株主が取締役へ直接損害賠償請求できる場合|会社法429条と株主代表訴訟の違い

会社法429条は、取締役などの役員等が職務を行うについて悪意又は重大な過失があり、それによって第三者に損害を生じさせた場合に、役員等が第三者へ直接損害を賠償する責任を定めています。株主も、事案によっては「第三者」として取締役へ直接請求できます。

もっとも、会社に損害が生じ、その結果として株価や株式価値が下がっただけであれば、株主個人の直接損害ではなく、会社の損害に伴う間接損害と評価されることがあります。その場合は、会社法423条に基づく会社の請求や株主代表訴訟によって、会社財産を回復することが基本です。

  • 会社法429条1項は、第三者を保護するための役員等の特別な法定責任です
  • 株主が直接請求できるかは、会社の損害と株主固有の損害を区別して判断します
  • 全株主に比例的に生じる株価下落は、原則として間接損害になりやすいといえます
  • 不当な新株発行による持分希釈など、株主の権利・持分が直接侵害された場合は別です
  • 請求方法によって、賠償金の受取先、必要な要件、事前手続が異なります

坂尾陽弁護士

最初に確認すべきなのは、「誰の財産・権利が直接侵害されたのか」です。会社のお金が減ったのか、株主固有の持分や権利が侵害されたのかで、選ぶべき請求が変わります。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年  京都大学法学部卒業
2011年  京都大学法科大学院修了
2011年  司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

弁護士 坂尾陽

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会社法429条とは

会社法429条1項は、役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、その役員等が、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。ここでいう役員等には、取締役のほか、会計参与、監査役、執行役、会計監査人が含まれます。本記事では、少数株主との関係で問題になりやすい取締役の責任を中心に説明します。

第三者保護のための特別な法定責任

最高裁大法廷昭和44年11月26日判決は、現行会社法429条1項の前身規定について、第三者を保護するために法律が特に定めた責任であると説明しました。取締役の会社に対する任務懈怠について悪意又は重大な過失があり、その任務懈怠と第三者の損害との間に相当因果関係があれば、第三者に対する損害賠償責任が問題になります。

したがって、請求する第三者は、取締役が自分に損害を与えることまで意図していたことを必ずしも立証する必要はありません。一方で、単なる軽微な落ち度では足りず、取締役の任務懈怠について悪意又は重大な過失があること、第三者に損害が生じたこと、両者の因果関係を具体的に示す必要があります。

会社法429条2項は虚偽記載等の責任を定める

会社法429条2項は、募集時の重要事項に関する虚偽通知、計算書類・事業報告等の重要事項の虚偽記載、虚偽登記、虚偽公告などについて、一定の役員等の責任を定めています。この場合は、行為者側が注意を怠らなかったことを証明したときに責任を免れるという、1項とは異なる構造です。

会社法429条には1項と2項があります。少数株主による取締役への直接請求で中心となるのは1項ですが、虚偽の計算書類、登記、公告等が問題となる事案では2項も別途確認します。

株主が「第三者」として直接請求できる場合

株主は会社の構成員ですが、会社とは別の法的主体です。そのため、株主自身の財産又は株主としての権利が直接侵害されたときは、会社法429条1項の「第三者」に含まれ、取締役へ直接損害賠償を請求できる場合があります。

ただし、株主が経済的不利益を受けたというだけで、すべて株主の直接損害になるわけではありません。次のように、損害が会社を経由しているか、株主固有の権利・持分へ直接及んでいるかを区別します。

区分 典型的な損害 基本となる請求 賠償金の受取先
会社の損害 会社資金の流出、会社財産の減少、不合理な取引による損失 会社法423条に基づく会社の請求、又は株主代表訴訟 会社
株主の間接損害 会社の損失に伴う株価・株式価値の比例的な低下 原則として会社損害の回復を通じて対応 会社
株主の直接損害 不当な希釈化、株主固有の権利侵害、特定株主を排除する行為による持分価値の直接毀損 会社法429条、不法行為その他の個人請求を検討 損害を受けた株主

直接損害かどうかは実質で判断する

「自分の株式価値が下がったから直接損害」という整理はできません。会社のお金が流出して企業価値が低下し、その結果として全株主の株式価値が持株比率に応じて下がったのであれば、出発点は会社の損害です。反対に、会社に損害が生じていなくても、特定株主の持分だけが不当に薄められた場合は、株主固有の直接損害が問題になります。

損害の名称だけで決めない

請求書や訴状で「直接損害」と書けば直接請求が認められるわけではありません。問題行為の前後で、会社財産、株主構成、持分比率、議決権、株式価値がどのように変化したかを資料で示す必要があります。


