東電株主代表訴訟とは、東京電力の株主らが、福島第一原子力発電所事故によって会社に生じた損害について、事故当時の取締役らの責任を会社に代わって追及した訴訟です。東京地裁令和4年7月13日判決は、旧経営陣4名に対し、連帯して13兆3210億円を東京電力へ支払うよう命じました。
しかし、東京高裁令和7年6月6日判決は、一審判決の責任認定を取り消し、株主側の請求を棄却しました。結論が逆転した中心には、事故につながる津波をどの程度具体的に予見できた必要があるか、どの対策をいつ指示すべきだったか、対策によって事故を回避できたかという判断の違いがあります。
令和8年6月22日時点で確認できる公表情報では、本件は最高裁第二小法廷の令和7年(受)第2219号上告受理申立て事件として係属しています。上告受理の決定や最高裁判決は確認できないため、一審の13兆3210億円判決も、東京高裁の請求棄却も、確定判決として扱うことはできません。
- 一審は旧経営陣4名の任務懈怠と事故回避の因果関係を認め、13兆3210億円の支払を命じました
- 控訴審は、取締役に直ちに安全対策を指示させるほど具体的な津波の予見可能性はなかったとして責任を否定しました
- 争点は、津波の予見可能性、取締役ごとの情報と職責、具体的な安全対策、事故回避可能性、会社損害です
- 株主代表訴訟であるため、請求が認められた場合の支払先は原告株主ではなく東京電力です
- 現在は最高裁への上告受理申立ての段階であり、13兆円判決が確定したわけではありません
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
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東電株主代表訴訟とは
東電株主代表訴訟は、福島第一原発事故の被害者が自分の損害賠償を求めた訴訟ではありません。東京電力の株主が、会社法847条に基づき、東京電力が旧取締役らに対して有すると主張する会社法423条1項の損害賠償請求権を、会社のために行使した株主代表訴訟です。
原告株主らは、旧取締役らが大規模な津波と過酷事故を予見できたのに、必要な安全対策を速やかに実施するよう指示しなかったため、東京電力が廃炉費用、被災者への賠償費用、除染費用などの巨額の損害を負ったと主張しました。
株主代表訴訟の原告適格、会社への提訴請求、60日ルール、賠償金が会社へ帰属する仕組みは、株主代表訴訟の制度と要件で詳しく解説しています。
被災者の損害賠償訴訟や刑事事件とは別の訴訟
福島第一原発事故をめぐっては、被災者による損害賠償請求、国の責任を問う訴訟、旧経営陣の刑事責任を問う事件など、複数の裁判が行われました。東電株主代表訴訟は、それらとは当事者、請求根拠、立証対象が異なります。
本件で裁判所が判断したのは、旧取締役らが東京電力に対して負っていた善管注意義務等に違反し、その違反によって東京電力に損害を生じさせたかです。原発事故について社会的・政策的に誰が責任を負うべきかという議論と、会社法上の個人の損害賠償責任が成立するかという判断は区別する必要があります。
賠償金の支払先は原告株主ではなく東京電力
株主代表訴訟では、株主が原告となりますが、追及しているのは会社の権利です。そのため、一審判決が命じた13兆3210億円の支払先は原告株主ではなく東京電力でした。
また、この金額は被災者一人ひとりへの慰謝料を直接算定したものでも、旧取締役らに対する制裁金でもありません。東京電力が事故により負担したと一審が認定した会社損害を合計したものです。
原告株主が勝訴しても、賠償金を株主個人が受け取るわけではありません。会社の損害を会社へ回復する制度であることが、被災者本人の損害賠償請求との大きな違いです。
東電株主代表訴訟の経過と現在地
本件は、平成23年3月11日の事故から一審判決まで約11年、東京高裁判決まで約14年を要した大規模訴訟です。現在の裁判経過を含め、主要な出来事を整理すると次のとおりです。
