわけでもありません。すでに有効な合意が成立していると判断される場合には、その合意に従う必要があることもあります。したがって、退職時の株式買取では、「会社が言っているから従う」でも「当然に無効だと決めつける」でもなく、資料に基づいて有効性と交渉余地を確認することが大切です。
契約上の買取請求では、価格条項と会社法上の手続を分けて考える
契約上の買取条項がある場合でも、実際に株式を移転するには、譲渡制限、自己株式取得、株主総会決議、株主名簿書換など、会社法上の手続が関係することがあります。契約上「買い取る」と書かれていても、会社が買うのか、指定された第三者が買うのか、会社法上の手続が整っているのかを確認しなければなりません。
また、契約上の価格条項と、会社法上の売買価格決定手続は、同じものではありません。契約で取得価格や額面額と決められている場合でも、その合意が有効かどうか、どの範囲に適用されるかが争われることがあります。一方で、契約上の明確な価格条項がない場合には、当事者間の協議や裁判所での価格判断が問題になることがあります。
契約に基づく買取を検討する場合は、契約書だけでなく、その後の株式取得、追加発行、株式分割・併合、会社側の運用、他株主の扱い、退職時のやり取りまで確認する必要があります。
反対株主の株式買取請求・スクイーズアウトで買い取られる場合
少数株式の買取は、少数株主側から会社・大株主に任意で買い取ってもらう場面だけではありません。会社の組織再編、株式併合、スクイーズアウト、定款変更などに反対する株主に、法律上の株式買取請求や価格決定の手続が認められる場面があります。
この類型では、少数株主が「売りたいから買い取ってほしい」と申し入れる任意交渉とは異なり、会社側の行為に反対する株主が、法律上定められた手続に従って株式の買取や価格決定を求めることになります。具体的な類型や期限管理は、反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求で詳しく整理するのが適切です。
反対株主の株式買取請求は、期限と手続が重要です
反対株主の株式買取請求では、どの会社行為に反対するのか、いつ反対の意思を通知するのか、株主総会でどのように対応するのか、いつまでに買取請求をするのかが重要です。期限を過ぎると、後から「知らなかった」「価格に納得できない」と主張しても、権利行使が難しくなる場合があります。
非上場会社では、株主総会招集通知や会社からの書面が少数株主に十分に説明されないまま届くことがあります。組織再編、株式併合、全部取得条項付種類株式、特別支配株主による株式等売渡請求など、少数株主の地位に大きく影響する手続が進む場合には、通知を放置せず、早めに内容を確認する必要があります。
- 株主総会招集通知が届いた
- 株式併合やスクイーズアウトの説明があった
- 会社から買取価格の通知を受けた
- 組織再編に反対したい
- 提示価格に納得できない
このような場面では、単なる任意交渉ではなく、反対通知、買取請求、価格決定申立てなどの期限管理が問題になります。会社からの通知を受け取った時点で、株式数、手続の種類、期限、提示価格、会社の資料を確認することが重要です。
スクイーズアウトでは、価格に納得できるかが中心問題になります
スクイーズアウトとは、会社や支配株主が少数株主を株主から外すために、株式併合などの手法を用いて少数株主の株式を現金化する場面を指します。少数株主側から見ると、会社側の手続により株式を手放すことになるため、提示価格が適正かどうかが大きな問題になります。
会社側が提示する価格に納得できない場合、手続類型によっては、裁判所に価格の決定を求めることを検討できる場合があります。ただし、どの手続で、いつまでに、どの裁判所に、どのような申立てをするかは類型ごとに異なります。通知を受けてから時間が経ってしまうと、対応できる選択肢が狭くなることがあります。
スクイーズアウトの価格では、会社側の資料、株価算定書、純資産、収益力、配当、将来計画、支配株主との関係などが問題になります。価格評価は専門性が高いため、弁護士だけでなく、必要に応じて税理士・公認会計士等と連携して検討することが有効です。