会社法429条1項の要件

株主が会社法429条1項に基づいて取締役へ直接請求する場合は、少なくとも次の事項を整理します。役職名だけで責任が決まるのではなく、問題となる時期の立場、担当、関与、認識可能性を取締役ごとに検討します。

要件・確認事項 主な検討内容
対象者 問題行為の時点で取締役等の地位にあったか。在任期間、担当分掌、代表権の有無
任務懈怠 法令・定款・株主総会決議、善管注意義務、忠実義務、具体的状況から導かれる任務に違反したか
悪意又は重大な過失 任務懈怠を認識していたか、又は通常求められる注意を著しく欠いていたか
株主固有の損害 会社損害に伴う間接的な価値低下ではなく、株主自身の財産・権利が直接侵害されたか
因果関係 当該取締役の任務懈怠がなければ、その株主損害が生じなかったといえるか
損害額 侵害前後の価値差、持分比率、取得対価その他の客観資料から算定できるか

悪意・重大な過失は任務懈怠について問題になる

ここでいう悪意は、一般に、取締役が会社に対する任務を怠っていることを認識していた場合を指します。重大な過失は、わずかな注意をすれば任務懈怠を認識できたのに、それを著しく欠いた場合などが問題になります。具体的な評価は、行為の内容、役職、受け取った報告、専門性、社内手続、利害関係等によって変わります。

会社法423条に基づく会社に対する責任では、原則として悪意又は重大な過失が独立の要件とされていません。これに対し、会社法429条1項の直接請求では悪意又は重大な過失が明文上必要です。この違いからも、会社の損害を429条で株主個人へ付け替えることはできません。任務懈怠責任の一般要件は、取締役の任務懈怠責任とは|会社法423条・善管注意義務違反の要件で詳しく解説しています。

取締役ごとに関与と認識を分ける

複数の取締役がいる場合、代表取締役だから必ず責任を負う、非常勤取締役だから責任を負わない、という判断にはなりません。誰が新株発行や契約を提案し、誰が条件を決め、どの資料が取締役会へ提出され、誰が賛成し、異常な事情を誰が知っていたかを個別に確認します。


株価下落・会社価値低下は間接損害になりやすい

取締役の不正や経営上の任務懈怠によって会社財産が減少すると、会社の株価又は非上場株式の価値が下がることがあります。しかし、このような価値低下は、会社が最初に損害を受け、その影響が株主へ及んだものです。そのため、原則として会社損害の回復を通じて対応すべき間接損害と整理されます。

雪印食品事件で示された考え方

東京高裁平成17年1月18日判決は、上場会社の業績が取締役の過失によって悪化し、株価下落によって全株主が平等に不利益を受けた場合について、特段の事情がない限り、株主は会社に代わって責任を追及する株主代表訴訟によるべきであり、取締役へ株主個人に対する直接の賠償を求めることはできないと判断しました。

同判決が挙げた理由には、会社が損害を回復すれば株主の損害も回復し得ること、会社と各株主への二重責任を避ける必要があること、会社債権者との関係や株主間の公平を守る必要があることが含まれます。

同判決は、株式を容易に処分できず、違法行為をした取締役と支配株主が一体で、代表訴訟の遂行や勝訴後の履行による救済を期待できない閉鎖会社について、特段の事情が認められる余地にも言及しました。ただし、非上場会社であることや、支配株主と対立していることだけで、会社の損害が自動的に株主の直接損害へ変わるわけではありません。

会社の損害を回復するなら株主代表訴訟

会社資金の流用、不合理な貸付け、利益相反取引などにより会社の財産が減った場合は、会社法423条に基づく取締役の会社に対する責任が中心になります。会社が請求しないときは、一定の要件の下で、株主が会社のために責任を追及する株主代表訴訟を検討します。


新株発行による希釈化が直接損害とされた裁判例

会社財産の減少ではなく、特定株主の持分比率と株式価値を直接引き下げた事案では、株主個人の直接損害が認められることがあります。具体例が、東京高裁令和2年5月20日判決です。

100株から899株を追加発行した事案

この事件では、会社設立時の発行済株式は100株で、代表取締役が63株、原告株主が8株を保有していました。会社は、代表取締役だけに899株を1株1万円で割り当てて発行し、発行済株式を999株としました。その結果、代表取締役の保有数は962株となり、原告株主の持分は8株のまま、持分比率が8%から約0.8%へ低下しました。その後、会社は全部取得条項付種類株式を利用して原告株主の8株を取得しました。