| 時期 | 主な出来事 |
|---|---|
| 平成23年3月11日 | 東北地方太平洋沖地震と津波により福島第一原発事故が発生 |
| 平成24年3月 | 東京電力の株主らが旧取締役らの責任を追及する株主代表訴訟を提起 |
| 令和4年7月13日 | 東京地裁が旧経営陣4名に連帯して13兆3210億円を東京電力へ支払うよう命じ、1名への請求を棄却 |
| 令和7年6月6日 | 東京高裁が一審の責任認定を取り消し、株主側の請求をすべて棄却 |
| 令和7年以降 | 株主側が上告・上告受理申立てを行い、最高裁第二小法廷の令和7年(受)第2219号事件として係属 |
| 令和8年6月22日時点 | 公表情報上、上告受理の決定又は最高裁判決は確認できない |
一審の支払命令は東京高裁で取り消されています。他方、東京高裁判決についても上告・上告受理申立てがされているため、現在の裁判状況を「13兆円の賠償が確定した」「旧経営陣の責任なしが確定した」と表現するのは正確ではありません。
請求額と一審認容額は同じではない
原告株主らは、一審で旧取締役らに対し22兆円を東京電力へ支払うよう求めました。一審は、その全額ではなく13兆3210億円を損害として認定しました。控訴審では株主側が請求額を23兆4000億円へ拡張しましたが、東京高裁は責任自体を否定し、追加拡張請求も含めて棄却しました。
したがって、記事やニュースに出てくる「13兆円」「22兆円」「23兆4000億円」は、それぞれ意味が異なります。13兆3210億円は一審の認容額、22兆円は一審での請求額、23兆4000億円は控訴審で拡張された請求額です。
一審の東京地裁判決は旧経営陣4名の責任を認めた
東京地裁令和4年7月13日判決は、被告となった旧取締役5名のうち4名について任務懈怠責任を認め、連帯して13兆3210億円を東京電力へ支払うよう命じました。残る1名については、責任を基礎付ける時期と事故回避可能性との関係から請求を棄却しました。
10メートル盤を超える津波の予見可能性を認めた
一審は、事故と同じ規模・波形の津波を正確に予測できたことまでは必要ないとしました。福島第一原発の主要建屋が置かれた10メートル盤を超える津波が襲来し、全交流電源喪失等を通じて過酷事故へ至る危険を予見できたかを中心に判断しました。
その上で、政府の地震調査研究推進本部が平成14年に公表した長期評価、これを前提とした明治三陸地震の波源モデルによる試計算、社内での報告や検討経過などを総合し、旧取締役らは役職と時期に応じて重大な津波リスクを認識し得たと評価しました。
安全対策を速やかに指示すべき義務を認めた
一審は、原子力発電所で過酷事故が発生した場合の被害が極めて甚大であることを踏まえ、予見可能な津波によって安全性が損なわれるおそれを認識し得た取締役には、必要な対策を速やかに実施するよう指示すべき善管注意義務があるとしました。
具体的には、津波が建屋へ浸入して電源設備等を機能喪失させることを防ぐため、主要建屋や重要機器の水密化などを含む対策が問題になりました。一審は、早い時期に対策を指示していれば事故を回避できた高度の蓋然性があるとして、4名について義務違反と事故との因果関係を認めました。
5人全員ではなく4人の責任を認めた理由
一審は、旧取締役であれば一律に責任を負うとはしていません。各人の役職、担当、津波情報を知り得た時期、対策を指示できる立場、事故までに残された期間を個別に検討しました。
1名については、任務懈怠が問題となる時期が平成22年7月ころ以降とされ、その時点から指示をしても事故までに必要な対策を完了し、事故を回避できた高度の蓋然性までは認められないとして、責任を否定しました。この点は、損害が巨大でも、各取締役の責任と因果関係を個別に立証する必要があることを示しています。
東京高裁判決は一審を取り消して請求を棄却した
