取締役解任の訴えとは|少数株主が役員解任を求める要件・手続

取締役解任の訴えは、少数株主が、問題のある取締役などの役員を裁判で解任するよう求める制度です。会社の代表者や多数派株主が役員を支えているため、株主総会だけでは解任できない場合に、会社法854条に基づいて検討されます。

ただし、少数株主が「この役員を辞めさせたい」と考えれば直ちに使える制度ではありません。職務の執行に関する不正行為、又は法令・定款に違反する重大な事実があり、株主総会で解任議案が否決されたこと等が必要です。さらに、株主総会の日から30日以内という短い提訴期限があります。

この記事では、取締役解任の訴えの要件、株主総会での解任議案との関係、30日制限、証拠の集め方、株主代表訴訟や株主提案権との違いを、少数株主側の視点で解説します。

  • 取締役解任の訴えは、少数株主が裁判で役員解任を求める制度です。
  • 単なる不仲や経営方針の違いでは足りず、不正行為又は重大な法令・定款違反を資料で示す必要があります。
  • 原則として、株主総会で解任議案が否決された後、30日以内に訴えを提起する必要があります。
  • 株主代表訴訟、会計帳簿閲覧請求、株主提案権、自分が解任された場合の損害賠償請求とは目的が異なります。
  • 期限が短いため、総会前から証拠、議案、訴訟方針を準備することが重要です。

坂尾陽弁護士

取締役解任の訴えは、少数株主権の中でも準備と期限管理が特に重要な手続です。総会で否決されてから考え始めるのでは遅いことがあるため、疑わしい事情がある段階で資料を整理しておきましょう。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年  京都大学法学部卒業
2011年  京都大学法科大学院修了
2011年  司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

弁護士 坂尾陽

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取締役解任の訴えとは

取締役解任の訴えとは、一定の株主が、会社や対象役員を被告として、裁判所に対して役員の解任を求める訴訟です。会社法上は、取締役だけでなく、監査役や会計参与も対象となる役員に含まれます。

通常、取締役などの役員は株主総会の決議によって解任されます。しかし、支配株主や多数派が問題のある役員を支持している場合、少数株主が解任議案を出しても否決されることがあります。そのような場合に、一定の要件を満たす少数株主が裁判で解任を求める制度が、取締役解任の訴えです。

この制度の目的は、単に少数株主の不満を実現することではありません。会社の役員に職務上の不正行為や重大な法令・定款違反があるにもかかわらず、株主総会の多数決だけでは是正されない場合に、裁判所の判断で役員の地位を失わせる点にあります。

通常の解任との違い

株主総会による通常の取締役解任は、会社法339条1項の問題です。これに対し、取締役解任の訴えは、株主総会で解任できなかった場合等に、会社法854条に基づいて裁判で解任を求める制度です。


少数株主が取締役解任を求められる場面

少数株主が取締役解任の訴えを検討する典型場面は、会社の支配権を握る取締役やその親族役員に不正が疑われるのに、社内で是正されない場合です。

典型場面 問題になりやすい点 確認すべき資料
会社資金の私的流用 会社カード、会社口座、社長個人の支出、親族への支払などが業務と関係するか 通帳、カード明細、領収書、会計帳簿、支出一覧
利益相反取引 代表者個人や関連会社との売買・賃貸借・貸付が会社に不利ではないか 契約書、取締役会議事録、鑑定書、相場資料、入出金資料
過大な役員報酬 株主総会決議の有無、職務内容、会社業績との均衡、親族役員への支払 株主総会議事録、報酬規程、決算書、給与台帳
不適切な新株発行 支配権維持のための発行、決議手続、払込の有無、株主への説明 株主総会議事録、取締役会議事録、払込資料、登記簿
重大な法令違反 粉飾、虚偽報告、無許可取引、会社財産の流出、コンプライアンス違反 決算書、監査資料、内部資料、行政処分資料、メール

もっとも、少数株主から見て不自然に見える取引でも、すぐに解任が認められるわけではありません。裁判では、対象役員の職務執行に関する不正又は重大な違反であることを、客観資料に基づいて具体的に示す必要があります。

