相続で親族会社の非上場株式を取得したものの、配当がない、売ろうとしても会社が応じない、相続税評価額だけが高い、決算書や株主名簿を見せてもらえない、といった悩みを抱える方は少なくありません。特に同族会社では、経営者・大株主・親族関係が重なり、少数株主 トラブルが感情的な対立に発展しやすいのが実情です。
この記事では、相続・同族会社の少数株式トラブルを、売却・処分、評価・税務、配当、会社運営・情報開示、親族間交渉の観点から整理します。単に「株式を手放したい」「配当を出してほしい」と伝えるだけでは進みにくいため、どの資料を確認し、どの権利を使い、どの出口を目指すのかを分けて考えることが重要です。
坂尾陽弁護士
- 相続・同族会社の少数株式は、売却だけでなく税務評価、配当、情報不足、会社運営の問題が絡みます。
- 相続税評価額、会社側の提示額、実際の売却価格は一致するとは限りません。
- 配当がない場合でも、株式価値や交渉余地が当然になくなるわけではありません。
- 決算書、定款、株主名簿、株主総会資料が出ない場合は、少数株主権の行使を検討します。
- 親族間の対立は、持株比率、資料、価格、買取条件に落とし込むことが解決の出発点です。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
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相続・同族会社の少数株式トラブルでまず分けるべき論点
同族会社の少数株式トラブルは、ひとつの不満に見えても、実際には複数の問題が重なっています。たとえば「株式がいらない」という相談でも、背景には、売却先がない、相続税評価額が高い、配当がない、会社の支出が不透明、親族と話しにくい、という事情が同時に存在することがあります。
最初に分けておくべき論点は、次のとおりです。
- 売却・処分の問題:会社や大株主に買い取ってもらえるのか、第三者に売れるのか、譲渡制限があるのかを確認します。
- 評価・税務の問題:相続税評価額、会社側提示額、売却価格、裁判所で問題になる価格を混同しないことが重要です。
- 配当・保有負担の問題:配当がない、保有メリットがない、将来の相続で再び負担が生じるといった問題を整理します。
- 会社運営・情報開示の問題:株主総会決議が適法に行われていない、決算書・定款・株主名簿が出ない、不透明な支出があるといった場合は、少数株主権の行使を検討します。
- 親族間交渉の問題:親族関係を悪化させたくない場合でも、資料、価格、支払方法、清算条件を明確にしなければ解決しにくくなります。
このように整理すると、単なる親族間の感情対立ではなく、会社法上の権利行使、株式評価、売却交渉、税理士・会計士との連携が必要な問題として見えてきます。
相続した非上場株式は、相続税評価額と換価可能額を分けて見る
相続で非上場株式を取得した場合、まず問題になりやすいのが相続税評価です。取引相場のない株式は、会社規模、株主の立場、純資産、類似業種、配当などを踏まえて評価されることがあります。しかし、税務上の評価額が高いからといって、その金額で会社や大株主が買い取ってくれるとは限りません。
反対に、会社側から「少数株式だからほとんど価値がない」「配当がないから安い」と言われても、それだけで価格が決まるわけでもありません。相続税評価額は税務上の評価であり、売却価格や買取価格は、交渉相手、持株比率、譲渡制限、会社の収益力、純資産、配当実績、買主側の取得目的などによって変わります。
相続した株式の処分を考える場合は、相続した非上場株式を売却したい場合の対応を検討するとともに、相続税評価額と売却価格の違いについては非上場株式の相続税評価額と売却価格の違いを確認するのが有用です。
相続税申告や評価明細の作成は税理士の領域です。一方で、会社・大株主との売却交渉、資料請求、買取条件の調整は弁護士が関与すべき場面があります。
売却・処分の出口は、会社・大株主・第三者・譲渡制限で変わる
非上場会社の少数株式には、上場株式のような市場がありません。そのため、売却を考えるときは、誰に売るのかを最初に整理する必要があります。候補としては、会社、大株主、他の親族株主、取引先、従業員、第三者買主などが考えられます。