反対株主の価格判断と譲渡制限株式の価格判断は同じではありません
同じ非上場株式の価格でも、譲渡制限株式の不承認後の売買価格決定と、組織再編に反対した株主の株式買取請求では、裁判所が価格を判断する文脈が異なります。そのため、ある裁判例で使われた評価方法やディスカウントが、別の類型でもそのまま使えるとは限りません。
たとえば、最高裁平成27年3月26日決定は、非上場会社の吸収合併に反対した株主の株式買取請求について、裁判所が収益還元法を用いて買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできないと判断しました。他方で、譲渡制限株式の売買価格決定では、最高裁令和5年5月24日決定のように、DCF法による評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとされた事案があります。
この違いは、少数株主にとって重要です。会社側から「非上場株式だから当然に大幅に減額される」と説明されたとしても、どの手続類型なのか、どの評価方法が使われているのか、すでに流動性の低さが評価過程で考慮されているのかによって、反論の余地は変わります。価格に不満がある場合は、単に「高すぎる」「安すぎる」と言うのではなく、手続類型と評価方法を分けて検討する必要があります。
会社からの通知を受けたら、資料を保管して早めに時系列を整理する
反対株主の株式買取請求やスクイーズアウトでは、会社から届いた通知、株主総会招集通知、議案資料、株価算定書、議事録、議決権行使書、買取価格の通知、会社とのメールなどが重要になります。これらの資料を捨てたり、封筒や到達日が分からなくなったりすると、期限や手続の確認が難しくなります。
会社から通知を受けたら、まず届いた日、通知の内容、株主総会の日、反対の意思を示した日、会社に連絡した日、提示価格、支払予定日を時系列で整理します。資料が足りない場合でも、分かる範囲で整理しておけば、弁護士が追加で確認すべき点を判断しやすくなります。
反対株主の買取請求やスクイーズアウトは、任意交渉より期限の影響が大きい領域です。価格に納得できない場合、会社の説明が不十分な場合、手続の意味が分からない場合には、早めに資料を持って相談することが重要です。
法的な買取ルートを選ぶときの判断軸
譲渡制限株式の不承認後の買取、契約・持株会規約に基づく買取、反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求は、いずれも少数株式を買い取ってもらう又は買い取られる場面ですが、根拠と使い方は異なります。
譲渡制限株式の手続は、第三者に譲渡したい場面から出発し、会社が承認しない場合に会社又は指定買取人との買取・価格決定に進むルートです。契約に基づく買取は、株主間契約、投資契約、持株会規約、覚書などに基づいて、特定の条件で買取を求めるルートです。反対株主・スクイーズアウトは、会社側の組織再編や株式併合などに対して、法律上の手続に従い、買取や価格決定を求めるルートです。
- 第三者に売りたい場合:譲渡制限株式の譲渡承認請求と、不承認後の会社・指定買取人による買取を検討します。
- 退職・投資契約・株主間契約がある場合:契約や規約に基づく買取条項、価格条項、対象株式の範囲を確認します。
- 会社から株式併合や組織再編の通知を受けた場合:反対株主の株式買取請求や価格決定手続の期限を確認します。
- 価格に納得できない場合:どの手続類型の価格問題かを整理し、決算書、純資産、配当、株価算定資料を確認します。
- 資料がない場合:資料がないことを前提に、会社への資料請求や会計帳簿閲覧請求の可能性を検討します。
法的な買取ルートは、任意交渉より強い手続になり得ますが、使う順番やタイミングを誤ると、会社側との対立が深まり、価格交渉も難しくなることがあります。次に、買取価格の考え方、低額提示への対応、会計帳簿閲覧請求などの情報取得手段を整理します。
買取価格・低額提示への対応