東京高裁は、新株発行により会社は899万円を得ており、会社自体に損害は生じていない一方、原告株主は持分比率の低下に伴う株式価値の希釈化という直接損害を受けたと整理しました。また、多額の入金が見込まれ、899万円の具体的使途も明らかでないなどの事情から、資金調達目的は仮装の理由付けであり、新株発行は専ら原告株主を排除する目的でされたと判断しました。

同判決は、代表取締役の会社法429条1項に基づく責任等を認め、代表取締役と会社に対し、連帯して3億9998万5814円等を支払うよう命じました。

上告審の射程には注意が必要

最高裁第三小法廷令和4年1月18日判決は上告を棄却しましたが、最高裁が判示した中心論点は、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金を民法405条により元本へ組み入れられるかという点でした。したがって、この最高裁判決を、会社法429条における株主の直接損害について新たな一般法理を示した判決として広げて説明することはできません。

損害賠償以外の手段と期限を先に確認

不公正な新株発行やスクイーズアウトでは、新株発行差止め、無効の訴え、反対株主の株式買取請求、価格決定申立てなどが問題になることがあります。手続ごとに要件と期限が異なるため、損害賠償請求だけを検討して時間を経過させないことが重要です。スクイーズアウト時の対応は、反対株主・スクイーズアウトの株式買取請求も参考にしてください。


会社法429条と株主代表訴訟の違い

会社法429条による株主個人の請求と株主代表訴訟は、どちらも取締役の責任を問題にしますが、回復しようとする損害と賠償金の受取先が異なります。次の表で基本的な違いを確認してください。

比較項目 会社法429条による直接請求 株主代表訴訟
回復する損害 株主個人に生じた直接損害 会社に生じた損害
請求する者 損害を受けた株主自身 株主が会社のために提訴
主な責任根拠 会社法429条1項 会社法423条1項等を会社法847条により追及
悪意・重過失 任務懈怠について必要 会社法423条では原則として独立要件ではない
提訴前の会社への請求 会社法847条の60日待機は不要 原則として会社への提訴請求と60日待機が必要
賠償金の受取先 損害を受けた株主 会社

直接損害と会社損害が併存する場合

一つの行為によって、会社と特定株主の双方に別個の損害が生じることはあります。その場合は、会社の損害と株主固有の損害を分け、それぞれの請求原因、損害額、因果関係を整理します。ただし、同じ損害について会社と株主が二重に回復することはできません。

株主代表訴訟の提訴請求や60日ルールを確認したい場合は、株主代表訴訟の提訴請求書の書き方も参照してください。


少数株主が確認すべき証拠

会社法429条の請求では、取締役の不当性だけでなく、株主固有の損害であることを示す資料が重要です。とくに新株発行や締出しが問題となる場合は、発行前後の株主構成、発行価額、資金需要、意思決定の時系列を一体として確認します。

  • 株主構成:株主名簿、設立時資料、増資前後の持株数・議決権比率
  • 発行条件:募集事項、払込価額、割当先、払込日、募集株式数、決議機関
  • 株式価値:株価算定書、事業計画、決算書、月次資料、将来収益の資料
  • 資金需要:資金繰り表、預金残高、入金予定、資金使途、代替調達手段
  • 意思決定資料:株主総会・取締役会議事録、稟議書、説明資料、専門家意見
  • 目的を示す資料:メール、チャット、録音、株主間の交渉経過、排除を示す発言
  • 締出しまでの時系列:定款変更、全部取得条項、株式併合、買取り・取得の通知と対価
  • 損害算定資料:発行直前・直後の1株価値、持分価値、受領した対価、鑑定・評価資料

決裁当時の資料と事後説明を分ける

訴訟になると、会社側から「資金調達が必要だった」「専門家に相談した」「全株主に説明した」といった説明がされることがあります。重要なのは、その説明を裏付ける資料が意思決定時に存在したか、専門家へ正確な前提事実が伝えられていたか、代替案と比較されたかです。後から作成された説明と決裁当時の資料を混同しないようにします。

証拠は項目別に並べるだけでなく、「日付・作成者・受領者・何を示すか」を一覧にし、増資、株主総会、締出し、通知、対価支払の時系列と対応させると、直接損害と因果関係を説明しやすくなります。

