非上場株式の相続税評価額と売却価格の違い|少数株式を相続した場合の注意点

非上場株式の相続税評価額は、相続税や贈与税の計算で使う重要な評価額です。しかし、同族会社・親族会社・非上場会社の少数株式を相続した人にとって、相続税評価額はそのまま売却価格や買取価格になるとは限りません。

相続税評価額が高くても、会社や大株主がその金額で買い取るとは限りません。他方で、譲渡制限株式の不承認後の買取や、契約上の買取請求など、裁判所が株式価格を判断する場面では、相続税評価額より高い価格が問題になることもあります。この記事では、少数株主・相続人の立場から、相続税評価額と売却価格の違い、価格交渉での使い方、将来の相続リスクを避けるために早期売却を検討すべき場面を整理します。

坂尾陽弁護士

相続税評価額は重要な目安ですが、「その金額で売れる」とも「その金額でしか売れない」とも限りません。
  • 相続税評価額は、税務上の評価額であり、売却価格・買取価格そのものではありません。
  • 任意交渉では、買い手の有無、譲渡制限、会社側の資金余力、税引後手取りが価格に影響します。
  • 裁判所が価格を決める場面では、純資産法、DCF法・収益還元法、配当還元法などが事案に応じて問題になります。
  • 配当も役員報酬もない少数株式は、保有メリットが乏しい一方で、将来の相続税リスクだけが残ることがあります。
  • 税務の詳細は税理士確認が必要ですが、売却交渉では弁護士と税理士の役割分担を意識することが重要です。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年  京都大学法学部卒業
2011年  京都大学法科大学院修了
2011年  司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

弁護士 坂尾陽

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非上場株式の相続税評価額は「売れる価格」ではない

相続税評価額とは、相続税や贈与税を計算するために、取引相場のない株式を税務上評価する金額です。非上場株式には上場株式のような市場価格がないため、会社規模、株主の立場、資産、利益、配当などを踏まえて評価します。

もっとも、相続税評価額は、あくまで税務上の評価額です。少数株主が実際に会社や大株主へ売る価格、第三者へ売る価格、裁判所が会社法上の手続で判断する価格とは、目的も前提も異なります。

  • 相続税評価額:相続税・贈与税の申告で使う税務上の評価額です。国税庁の財産評価基本通達に基づく評価方式が問題になります。
  • 任意交渉の売却価格:会社、大株主、親族、第三者、買取業者などとの合意で決まる価格です。買い手に応じる義務がない場合、交渉力が大きく影響します。
  • 裁判所が判断する価格:譲渡制限株式の不承認後の売買価格決定、反対株主の株式買取請求、スクイーズアウトなどで、裁判所が事案に応じて決める価格です。

そのため、「相続税評価額が1億円だから、必ず1億円で売却できる」とは言えません。逆に、「相続税評価額が低いから、裁判所でも低い価格にしかならない」とも限りません。相続税評価額は、価格の初期目線として参考にしつつ、売却・買取・裁判手続では別の評価軸も確認する必要があります。

相続税評価で使われる主な評価方式

相続税評価では、取引相場のない株式について、株主が会社の経営支配力を持つ同族株主等か、それ以外の株主かにより、原則的評価方式又は特例的な評価方式である配当還元方式を使い分けることになります。国税庁の説明でも、同族株主等かどうかによって評価方式が分かれるとされています。

  • 類似業種比準方式:大会社で原則的に使われる方式です。類似業種の株価を基に、配当金額、利益金額、純資産価額などを比準して評価します。
  • 純資産価額方式:小会社で原則的に使われる方式です。会社の資産・負債を相続税評価に洗い替え、負債などを差し引いて評価します。
  • 併用方式:中会社では、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用して評価する考え方が問題になります。
  • 配当還元方式:同族株主以外の株主が取得した株式では、会社規模にかかわらず特例的評価方式として問題になります。株主が受け取る配当に着目する方式です。

参考として、国税庁は取引相場のない株式の評価で、大会社・中会社・小会社の評価方法や、同族株主以外の株主についての配当還元方式を説明しています。

注意

「少数株主だから必ず配当還元方式になる」とは限りません。相続税評価では、同族株主等の判定、親族・同族関係、議決権割合、会社規模などを踏まえて評価方式を判断します。具体的な相続税申告上の評価は税理士に確認する必要があります。