少数株式・非上場株式の買取交渉では、会社や大株主から「少数株式だから価値は低い」「配当していないからほとんど価値がない」「額面でしか買い取れない」といった説明を受けることがあります。たしかに、少数株式は上場株式のように市場で自由に売れるわけではなく、経営支配権を持たないことも多いため、価格交渉で不利になりやすい面があります。
しかし、少数株式であることだけを理由に、会社側の提示額をそのまま受け入れる必要があるとは限りません。買取価格は、任意交渉で決まる場合、譲渡制限株式の不承認後に協議する場合、契約上の買取条項に従う場合、反対株主の株式買取請求で問題になる場合で、考え方が変わります。価格の詳しい考え方は非上場株式の株価評価・価格算定で整理していますが、ここでは買取交渉の初動として重要な確認事項を押さえます。
まず見るべき資料は、決算書・純資産・配当実績です
会社側から低額提示を受けた場合、最初に確認したいのは、会社の直近の決算書です。貸借対照表や損益計算書を確認すれば、会社にどの程度の純資産があるのか、利益が出ているのか、内部留保が積み上がっているのか、借入金や債務がどの程度あるのかを把握しやすくなります。
特に、親族会社・同族会社では、少数株主に配当がされていない一方で、会社に不動産、現預金、有価証券、内部留保などが相当程度あるケースもあります。このような場合、単に「配当がないから株式価値も低い」とは限りません。配当実績は重要な要素ですが、会社の資産状況や収益力とあわせて検討する必要があります。
初動で確認したい資料や事情は、次のとおりです。
- 直近数期の決算書:会社の純資産、利益、借入、内部留保、不動産や有価証券の有無を確認します。
- 配当実績:過去に配当があったか、配当が止まった理由、同族株主だけが別の形で利益を受けていないかを確認します。
- 株式数・持株比率:保有割合によって、価格交渉上の意味や少数株主権の行使可能性が変わります。
- 会社側の提示根拠:額面、税務評価、配当還元、純資産、過去の社内取引慣行など、何を根拠に提示しているのかを確認します。
- 譲渡制限や契約条項:定款、従業員持株会規約、株主間契約、投資契約などに価格条項があるかを確認します。
役員報酬や過去の取引事例も、事案によっては会社の利益配分や価格交渉を考える材料になることがあります。ただし、少数株式の買取価格を検討する初動では、まず決算書、純資産、配当実績、提示額の根拠を確認することが中心です。
額面・税務評価・会社提示額は、そのまま売買価格になるとは限りません
非上場株式では、額面額、相続税評価額、会社側の社内ルール、過去の買取慣行などが価格交渉で持ち出されることがあります。しかし、それらが常に現在の売買価格や買取価格を決めるわけではありません。
相続税評価額は、税務上の評価のために使われるものであり、少数株主が会社・大株主・第三者へ売却する価格と一致するとは限りません。また、従業員持株会規約や退職時の買戻し合意がある場合には、規約や合意の有効性、説明状況、取得価格、配当実績、会社の運用などを個別に確認する必要があります。
譲渡制限株式の不承認後に裁判所で売買価格が問題になる場合には、会社の資産状態その他の事情、評価方法、非流動性ディスカウントなどが問題になることがあります。最高裁令和5年5月24日決定は、譲渡制限株式の売買価格決定手続で、DCF法による評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとされた事例として重要です。他方で、反対株主の株式買取請求では、最高裁平成27年3月26日決定のように、収益還元法を用いる場面で非流動性ディスカウントを行うことができないとされた文脈もあります。
つまり、「非上場株式だから必ず何%減額される」「少数株式だから必ず配当還元だけでよい」と単純化することはできません。価格に納得できない場合は、どの買取ルートの価格問題なのかを整理したうえで、売買価格決定申立てや評価資料の確認に進む必要があります。
会社側の低額提示に対して、すぐに承諾しない方がよい場面
会社側から買取提案があったこと自体は、少数株主にとって重要な進展です。もっとも、提示額が低い場合や、説明が十分でない場合には、すぐに承諾書や株式譲渡契約書へ署名しない方がよいことがあります。