東京高裁令和7年6月6日判決は、一審の責任認定を全面的に見直しました。高裁も、原子力発電所で過酷事故が起これば被害が甚大となり、事業者が安全性を確保すべき重大な責務を負うこと自体は否定していません。
しかし、旧取締役個人に会社法上の損害賠償責任を負わせるには、対策を指示すべき義務を認識できる程度に具体的な津波の予見可能性が必要であるとし、本件の証拠からはその程度の予見可能性を認められないと判断しました。
直ちに対策を指示させるほど具体的な予見可能性を求めた
高裁は、10メートル盤を超える津波を抽象的に想定できたかだけでなく、過酷事故を防止する対策を速やかに実施するよう取締役に義務付けられる程度の具体性が必要だとしました。
長期評価や試計算は、津波対策を検討する契機にはなったものの、福島第一原発に短期間のうちにそのような津波が襲来するという切迫性・現実性を取締役に認識させるだけの合理性、信頼性を持つ情報ではなかったと評価しました。担当部署の説明者、他の原子力事業者、専門家らも、直ちに運転停止や大規模対策へ進むべき切迫した危険として扱っていなかったことが考慮されています。
対策義務を認めるなら運転停止の問題になると捉えた
高裁は、いつ襲来してもおかしくないほど具体的な津波リスクが認められるのであれば、相当期間を要する工事中も原発の運転を続けることは許容しにくく、取締役が行うべき指示には運転停止に向けた指示も含まれると考えました。
そして、福島第一・第二原発の運転停止が電力供給、電気料金、行政機関や立地自治体との調整などに及ぼす影響も踏まえ、そのような指示を正当化できる程度に合理性と信頼性のあるリスク情報が必要だとしました。高裁は、本件の長期評価と試計算にはその水準の裏付けがなかったと判断しています。
建屋の水密化だけを先行する対策も否定した
株主側は、防潮堤等の完成を待たず、建屋や重要設備を水密化していれば事故を回避できたと主張しました。これに対し高裁は、事故前の一般的な津波対策は、まず敷地への浸水を防ぐ防潮堤・防波堤等を基本とし、水密化は補充的な措置として位置付けられていたとしました。
試計算が示す津波は10メートル盤を3メートルから5メートル程度超えるものであり、防潮堤等で津波の高さや波力を低減せずに、建屋の水密化だけを単独で実施する対策が当時採用されたとは認めにくいと判断しました。そのため、水密化だけを早期に指示すべきだったという主張も採用しませんでした。
社会的責任と法的責任を区別した
高裁は、旧取締役らが事故防止措置を指示できる立場にあり、甚大な損害について大きな社会的責任を負うべき立場にあると述べています。他方で、具体的な予見可能性が認められない以上、過失責任を前提とする会社法上の損害賠償責任までは認められないとしました。
したがって、東京高裁判決を「事故の責任が何もないと認定した」と要約するのも、「安全対策は不要だったと判断した」と要約するのも正確ではありません。高裁が否定したのは、本件証拠と事故前の知見を前提に、旧取締役個人へ会社法上の賠償責任を負わせるための要件が満たされていたという点です。
一審と控訴審の判断を比較
一審と控訴審の違いは、単に証拠の評価が少し異なったというものではありません。予見可能性から具体的な作為義務を導く際の要求水準、事故前に現実的に選択されたはずの対策、対策と事故回避との結び付け方に大きな差があります。
| 比較項目 | 東京地裁令和4年7月13日判決 | 東京高裁令和7年6月6日判決 |
|---|---|---|
| 結論 | 旧経営陣4名の責任を認め、13兆3210億円の支払を命令 | 一審の責任認定を取り消し、請求をすべて棄却 |
| 予見対象 | 主要建屋敷地の10メートル盤を超え、過酷事故につながり得る津波 | 速やかな対策、実質的には運転停止を含む指示を義務付ける程度に具体的な津波リスク |