相続税評価額と少数株式の売却価格がずれる理由

相続税評価額と売却価格がずれる最大の理由は、相続税評価と売買交渉では、見ている目的が違うためです。相続税評価は税金計算のためのルールですが、売却価格は、実際に誰が、なぜ、いくらで買うのかによって決まります。

  • 買い手が限られる:非上場株式には公開市場がなく、第三者に売りにくいことがあります。譲渡制限がある会社では、会社の承認も問題になります。
  • 少数株主に支配権がない:少数株式だけでは経営方針、配当、役員選任、会社財産の処分を決められないため、買い手から低く見られることがあります。
  • 配当がない又は少ない:会社に内部留保や不動産があっても、少数株主が現実に受け取れる経済的利益が少ないと、任意交渉では低い提示になりやすくなります。
  • 会社側に買う義務がない場合が多い:任意交渉では、会社や大株主が「買わない」と言えば、すぐに売却できないことがあります。
  • 税引後の手取りが違う:同じ額面価格でも、第三者譲渡か発行会社による自己株式取得かによって、みなし配当課税などの影響で手取りが変わることがあります。

したがって、相続税評価額は交渉の出発点として有用ですが、それだけで売却価格を決めることはできません。実際の価格交渉では、会社の決算書、配当実績、株主構成、譲渡制限、買い主が株式を取得する意味、税引後手取りまで確認する必要があります。売却価格の見方は、非上場株式の売却価格・買取価格でも整理しています。

裁判所が価格を決める場面では相続税評価額がそのまま基準になるとは限らない

任意交渉では、少数株主側に買わせる強制力がないため、相続税評価額どおりに売れないことがあります。これに対し、譲渡制限株式の不承認後の売買価格決定、契約上の買取請求、反対株主の株式買取請求など、裁判所が価格を判断する文脈では、会社側の安値提示だけで価格が決まるわけではありません。

裁判所が株式価格を判断する場面では、相続税評価額だけではなく、会社の資産、収益、配当、将来の利益、株主の立場、持株比率、会社への関与、株式の分散状況、買い主がその株式を取得する意味などが問題になります。評価方式としては、純資産法、DCF法、収益還元法、配当還元法などを組み合わせる考え方が出てきます。

  • 純資産法:会社の資産価値を見る方法です。不動産保有会社や資産保有会社では重要になりやすい一方、継続企業では補助的に使われることもあります。
  • DCF法・収益還元法:将来キャッシュフローや利益に着目する方法です。会社の継続企業価値や買い主側の経済的利益を見る際に問題になります。
  • 配当還元法:少数株主が実際に受け取れる配当に着目する方法です。純粋な少数株主の立場では重視されることがあります。
  • 相続税評価額:税務上の評価として参考になる場合はありますが、会社法上の価格判断そのものではありません。

つまり、裁判所が価格を決める場面では、相続税評価額より高い評価になる可能性も、低い評価になる可能性もあります。特に、会社側・大株主側にとってその株式を取得する意味が大きい場合や、株式の分散状況から少数株式でも一定の影響力を持つ場合には、単純な配当還元や相続税評価だけでは説明しにくい価格が問題になることがあります。裁判所で価格を決める手続は、売買価格決定申立てで詳しく整理しています。

相続税評価額を交渉でどう使うか

相続税評価額は、売却価格そのものではありませんが、交渉で使えないわけではありません。特に、会社や大株主から根拠のない低額提示を受けた場合、相続税評価額は「少なくとも税務上はこのような評価がされている」という出発点になります。

  • 初期目線として使う:まず、相続税評価額、純資産額、配当実績、過去の売買価格を比較し、大きな乖離があるかを確認します。
  • 安値提示への反論材料にする:会社側が「少数株式だからほとんど価値がない」と主張する場合でも、相続税評価額や純資産額を示すことで、価格協議の土台を作れる場合があります。
  • 税理士・会計士との連携に使う:相続税評価額の算定根拠を確認し、会社の決算書、資産内容、配当実績を整理することで、弁護士による交渉にもつなげやすくなります。
  • 裁判手続に進むかを判断する材料にする:任意交渉で極端な低額提示しかない場合、譲渡承認請求や買取請求、価格決定手続を検討するきっかけになります。