特に注意したいのは、次のような場面です。
- 提示額の根拠が示されていない場合:額面、税務評価、過去慣行などの言葉だけで、決算書や算定資料が示されていない場合です。
- 会社に資産がありそうなのに配当がない場合:内部留保や不動産があるにもかかわらず、少数株主には利益が還元されていない可能性があります。
- 退職や相続の直後に署名を求められている場合:持株会規約、覚書、株主間契約の内容を確認しないまま進めると、後で争いにくくなることがあります。
- 譲渡承認請求や価格決定の期限が関係する場合:手続上の期限を誤ると、価格や手続の選択肢が狭まることがあります。
- 買取業者や第三者から提案を受けている場合:会社側・大株主側との交渉、譲渡承認請求、業者への売却をどの順番で使うかを整理する必要があります。
低額提示への対応では、相手方を強く非難するよりも、まず提示根拠の開示、決算資料の確認、価格算定の前提、支払時期、守秘義務、譲渡手続、税務上の確認事項を整理することが大切です。本人同士の交渉で感情対立になっている場合でも、双方に弁護士が立つことで、価格、資料、期限、契約条件という具体的な条件交渉へ移りやすくなることがあります。
会計帳簿閲覧請求と価格資料の集め方
少数株式の買取交渉では、少数株主側が会社の資料をほとんど持っていないことがあります。株主名簿や定款はもちろん、決算書、配当資料、過去の株主総会資料さえ見せてもらえていない場合もあります。そのようなときに検討される手段の一つが、会計帳簿閲覧請求です。
ここで誤解してはいけないのは、会計帳簿閲覧請求をしたからといって、会社や大株主に株式を買い取らせる権利が発生するわけではないという点です。会計帳簿閲覧請求は、買取請求権そのものではありません。あくまで、会社の財務状況や取引状況を確認し、価格交渉や売買価格決定、会社運営上の問題点の把握に役立てるための情報取得手段です。
会計帳簿閲覧請求は、価格算定のための情報取得に役立つ場合があります
会計帳簿閲覧請求と株式の価格算定の関係については、最高裁平成16年7月1日判決が重要です。同判決は、譲渡制限株式を他に譲渡しようとする株主が、適正な価格を算定する目的で会計帳簿等の閲覧謄写請求をした場合、特段の事情がない限り、株主の権利の確保又は行使に関して調査するための請求に当たると判断しました。
この考え方は、少数株主が株式を売却したい、会社・大株主に買い取ってもらいたい、低額提示の根拠を確認したいという場面で重要です。会社の資産状態や収益力を見ないままでは、買取価格が妥当かどうかを判断しにくいからです。
ただし、会計帳簿閲覧請求には、一定の持株要件や請求理由の具体性が問題になります。単に「会社が気に入らない」「経営者を困らせたい」という目的ではなく、株価算定、株主権行使、会社財産の流出確認など、請求の理由を整理する必要があります。具体的な要件や請求書の作り方は、会計帳簿閲覧請求のページで詳しく扱います。
使うべき場面と、慎重に使うべき場面
会計帳簿閲覧請求は強力な手段になり得ますが、すべての買取交渉で最初に使うべきとは限りません。会社側との関係、持株比率、交渉の進み方、手元資料の有無、価格差の大きさを見て、使うタイミングを考える必要があります。
使うことを検討しやすいのは、次のような場面です。
- 会社の決算書や配当資料を見せてもらえない場合
- 会社側の買取価格の根拠が不明な場合
- 会社に不動産・多額の現預金・内部留保がありそうな場合
- 配当がない一方で、経営者側に利益が偏っている疑いがある場合
- 譲渡制限株式の売買価格決定や任意交渉に備えて資料が必要な場合
一方で、会計帳簿閲覧請求を出すことで会社側との対立が強まり、任意交渉が難しくなることもあります。すでに合理的な資料が出ている場合や、会社側が任意交渉に応じる姿勢を見せている場合には、まず資料開示の任意交渉から始める方がよいこともあります。
少数株主権全般については、少数株主権の一覧と使い方で整理しています。ただし、少数株主権は「行使すれば買い取らせられる」というものではなく、交渉の土壌を整えるための情報取得・牽制・価格算定資料の取得手段として位置づけるのが安全です。