会社私物化が疑われる場合の初動は、会社私物化とは|代表者の私的流用・横領疑いに少数株主が取れる対応でも整理しています。


会社法854条の要件

取締役解任の訴えでは、主に次の要件を確認します。特に重要なのは、解任事由、株主総会での否決、持株要件、30日以内の提訴です。

不正行為又は重大な法令・定款違反があること

対象役員について、職務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実が必要です。単なる性格の不一致、親族間の対立、経営方針への不満、業績が悪いというだけでは、原則として足りません。

たとえば、会社資金の私的流用、承認のない利益相反取引、会社に重大な損害を与える法令違反、虚偽資料による株主への説明、会社財産を不当に流出させる行為などは、証拠次第で問題になり得ます。

株主総会で解任議案が否決されたこと等

取締役解任の訴えは、原則として、当該役員を解任する旨の議案が株主総会で否決された場合に問題になります。つまり、いきなり裁判を起こすのではなく、まず株主総会で解任を求め、その議案が通らなかったという前提が必要になります。

少数株主が解任議案を出すためには、株主提案権や株主総会招集請求を検討します。株主提案権や総会招集請求の一般的な手続は、株主提案権とは|少数株主が株主総会に議案を出す要件・手続で詳しく解説しています。

3%以上の議決権又は株式数が問題になること

取締役解任の訴えを提起できる株主には、原則として、総株主の議決権の3%以上又は発行済株式の3%以上という保有要件があります。定款でこれを下回る割合が定められている場合には、その割合によります。

公開会社では、6か月前から引き続き保有していることが必要になります。これに対し、公開会社でない会社では、6か月の継続保有要件は不要とされています。非上場会社・同族会社では公開会社でないことが多いですが、定款と株式の譲渡制限の有無を確認する必要があります。

また、対象役員自身が株主である場合や、議決権を行使できない株式がある場合など、要件計算で注意すべき点があります。持株比率だけを見て即断せず、株主名簿、定款、登記簿、議決権の内容を確認しましょう。

株主総会の日から30日以内に提訴すること

取締役解任の訴えは、株主総会の日から30日以内に提起する必要があります。30日という期間は非常に短く、総会後に初めて証拠収集を始めると間に合わないことがあります。

30日制限に注意

解任議案が否決されてから訴訟方針を考え始めるのでは遅い場合があります。総会前から、解任事由、証拠、議案内容、提訴先、被告、仮処分の要否を整理しておくことが重要です。


株主総会での解任議案との関係

取締役解任の訴えを検討する場合、株主総会でどのように解任議案を出すかが重要です。議案の出し方が曖昧だと、後の訴訟で「解任議案が否決された」といえるかが争われる可能性があります。

少数株主側では、対象役員、解任理由、議案文、招集請求の方法、議事録への残し方、反対・賛成の記録を整理しておく必要があります。総会当日には、発言や質問の内容も重要になることがあります。株主総会での質問・発言の実務は、株主総会で質問・発言できること|少数株主の対応と非上場会社での実務も参考になります。

なお、株主総会での通常の解任決議が成立した場合、取締役は解任されます。その場合に、解任された取締役が会社に損害賠償を求める問題は、取締役解任の訴えとは別の制度です。自分が少数株主兼取締役として解任された側の損害賠償は、少数株主兼取締役を解任されたら|不当解任・損害賠償請求で扱います。


提訴までの流れ

取締役解任の訴えは、総会と訴訟が連動するため、事前準備が重要です。一般的には、次のような流れで検討します。

  1. 問題行為を整理する:対象役員、行為の時期、金額、関係者、会社への影響を一覧化します。
  2. 証拠を集める:会計帳簿、議事録、契約書、通帳、領収書、メール、株主総会資料を確認します。
  3. 解任議案を準備する:株主提案権や株主総会招集請求を使うか、会社側総会で動議を出すかを検討します。
  4. 株主総会で否決された記録を残す:議案、議決結果、議事録、投票状況、会社側説明を確認します。
  5. 30日以内に訴訟を提起する:会社と対象役員を被告とし、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所での提訴を検討します。
  6. 必要に応じて仮処分も検討する:役員の職務執行停止や職務代行者選任の仮処分が問題になることがあります。

実務上は、総会後30日以内に訴状を作成するだけでなく、証拠説明、被告の特定、管轄、請求の趣旨、解任事由の整理まで必要になります。総会前から弁護士に相談しておく方が安全です。