ただし、相続税評価額を絶対視すると、交渉を誤ることがあります。買い手がいない、会社が資金を出せない、自己株式取得の財源規制がある、税引後の手取りが大きく減る、といった現実的な制約があるからです。価格評価の前提は、非上場株式の評価方法もあわせて確認してください。

将来の相続を考えると、価格にこだわりすぎず売却するメリットがある

相続した非上場株式を持ち続けるかどうかは、現在の売却価格だけで判断すべきではありません。とくに、親族会社・同族会社の少数株式で、役員報酬も配当も受け取っておらず、会社経営にも関与できない場合、保有する経済的メリットがほとんどないことがあります。

それにもかかわらず、株式を持ち続けると、次に相続が発生したとき、その株式が再び相続財産として評価され、相続税の対象になる可能性があります。つまり、現在の株主本人にとっては現金収入がないのに、次世代には相続税負担だけが残るという状況が起こり得ます。

コラム

配当がない、役員報酬もない、会社に関与できない、第三者にも売りにくい少数株式は、「評価額はあるが、現金化しにくい資産」になりやすいです。このような株式を次世代へ残すと、将来の相続でも同じ問題が繰り返されることがあります。

そのため、将来の相続税リスクを避けるという観点からは、相続税評価額や理論上の適正価格に過度にこだわらず、早期に株式を手放すメリットがある場合があります。もちろん、安値で処分すればよいという意味ではありません。しかし、「今すぐ満額で売れないなら持ち続ける」と考えるだけでは、次の相続で家族に負担を残す可能性があります。

  • 保有メリットがあるか:配当、役員報酬、情報取得、経営関与、親族関係上の意味があるかを確認します。
  • 将来の相続税リスクがあるか:次世代が相続したとき、現金化できない株式に相続税がかかる可能性を確認します。
  • 売却価格と税引後手取りを比較する:額面価格だけでなく、誰に売るか、みなし配当課税が生じるか、手取りはいくらかを見ます。
  • 法的手続で価格を争う余地があるか:譲渡制限、株主間契約、買取請求権、会社側の対応を確認します。
  • 親族関係・会社との関係を整理する:相続や親族会社の問題では、法的手続だけでなく関係調整も重要です。

相続した株式を処分したい場合の全体像は、相続した非上場株式を売却したい場合や、非上場株式がいらない場合の処分・売却方法も参考になります。

税引後の手取りで見ると、額面価格の差が縮まることがある

少数株式の売却では、額面上の売却価格だけでなく、税引後の手取りを見なければなりません。特に、取得費がほとんどない非上場株式を数億円規模で売却する場合、誰が買い取るかによって税務上の扱いが大きく変わることがあります。

たとえば、発行会社が自己株式として5億円で買い取るケースを考えます。会社の資本金等対応額が小さく、買取代金の大部分がみなし配当として扱われ、総合課税の対象となる場合、株主の所得状況によっては、最終的な税負担が概算で50%前後になることがあります。この場合、額面上の買取価格が5億円でも、税引後の手取りは約2億5000万円前後にとどまる可能性があります。

他方で、発行会社ではなく第三者や指定買取人に3億円で譲渡する場合、一般株式等の譲渡益課税がおおむね20%台前半で済む前提であれば、税引後の手取りは約2億4000万円程度になります。額面価格だけを見ると5億円と3億円では大きな差がありますが、税引後の手取りで見ると近い結果になることがあります。

  • 発行会社による自己株式取得:5億円 × 税負担約50% = 手取り約2億5000万円
  • 第三者・指定買取人への譲渡:3億円 × 税負担約20%台前半 = 手取り約2億4000万円前後

これはあくまで分かりやすくするための仮説例です。実際の税額は、取得費、資本金等対応額、みなし配当部分、配当控除、他の所得状況、相続取得後の特例の有無などによって変わります。ただ、少数株式の売却交渉では、「会社が高く買う案」と「第三者がやや低く買う案」を、額面価格だけで比較すると判断を誤ることがあります。