株主名簿・定款・決算書の確認も重要です
価格資料というと会計帳簿閲覧請求だけに目が向きがちですが、実務上は、より基本的な資料の確認も重要です。たとえば、定款を確認しなければ譲渡制限の有無や承認機関が分からないことがあります。株主名簿を確認しなければ、自分の株主としての記載、他株主の構成、相続や譲渡後の名義関係が分からないことがあります。
また、決算公告や株主総会資料、配当通知、会社からの買取提案書、退職時の覚書、従業員持株会規約、株主間契約、投資契約なども、買取価格や買取根拠を判断するために重要です。どの資料を先に求めるかは、任意交渉で進めるのか、譲渡承認請求を使うのか、契約上の買取条項を主張するのかによって変わります。
資料がなくても相談できる|少数株主側で整理しておきたいこと
少数株主が相談をためらう理由の一つに、「資料がない」という問題があります。親族会社や同族会社では、経営に関与していない少数株主に決算書や定款が渡されていないことがあります。相続で非上場株式を取得した場合には、そもそも何株持っているのか、どの会社の株式なのか、誰が大株主なのかも分からないことがあります。
しかし、資料がないことは、相談できない理由ではありません。むしろ、少数株主が会社から情報を得られていないこと自体が、相談すべき事情になることがあります。弁護士に相談する段階では、手元にある資料だけを持参し、足りない資料は、会社への任意請求、株主権行使、交渉の中で取得できるかを検討します。
手元にあれば役立つ資料
相談時にすべての資料をそろえる必要はありませんが、手元にあるものは整理しておくと、初回の方針判断がしやすくなります。
- 株式を取得した経緯が分かる資料:相続関係資料、贈与契約、株式譲渡契約、従業員持株会の加入資料、出資時の書類などです。
- 会社とのやり取り:買取提案書、メール、手紙、LINE、株主総会通知、配当通知、譲渡承認に関する書面などです。
- 会社の基礎資料:定款、株主名簿、登記簿、決算書、株主総会議事録、事業報告などです。
- 価格に関する資料:会社側の算定書、税理士からの評価資料、相続税評価資料、過去の買取価格、第三者からの提案額などです。
- 契約・規約:株主間契約、投資契約、従業員持株会規約、退職時の覚書、誓約書、プットオプション条項などです。
これらがない場合でも、分かる範囲で、会社名、取得時期、取得経緯、保有株式数、会社との関係、会社から言われていること、買取希望額、会社側の提示額、期限が迫っている通知の有無を整理しておくとよいでしょう。
期限がある通知を受け取っている場合は早めに確認する
少数株式の買取では、期限管理が重要になる場面があります。譲渡承認請求、不承認後の会社・指定買取人による買取、売買価格決定申立て、反対株主の株式買取請求、スクイーズアウト、株式併合、組織再編などでは、通知を受け取った後の対応期限が問題になることがあります。
会社から書面が届いている場合、内容がよく分からなくても、放置しないことが大切です。特に「株式併合」「反対株主」「買取請求」「譲渡承認」「指定買取人」「価格決定」「供託」といった言葉が出ている場合には、任意交渉だけでなく、会社法上の手続が進んでいる可能性があります。
期限が関係する場合には、価格交渉をじっくり進める前に、まずどの手続に入っているのか、どの期限を守る必要があるのかを確認する必要があります。スクイーズアウトや反対株主の買取請求については、反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求で詳しく整理します。
少数株式の買取で、どのルートを選ぶべきか
少数株式を買い取ってもらう方法は一つではありません。会社・大株主との任意交渉を先に行うべき場合もあれば、第三者買い手の検討、譲渡承認請求、契約上の買取条項、反対株主の株式買取請求、会計帳簿閲覧請求を組み合わせるべき場合もあります。
大切なのは、最初から強い手続を選ぶことではなく、自分の状況に合った順番を決めることです。本人同士で感情的な対立がある場合には、弁護士同士の交渉に移ることで、会社経営者側にとっても説明しやすくなり、価格や契約条件の話に進みやすくなることがあります。一方で、法的手続を使うべき場面では、期限や請求方法を誤らないことが重要です。