証拠として確認すべき資料

取締役解任の訴えでは、「問題がありそう」という印象だけでは足りません。どの役員が、いつ、どの職務執行として、どのような不正又は重大な違反をしたのかを、証拠で説明する必要があります。

  • 定款・登記簿:役員構成、任期、株式譲渡制限、機関設計を確認します。
  • 株主名簿:持株数、議決権割合、共同株主の有無を確認します。
  • 株主総会議事録:解任議案の有無、否決結果、会社側説明を確認します。
  • 取締役会議事録:利益相反取引、重要財産処分、役員報酬、借入・貸付の承認を確認します。
  • 会計帳簿・決算書:使途不明金、関連会社取引、役員貸付金、過大報酬を確認します。
  • 契約書・請求書・領収書:取引条件、支払名目、相手方、相場との乖離を確認します。
  • 通帳・送金記録・カード明細:会社資金の流れを確認します。
  • メール・チャット・録音:役員の関与、認識、説明内容を確認します。

資料が手元にない場合は、いきなり解任訴訟を考えるのではなく、まず会計帳簿閲覧請求とは|少数株主が株式売却・株価評価の資料を集める方法など、資料収集の手段を検討します。


裁判例から見る解任請求の難しさ

取締役解任の訴えでは、少数株主側が不正を主張しても、証拠や評価が不足すると請求は認められません。裁判例でも、役員の行為が不自然に見えるだけでは足りず、職務遂行上の不正行為又は重大な法令違反といえるかが慎重に判断されています。

裁判例 問題となった主張 裁判所の判断 少数株主側の示唆
東京地裁平成18年9月26日判決 非公開会社の株主が、代表取締役らについて、不動産の廉価譲渡・高額賃借、新株発行、架空請求への関与を主張して、取締役解任を求めました。 不動産譲渡・賃貸借については価格や賃料が不当とは認められず、新株発行についても株主全員の同意が認められ、架空請求への代表取締役の関与も認められないとして、請求は棄却されました。 取引が疑わしく見えても、鑑定、議事録、同意、払込、関与の有無などを崩せなければ、解任請求は難しくなります。感情的な主張ではなく、客観資料で要件を満たす必要があります。

この裁判例は、少数株主が問題意識を持つ場面でも、裁判で解任を認めてもらうには高い立証が必要であることを示しています。会社側が鑑定書、議事録、株主同意、会計処理などを提出してくることも想定し、それに反論できる資料を準備する必要があります。


株主代表訴訟・会計帳簿閲覧請求・損害賠償請求との違い

取締役解任の訴えは、少数株主が使える他の手段と混同されやすい制度です。目的を間違えると、手続選択を誤る可能性があります。

制度 目的 主な場面
取締役解任の訴え 問題のある役員を裁判で解任する 総会で解任議案が否決されたが、不正行為又は重大な違反がある場合
株主提案権・総会招集請求 株主総会に議案を出す、総会開催を求める 解任議案を株主総会にかけたい場合
会計帳簿閲覧請求 会社資料を確認して証拠を集める 使途不明金、役員報酬、関連会社取引の資料を見たい場合
株主代表訴訟 役員に会社への損害賠償を求める 会社資金流出、利益相反取引、過大報酬などで会社損害を回復したい場合
会社法339条2項の損害賠償請求 正当な理由なく解任された取締役が損害賠償を求める 自分が少数株主兼取締役として解任された場合

役員の責任追及として金銭の回復を目指す場合は、株主代表訴訟とは|少数株主が取締役の責任追及を検討する前に知るべきことが中心になります。裁判例の傾向は、株主代表訴訟の事例・判例まとめも参考になります。


解任の訴えを検討する前に考えるべき交渉方針

取締役解任の訴えは強い手段ですが、会社内の対立を大きくする手続でもあります。少数株主側では、裁判で解任を求めること自体が目的なのか、会社資産の流出を止めたいのか、資料開示を引き出したいのか、他の株主と連携したいのかを整理する必要があります。

たとえば、会社私物化や過大役員報酬が疑われる場合には、最初から解任訴訟に進むのではなく、会計帳簿閲覧請求、株主総会での質問、株主代表訴訟の提訴請求、内容証明による是正要求などを組み合わせた方がよい場合があります。