| 長期評価・試計算 | 相応の科学的信頼性があり、取締役の予見可能性を基礎付けると評価 | 検討対象にはなるが、短期間の襲来に対する切迫性・現実性を認識させるほどの信頼性はないと評価 |
| 求められる対策 | 主要建屋・重要機器の水密化等を含む対策を速やかに指示すべき | 事故前の知見では防潮堤等を伴わない水密化単独の対策は採用されにくく、対策義務を認めるなら運転停止も必要 |
| 事故回避可能性 | 早期に指示していれば、4名について事故を回避できた高度の蓋然性を認定 | 予見可能性がないため義務違反を否定し、水密化単独による回避主張も採用せず |
| 会社損害 | 廃炉、被災者賠償、除染等の合計13兆3210億円を認定 | 責任成立の前提を否定したため、旧取締役らへの支払命令を取り消し |
「予見できたか」の対象が異なる
一審は、事故と同じ津波を正確に予測できなくても、10メートル盤を超える津波と過酷事故の危険を予見できれば足りると考えました。これに対し高裁は、対策を速やかに指示し、場合によっては原発の運転停止へ進むことを取締役に義務付ける程度の具体性を求めました。
この違いにより、同じ長期評価や試計算を見ても、一審は作為義務を基礎付ける情報と評価し、高裁は直ちに法的義務を生じさせるには足りない情報と評価しました。
対策の実施可能性が作為義務の内容を左右した
取締役責任では、「危険を知ったなら何かすべきだった」という抽象論だけでは足りません。実際にどの対策を、誰が、いつまでに、どの権限で指示できたかを特定する必要があります。
一審は水密化等を含む対策を早期に指示できたとしましたが、高裁は当時の津波対策の考え方から、水密化だけを防潮堤等より先行させたとは認めにくいとしました。具体的な代替行動の現実性に対する評価が、義務違反と因果関係の結論を分けています。
役員ごとの情報・時期・職責が重要
本件では、社長、会長、原子力担当役員などの役職だけでなく、長期評価や試計算について、誰がいつ、どのような説明を受けたかが詳細に検討されました。一審が5名のうち4名だけに責任を認めたことも、取締役責任が集団的な結果責任ではないことを示します。
取締役の会社に対する責任の一般要件は、取締役の任務懈怠責任と会社法423条で解説しています。また、担当外の取締役が他の役員や部署をどこまで監督すべきかは、取締役の監督・監視義務と内部統制も参照してください。
一審が認定した13兆3210億円の内訳
東京地裁令和4年7月13日判決が認定した13兆3210億円は、事故によって東京電力に発生したとされた次の費用の合計です。
| 損害項目 | 一審の認定額 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 廃炉・汚染水対策費用 | 1兆6150億円 | 事故炉の廃炉、燃料デブリ対応、汚染水対策等に関する費用 |
| 被災者に対する損害賠償費用 | 7兆0834億円 | 原発事故の被災者に対する損害賠償として東京電力が負担する費用 |
| 除染・中間貯蔵対策費用 | 4兆6226億円 | 除染、汚染廃棄物処理、中間貯蔵施設等について東京電力が負担する費用 |
| 合計 | 13兆3210億円 | 一審が会社損害として認定した総額 |
13兆3210億円は取締役個人への罰金ではない
この金額は、旧取締役らへの刑罰や懲罰的損害賠償ではありません。一審が、任務懈怠によって東京電力に生じたと認定した損害の填補を命じたものです。日本の会社法上、取締役の任務懈怠責任は、原則として会社が受けた損害を回復する責任として構成されます。
高裁で取り消されたため現在の支払義務を示す金額ではない
東京高裁は旧取締役らの法的責任を否定し、一審の支払命令を取り消しました。そのため、13兆3210億円を現在確定している旧取締役らの債務として紹介することはできません。
もっとも、最高裁への上告・上告受理申立てがされているため、最終的な結論は最高裁の手続を含む今後の裁判経過によります。過去の一審認容額と現在の確定債務を区別することが重要です。