もっとも、同族会社では定款に譲渡制限があることが多く、第三者に売るには会社の承認が必要になる場合があります。会社が譲渡を承認しない場合には、会社または指定買取人による買取や、価格をめぐる手続が問題になることがあります。単に「譲渡制限があるから売れない」と言われただけで諦めるのではなく、定款、株主構成、譲渡承認の流れを確認することが大切です。
会社や大株主に任意で買い取ってもらう場合は、法律上当然に希望価格で買い取らせられるわけではありません。もっとも、将来の相続リスク、配当問題、株主総会運営、資料開示、株主間の関係悪化などを踏まえると、会社側にとっても任意買取で整理するメリットがある場合があります。会社・大株主への交渉は、会社・大株主に株式を買い取ってもらう方法で詳しく整理します。
一方で、会社が全く応じない、買い手が見つからない、価格が極端に低いという場合は、非上場株式が売れない場合の対処法のように、売れない原因を分解して対応を考える必要があります。「いらないから放棄したい」という入口の方は、非上場株式がいらない場合の処分・売却方法も確認すると整理しやすくなります。
配当がない・役員報酬が多い・支出が不透明な場合の見方
同族会社の少数株主からは、「会社は利益を出しているのに配当がない」「経営者一族だけが役員報酬を受け取っている」「会社のお金の使い方が分からない」という相談がよくあります。配当がないこと自体が直ちに違法になるとは限りませんが、少数株主にとっては、保有メリットがない、株式を売りたい、会社の説明を求めたいという大きな理由になります。
ここで重要なのは、配当問題を感情的な不満で終わらせず、資料と手続に落とすことです。過去の配当実績、役員報酬の決議、決算書、関連当事者への支出、貸付金、資産の売却、株主総会議事録などを確認すると、売却交渉や価格交渉で何を主張すべきかが見えてきます。
売買価格決定に関する裁判例でも、配当の有無だけで株式価値を単純に決めているわけではありません。たとえば大阪地裁平成25年1月31日決定では、少数株主の立場から配当還元法を一定割合で考慮しつつ、収益還元法も重く見る形で価格を検討しています。配当がない、または低い会社でも、会社の収益力、資産内容、持株比率、他株主との関係などを総合して考える必要があります。
配当を出さない会社への対応は、配当を出さない非上場会社への対応で詳しく扱います。この記事では、配当そのものを請求できるかだけでなく、情報収集、売却交渉、価格評価、株主権行使との関係を整理します。
決算書・定款・株主名簿が出ない場合は少数株主権を検討する
相続・同族会社の少数株式トラブルでは、配当や売却価格の前に、そもそも会社の情報が出てこないことがあります。決算書を見せてもらえない、定款の内容が分からない、株主名簿を確認できない、株主総会の招集通知が届かない、議事録が存在するのか分からない、役員報酬や重要な支出について適法な決議があるのか不明というケースです。
このような場合は、「親族なのに教えてくれない」という不満だけでなく、株主としてどの書類を、どの根拠で、どの範囲まで確認できるのかを整理します。定款、株主名簿、計算書類、会計帳簿、株主総会議事録などは、それぞれ確認方法や要件が異なります。特に会計帳簿閲覧請求は、持株割合や請求目的が問題になりやすいため、事前に請求の目的と必要性を整理しておくことが重要です。
また、株主総会決議の手続が適法に行われていない疑いがある場合、決議取消し、無効、不存在などの問題が生じることがあります。不透明な支出や役員報酬がある場合には、取締役の責任追及や株主代表訴訟を検討する場面もあります。ただし、これらは売却・買取交渉の「決定打」になるとは限らないため、まずは資料取得、争点整理、費用対効果の確認が必要です。
少数株主が使える権利の全体像は少数株主権の解説で、決算書や帳簿を確認したい場合の実務は会計帳簿閲覧請求の解説で詳しく整理します。
書類を求める前に、メールや口頭で感情的に詰めると、後の交渉や手続で対立が深まることがあります。請求する書類、目的、保有株式数、これまでのやり取りを整理してから進めるのが安全です。
親族間の対立は、資料と交渉条件に落とし込む