状況別の読み分け
このページは買取まとめページとして全体像を整理していますが、具体的な検討は、状況に応じて次のページへ進むと整理しやすくなります。
- 会社・大株主に任意で買い取ってもらいたい場合:少数株主が会社・大株主に株式を買い取ってもらう方法で、交渉相手、弁護士が入る意味、価格提示への対応を確認します。
- 買取業者や第三者への売却を検討している場合:非上場株式・少数株式の買取業者を利用する際の注意点で、価格、契約条件、法的リスク、弁護士相談との違いを確認します。
- 譲渡制限株式の不承認後に買取を求めたい場合:譲渡制限株式の買取請求で、譲渡承認請求、不承認、会社又は指定買取人による買取、価格決定の流れを確認します。
- 退職・投資契約・株主間契約・持株会規約がある場合:契約に基づく株式買取請求で、買取条項、価格条項、退職時買戻し、自己株式取得規制との関係を確認します。
- 株式併合・組織再編・スクイーズアウトを受けている場合:反対通知、株式買取請求、価格決定の期限を確認し、反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求へ進みます。
また、株式を売却したいという入口が広い場合は少数株主が非上場株式を売却する方法を、少数株式売却の具体策を確認したい場合は少数株式を売却するにはを確認すると、買取以外の選択肢も整理できます。
弁護士に相談すべき場面
少数株式の買取交渉は、相手方との関係、会社資料、価格、手続期限、契約条項が絡み合うため、早い段階で方針を整理することが有効です。特に、次のような場面では、本人だけで進めるよりも、弁護士に相談してから動いた方がよいことがあります。詳しくは少数株主の法律相談をご覧ください。
- 会社や大株主から低額の買取価格を提示されている場合
- 会社が決算書・定款・株主名簿を見せてくれない場合
- 譲渡承認請求、不承認、指定買取人、価格決定という言葉が出ている場合
- 従業員持株会規約、退職時の覚書、株主間契約、投資契約が関係する場合
- 買取業者に売るか、会社・大株主と交渉するか迷っている場合
- 株式併合、スクイーズアウト、組織再編の通知を受け取っている場合
相談前に資料がすべてそろっていなくても問題ありません。資料がない場合には、何が不足しているのかを整理し、会社に任意で求めるのか、株主権行使を検討するのか、まず会社・大株主との交渉で資料開示を求めるのかを決めていきます。
まとめ|少数株式の買取は、交渉・請求・価格資料を分けて考える
少数株式・非上場株式を買い取ってもらうには、単に会社へ「買い取ってほしい」と伝えるだけでなく、任意交渉なのか、法律上・契約上の請求なのか、価格資料をどう集めるのかを分けて考えることが重要です。
- 少数株式は、常に会社や大株主へ当然に買い取らせられるわけではありません。
- 会社・大株主との任意交渉では、会社側にも株主整理や事業承継のニーズがあるかが重要です。
- 譲渡制限株式、契約上の買取条項、反対株主の株式買取請求では、手続と期限を確認する必要があります。
- 低額提示を受けた場合は、決算書、純資産、配当実績、提示根拠を確認することが出発点です。
- 会計帳簿閲覧請求などの少数株主権は、直接の買取請求権ではなく、価格算定や交渉材料の取得手段として使うことがあります。
資料がなくても、相談を始められないわけではありません。会社から情報を得られていない場合は、その状況自体を前提に、どの資料を求めるか、どの相手と交渉するか、どの手続を使うかを整理することが大切です。
坂尾陽弁護士
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少数株式の買取では、任意交渉、買取業者、譲渡制限株式、契約上の買取条項、スクイーズアウト、価格評価、資料取得を分けて確認すると、次に取るべき行動を判断しやすくなります。
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