東電株主代表訴訟の判決全文を確認する方法
東京地裁と東京高裁の判決全文は、裁判所ウェブサイトで公開されています。判決は長大であるため、ニュースの要約だけでなく、主文、事案の概要、予見可能性、義務違反、因果関係の順に確認すると理解しやすくなります。
最初に主文を確認する
主文には、誰に対するどの請求が認められたか、棄却されたか、控訴審で一審判決がどう変更されたかが示されています。一審は旧取締役4名への支払命令と1名への請求棄却、高裁は一審原告側の請求棄却という結論です。
次に予見可能性と具体的な義務を対応させる
判決を読む際は、「津波を予見できたか」という文章だけを抜き出さず、その予見可能性から、どの具体的な指示義務を導いているかを対応させます。一審と高裁では、予見可能性に求める具体性と、そこから導く対策内容が異なります。
最後に因果関係と損害を確認する
義務違反があっても、適切な指示をしていれば事故を回避できたといえなければ、当該損害について賠償責任は成立しません。一審は4名について事故回避の高度の蓋然性を認め、高裁はその前提となる予見可能性と義務を否定しました。13兆3210億円の内訳は、一審判決の損害判断として読む必要があります。
判決年月日と裁判所だけでなく、一審か控訴審か、主文が維持されたか取り消されたか、その後に上告等があるかを確認してください。古いニュースだけを見ると、現在の裁判状況を誤るおそれがあります。
少数株主が東電事件から学べる責任追及のポイント
東電株主代表訴訟は、原発事故という極めて特殊かつ大規模な事案です。その結論を一般の非上場会社や同族会社へそのまま当てはめることはできません。ただし、取締役の不作為責任を検討する順序には共通する点があります。
- 予見すべきリスクを具体化する:単に「危険だった」ではなく、どの事象が、どの事業・設備・資産に、どのような損害を生じさせるリスクだったかを特定します。
- 情報の内容と信頼性を確認する:社内報告、専門家意見、試算、監査報告、行政資料について、作成時点、前提、確度、反対意見を確認します。
- 誰がいつ知り得たかを分ける:代表取締役、担当取締役、非担当取締役、監査役について、受領資料、会議出席、担当分掌を整理します。
- 取るべき代替行動を示す:調査、取引停止、設備改修、資金凍結、内部通報調査など、当時実行可能だった具体策を特定します。
- 実施期間と事故回避可能性を検討する:その時点から対策を始めて、損害発生までに完了できたか、完了すれば損害を回避又は縮小できたかを検討します。
- 会社損害を積み上げる:支出額、回収額、資産価値、追加費用を区別し、義務違反との因果関係がある範囲を算定します。
重大な結果だけでは取締役責任は決まらない
会社に巨額の損害が発生しても、その結果だけで取締役の責任が自動的に成立するわけではありません。反対に、発生確率が低いリスクであっても、想定される損害が極めて大きく、具体的な警告や低コストの予防策があった場合には、調査や対応を怠った責任が問題になり得ます。
必要なのは、結果の重大さと予測の不確実性のどちらか一方だけを強調することではなく、当時得られた情報、役員の職責、対策の負担、損害の大きさを総合して具体的な義務を示すことです。
不作為責任では時系列が中心証拠になる
「何もしなかった」という責任を追及するには、いつまでに何をすべきだったかを示さなければなりません。報告書の作成日、取締役への説明日、会議日、対策の検討開始日、損害発生日を一つの時系列表にすると、義務の発生時期と実施可能性を検討しやすくなります。
他の株主代表訴訟と判断軸を比較したい場合は、株主代表訴訟の事例・判例まとめも参考にしてください。
よくある質問
東電株主代表訴訟の13兆3210億円判決は確定していますか
確定していません。一審の東京地裁令和4年7月13日判決は旧経営陣4名に13兆3210億円の支払を命じましたが、東京高裁令和7年6月6日判決がこれを取り消し、請求を棄却しました。その高裁判決に対して上告・上告受理申立てがされています。