国税庁は、一般株式等の譲渡所得等について申告分離課税の税率を説明しており、株式等を譲渡したときの課税も参考になります。また、発行会社への非上場株式譲渡では、一定部分が配当所得とみなされる場合があり、相続取得後の一定期間内には相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例が問題になることがあります。非上場株式等の配当等の源泉徴収や総合課税については、配当金を受け取ったときも参考になります。

注意

この記事の税務部分は、売却交渉で手取りを考えるための一般的な説明です。相続税申告、譲渡所得、みなし配当、特例の適用可否、具体的な税額計算は、必ず税理士等に確認してください。

少数株主が確認すべき資料

相続税評価額と売却価格の違いを整理するには、会社側の提示額だけを見ても足りません。少数株主側でも、最低限の資料を集め、価格交渉や税務確認に使える状態にする必要があります。

  • 相続税評価明細や申告時の資料:どの評価方式で、どの前提で評価されたのかを確認します。
  • 決算書・勘定科目内訳:会社の利益、純資産、借入金、役員報酬、配当余力、不動産や有価証券の含み益を確認します。
  • 定款・株主名簿:譲渡制限、株主構成、持株比率、親族・同族関係を確認します。
  • 配当実績・役員報酬の有無:保有メリットがある株式か、配当還元的な見方が妥当かを検討します。
  • 会社側の買取提示資料:提示額、算定根拠、買主、自己株式取得か第三者譲渡か、税務上の扱いを確認します。
  • 過去の株式売買・相続・贈与の資料:取得費、過去の評価額、過去の売買価格が分かる資料を整理します。

会社が資料開示に応じない場合、少数株主権の行使を検討できることがあります。株価評価や売却交渉のために会社資料を集める方法は、会計帳簿閲覧請求でも整理しています。

相続税評価額が高い非上場株式を相続したときの進め方

相続税評価額が高い非上場株式を相続した場合は、税務申告だけで終わらせず、株式を持ち続けるのか、売却するのか、会社や大株主に買い取ってもらうのかを早めに整理することが重要です。

  • 相続税評価額の根拠を確認する:類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式など、どの方式で評価されたかを確認します。
  • 実際に経済的メリットがあるかを確認する:配当、役員報酬、経営関与、情報取得、親族関係上の意味を整理します。
  • 売却先を分けて考える:会社、大株主、親族、第三者、買取業者、指定買取人など、誰に売るかで価格と税務が変わります。
  • 任意交渉か法的手続かを見極める:任意の買取交渉で進めるのか、譲渡承認請求や買取請求、価格決定手続を検討するのかを整理します。
  • 税引後の手取りを確認する:額面価格ではなく、譲渡所得課税、みなし配当課税、特例の有無を踏まえた手取りで比較します。

任意の買取交渉や買取請求の全体像は、少数株式・非上場株式の買取交渉・買取請求で整理しています。非上場株式を売却する方法全体は、少数株主が非上場株式を売却するにはも参考になります。

まとめ

非上場株式の相続税評価額は、少数株主・相続人にとって重要な目安ですが、売却価格や裁判所が判断する価格と同じではありません。最後に、この記事の要点を整理します。

  • 相続税評価額は税務上の評価額であり、実際の売却価格とは一致しないことがあります。
  • 任意交渉では、買い手の有無、譲渡制限、支配権、配当、税引後手取りが価格に影響します。
  • 裁判所が価格を決める場面では、純資産法、DCF法・収益還元法、配当還元法などを事案に応じて見ることがあります。
  • 配当も役員報酬もない少数株式は、保有メリットが乏しい一方で将来の相続税リスクだけが残る場合があります。
  • 相続税評価額にこだわりすぎず、売却可能性、法的手続、税引後手取り、将来の相続まで含めて判断することが重要です。

相続税評価額が高い非上場株式を相続した場合は、まず評価額の根拠、会社の資料、売却先、税引後手取りを整理しましょう。そのうえで、会社や大株主との任意交渉だけで足りるのか、譲渡承認請求、買取請求、売買価格決定申立てなどを検討すべきかを確認することが重要です。

坂尾陽弁護士

相続税評価額に悩む株式ほど、税務・価格・売却可能性を分けて早めに整理することが大切です。

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相続税評価額と売却価格の違いを理解したうえで、次の論点も確認しておくと、売却・買取交渉の全体像を整理しやすくなります。

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