会社法429条の請求を検討する手順

少数株主が取締役への直接請求を検討するときは、損害額の計算から始めるのではなく、損害の帰属と利用できる手段を先に整理します。

  1. 侵害された財産・権利を特定する
    会社財産が減ったのか、株主固有の持分・議決権・取得対価が侵害されたのかを分けます。
  2. 緊急の会社法上の手段を確認する
    新株発行前の差止め、決議取消し・無効、価格決定など、損害賠償より先に期限が来る手段を確認します。
  3. 対象取締役と問題行為を特定する
    在任期間、担当、提案・決裁・実行への関与、利害関係を取締役ごとに整理します。
  4. 証拠を保全して時系列を作る
    株主名簿、議事録、発行条件、価値算定、資金需要、メール等を日付順に並べます。
  5. 直接損害と損害額を算定する
    行為前後の持分価値、受領対価、適正な発行価額等を比較し、二重計上を避けます。
  6. 請求根拠と被告を選ぶ
    会社法429条、民法709条、会社法350条、差止め・無効・価格決定等の関係を整理します。
  7. 回収・交渉方針まで検討する
    取締役個人の資力、会社との連帯責任の可能性、株式売却・買取交渉との関係も確認します。

消滅時効と会社法上の期限に注意する

会社法429条1項の責任は特別の法定責任と解され、消滅時効については民法の一般的な債権の規定が問題になります。現行法では一般に、権利を行使できることを知った時から5年、又は権利を行使できる時から10年のいずれか早い時点で時効が完成します。

もっとも、2020年4月1日より前に生じた権利への経過措置、不法行為請求との競合、損害や加害者を知った時期、請求・合意による完成猶予等によって結論は変わります。また、新株発行差止め、決議取消し、買取請求、価格決定等には別の短い期間制限があります。問題を把握した時点で、使える手段と期限をまとめて確認することが重要です。


会社法429条と株主の直接請求に関するよくある質問

株主は会社法429条の「第三者」に含まれますか

株主固有の財産・権利が直接侵害された場合は、株主も「第三者」として会社法429条1項に基づく請求を検討できます。ただし、会社の損害に伴って株式価値が下がっただけの間接損害は、原則として会社の損害回復や株主代表訴訟によるべきと判断されることがあります。

株価が下がれば取締役へ直接請求できますか

株価下落だけでは足りません。下落の原因が会社財産の減少や業績悪化で、全株主に比例的に生じた不利益であれば、間接損害になりやすいといえます。虚偽情報を信頼して特定時点で株式を取得した場合や、不当な希釈化を受けた場合など、会社損害を経由しない個別の損害があるかを確認します。

非上場会社なら株式価値の低下を直接請求できますか

非上場会社であることだけでは認められません。株式を容易に売却できず、支配株主と取締役が一体である事情は検討要素になり得ますが、会社損害と株主固有の損害の区別、代表訴訟による救済可能性、二重回復の危険などを個別に検討します。

会社法429条の請求にも60日待つ必要がありますか

会社法429条に基づく株主個人の直接請求には、株主代表訴訟のような会社への提訴請求と60日待機は必要ありません。ただし、実際には会社損害の回復が必要な事案であれば、代表訴訟の手続を選ぶ必要があります。

会社が倒産すれば株主は直接請求できますか

会社が倒産したというだけで、株主の間接損害が直接損害へ変わるわけではありません。倒産に至った任務懈怠、会社に生じた損害、株主固有の権利侵害、破産手続との関係を区別します。会社の損害賠償請求権は会社財産として扱われる可能性があるため、個別に手続を確認する必要があります。

会社法429条と株主代表訴訟を同時に使えますか

会社に生じた損害と株主個人に生じた直接損害が別々に存在する場合は、それぞれの請求が検討対象になることがあります。ただし、同一の経済的損害を二重に回復することはできず、請求原因、損害項目、賠償金の受取先を明確に分ける必要があります。


まとめ

  • 会社法429条1項は、悪意又は重大な過失のある任務懈怠によって第三者に損害を生じさせた役員等の責任を定めます
  • 株主も第三者になり得ますが、株主固有の直接損害であることが重要です
  • 会社の損失に伴う株価・株式価値の低下は、原則として間接損害になりやすいといえます
  • 不当な新株発行による持分希釈など、会社損害を経由しない権利侵害では直接請求が問題になります
  • 会社法429条と株主代表訴訟では、要件、事前手続、賠償金の受取先が異なります
  • 新株発行・締出しでは、損害賠償以外の救済手段と短い期限を先に確認する必要があります

会社法429条による直接請求の可否は、損害の名称ではなく、会社財産と株主の権利がどのように変化したかによって判断されます。会社資料が相手方に偏っている場合は、どの証拠を確保し、どの手段を先に取るかを含めて早期に方針を整理することが重要です。

坂尾陽弁護士

「自分が損をした」という事実だけでなく、会社の損害か、株主固有の損害かを時系列と数値で分けてください。この整理が、429条の直接請求、代表訴訟、価格決定その他の手段を選ぶ出発点になります。

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