東電株主代表訴訟は現在どうなっていますか
令和8年6月22日時点で確認できる公表情報では、最高裁第二小法廷に令和7年(受)第2219号上告受理申立て事件として係属しています。上告受理の決定や最高裁判決は確認できません。今後、申立てが受理されるか、不受理等により手続が終了するかによって確定状況が変わります。
東京高裁で結論が逆転した最大の理由は何ですか
中心は、旧取締役らに安全対策を直ちに指示すべき義務を認める前提となる津波の予見可能性です。一審は長期評価と試計算から10メートル盤を超える津波を予見できたとしましたが、高裁は運転停止を含む速やかな対策を義務付けるほど具体的で信頼性のある予見可能性はなかったと判断しました。
東京高裁は旧経営陣に社会的責任もないと判断したのですか
いいえ。高裁は、旧取締役らが事故防止措置を指示できる立場にあり、甚大な損害について大きな社会的責任を負うべき立場にあると述べています。ただし、社会的責任と、会社法上の個人の損害賠償責任は別であり、具体的な予見可能性がない以上、法的責任は認められないとしました。
勝訴した場合、13兆円は原告株主が受け取るのですか
受け取りません。本件は株主代表訴訟であり、請求が認められた場合の支払先は東京電力です。原告株主が自分の損害として13兆円を請求した事件ではありません。
東電株主代表訴訟と旧経営陣の刑事裁判は同じですか
異なります。株主代表訴訟は会社法上の民事責任を会社のために追及する手続です。刑事裁判は犯罪の成否と刑罰を判断するもので、予見可能性や注意義務が問題になっても、適用法、証明の程度、当事者、結論の効果が異なります。
東京高裁判決は、予測が不確実なら安全対策をしなくてよいという意味ですか
そのように一般化することはできません。高裁は、本件の長期評価、試計算、事故前の知見、運転停止の影響、想定される対策を具体的に検討して法的責任を否定しました。別の事案で、より具体的な警告、明確な法令違反、実施容易な対策、反復する異常兆候があれば、異なる結論になり得ます。
他の会社の少数株主も東電事件と同じ方法で役員を訴えられますか
会社に損害が生じ、取締役に任務懈怠責任があると考えられる場合、株主代表訴訟を検討することはできます。ただし、東電事件の事実や損害額をそのまま援用することはできません。対象会社の事業、役員の職責、リスク情報、代替行動、因果関係、提訴請求等を個別に確認します。
まとめ
- 東電株主代表訴訟は、株主が東京電力のために旧取締役らの任務懈怠責任を追及した訴訟です
- 東京地裁令和4年7月13日判決は、旧経営陣4名に13兆3210億円を東京電力へ支払うよう命じました
- 東京高裁令和7年6月6日判決は、具体的な津波の予見可能性を否定し、一審を取り消して請求を棄却しました
- 結論の違いは、予見可能性の具体性、求められる安全対策、実施可能性、事故回避可能性の評価にあります
- 令和8年6月22日時点では最高裁への上告受理申立て事件が係属し、最終結論は確定していません
- 少数株主が役員責任を検討する際も、情報、担当、時期、具体的な代替行動、因果関係、会社損害を順に整理することが重要です
東電株主代表訴訟は、事故の重大性だけで個人責任を認めるのか、予測に不確実性がある巨大リスクへ取締役がどこまで対応すべきかという難しい問題を示しています。一審と高裁のどちらかを一言で評価するのではなく、予見可能性から具体的な義務と因果関係を導く過程を比較することが重要です。
自社の役員責任を検討する場合は、事件の規模に惑わされず、手元の議事録、報告書、試算、メール、社内規程、会計資料を時系列で整理し、誰にどの義務があったかを具体化してください。
坂尾陽弁護士
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