同族会社の少数株式トラブルが難しいのは、法律問題であると同時に親族間の問題でもあるからです。親、兄弟姉妹、叔父叔母、いとこ、創業家の関係者が会社の株主や役員になっていると、価格の話を切り出すだけでも「会社を裏切るのか」「親族なのにお金の話をするのか」と受け取られることがあります。
しかし、親族関係に配慮する場合でも、曖昧な話し合いだけで進めるのは危険です。売却先、価格、支払時期、分割払いの有無、税務確認、議決権行使、過去の配当・役員報酬、将来の相続、守秘義務、清算条項などを整理しなければ、後から再燃する可能性があります。
親族間で直接交渉すると感情的になりやすい場合は、弁護士が窓口となり、株主としての権利、資料、価格、出口条件に絞って交渉する方法があります。強硬な裁判手続だけを考えるのではなく、まずは任意買取、第三者譲渡、資料開示、価格算定、税理士・会計士との連携を組み合わせて、現実的な出口を探ることが大切です。
価格交渉では、相続税評価額・額面・会社提示額だけで判断しない
会社や大株主から買取価格を提示されたときに、額面、過去の親族間取引価格、相続税評価額、会社側の一方的な算定だけで判断するのは危険です。非上場株式の価格は、会社の資産、収益、配当、持株比率、取得する側の目的、譲渡制限、過去の取引事例などを踏まえて検討されます。
最高裁令和5年5月24日決定は、会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格決定手続において、DCF法で算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとした事案です。ただし、これは「常に30%下がる」という意味ではありません。評価方法の中で市場性のなさが既に考慮されているか、二重に減価していないかなど、事案ごとの検討が必要です。
このような裁判例から分かるのは、非上場株式の価格は単純な算数ではなく、資料、評価方法、当事者の立場、会社の状況を踏まえて判断されるということです。会社側の提示額が低い場合でも、直ちに受け入れるのではなく、根拠資料の提示を求め、必要に応じて税理士・会計士・弁護士が連携して検討することが重要です。
相談前に確認しておきたい資料
相続・同族会社の少数株式トラブルでは、最初から全資料をそろえる必要はありません。ただし、手元にある資料を確認しておくと、売却交渉、株主権行使、価格評価、税務確認の方向性を早く整理できます。
- 株式関係資料:株券、株式取得の経緯、遺産分割協議書、相続関係資料、持株数が分かる資料。
- 会社の基本資料:定款、登記事項証明書、株主名簿、株主構成、譲渡制限の有無が分かる資料。
- 決算・税務資料:決算書、申告書、相続税評価資料、税理士から受け取った評価メモ。
- 運営資料:株主総会招集通知、議事録、配当通知、役員報酬や重要な支出に関する資料。
- 交渉資料:会社・大株主・親族とのメール、LINE、書面、買取提示額、過去の話し合いのメモ。
資料が足りない場合でも、どの資料が不足しているかを把握すること自体が重要です。会社に任意で出してもらえないときは、どの少数株主権を使うべきか、売却交渉を先に進めるべきか、税理士・会計士と連携すべきかを検討します。
まとめ
- 相続・同族会社の少数株式トラブルは、売却、評価、配当、情報不足、親族間交渉に分けて整理します。
- 相続税評価額と売却価格は一致するとは限らず、会社側提示額だけで判断するのは危険です。
- 配当がない、不透明な支出がある、書類が出ない場合は、資料取得と少数株主権行使を検討します。
- 株主総会決議や役員報酬に疑問がある場合でも、まずは資料、要件、費用対効果を確認します。
- 親族間で直接話しにくい場合は、法的論点と交渉条件に落とし込んで出口を探ることが重要です。
相続・同族会社の少数株式は、持ち続けるだけでも税務、配当、親族関係、将来の相続に影響します。早い段階で株式数、定款、株主構成、決算資料、会社とのやり取りを整理し、売却・買取交渉、資料請求、価格評価のどれを優先するかを決めることが大切です。
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