一方で、役員が会社財産をさらに流出させるおそれがある、重要資料を廃棄するおそれがある、総会で多数派が明らかに問題役員を擁護している、といった場合には、解任訴訟や仮処分を早急に検討すべきことがあります。

重要なのは、解任訴訟を単独の手段として見るのではなく、資料収集、株主総会対応、責任追及、交渉、株式の出口を含めて順番を設計することです。


弁護士に相談すべきタイミング

取締役解任の訴えは、要件判断と期限管理が難しいため、次のような場合は早めに弁護士へ相談した方がよいでしょう。

  • 代表者や親族役員による会社資金の私的流用が疑われる場合
  • 重要な利益相反取引や関連会社取引がある場合
  • 過大役員報酬、無承認報酬、使途不明金がある場合
  • 取締役解任議案を株主総会に出したい場合
  • 株主総会で解任議案が否決され、30日以内の対応が必要な場合
  • 会計帳簿閲覧請求や株主代表訴訟とどちらを先に使うべきか迷う場合
  • 対象役員の職務執行停止や職務代行者選任の仮処分を検討している場合

相談時には、定款、登記簿、株主名簿、持株数が分かる資料、株主総会資料、議事録、問題行為の一覧、会計資料、会社側とのやり取りを持参すると、要件と期限の確認がしやすくなります。


よくある質問

少数株主だけで取締役を解任できますか

少数株主だけで直ちに取締役を解任できるわけではありません。まず株主総会で解任議案を可決できれば通常の解任になります。可決できず否決された場合でも、会社法854条の要件を満たせば、一定の株主が裁判で解任を求めることができます。

株主総会で否決されないと訴えられませんか

原則として、解任議案が株主総会で否決されたこと等が必要です。そのため、少数株主側では、解任議案をどのように総会にかけるかを先に検討する必要があります。

30日を過ぎたらどうなりますか

その株主総会を前提とする取締役解任の訴えは難しくなります。別の総会で改めて解任議案を出す、会計帳簿閲覧請求や株主代表訴訟など別の手段を検討するなど、方針を組み直す必要があります。

3%未満の株主は何もできませんか

取締役解任の訴えには原則として3%以上の議決権又は株式数の要件があります。ただし、他の株主と共同できる場合や、会計帳簿閲覧請求、株主総会での質問、株主代表訴訟など別の手段を検討できる場合があります。

会社に損害が出ていないと解任請求はできませんか

金銭的損害が常に独立要件になるわけではありませんが、会社損害や会社利益への影響は、不正行為や重大な違反の有無を判断する重要な事情になります。実務上は、会社にどのような不利益が生じたかを具体的に整理することが重要です。

株主代表訴訟とどちらを先に使うべきですか

目的によります。役員の地位を失わせたい場合は取締役解任の訴え、会社に損害賠償金を回復させたい場合は株主代表訴訟が中心です。証拠収集が先に必要な場合は、会計帳簿閲覧請求から検討することもあります。

対象取締役が辞任したら訴えはどうなりますか

対象役員が退任した場合、役員の地位を失わせるという訴えの利益が問題になります。任期満了、辞任、再任、別役職への就任などの事情によって方針が変わるため、早めに確認が必要です。

勝訴すれば損害賠償も取れますか

取締役解任の訴えは、役員を解任するための制度です。会社に損害賠償金を支払わせるには、会社自身の請求や株主代表訴訟など、別の請求を検討する必要があります。

自分が取締役から解任された場合もこの訴えを使いますか

通常は違います。自分が取締役から解任された側で、正当な理由がないとして残任期間報酬などを請求する場合は、会社法339条2項に基づく損害賠償請求が問題になります。


まとめ

取締役解任の訴えは、少数株主が、問題のある取締役などの役員について、裁判で解任を求める制度です。会社法854条に基づく手続であり、株主総会で解任議案が否決された場合等に、一定の株主が30日以内に提起する必要があります。

  • 取締役解任の訴えは、役員の地位を裁判で失わせる制度です。
  • 不正行為又は重大な法令・定款違反を、客観資料で具体的に示す必要があります。
  • 原則として、株主総会で解任議案が否決されたこと等が前提になります。
  • 株主総会の日から30日以内に提起する必要があるため、総会前から準備が必要です。
  • 株主提案権、会計帳簿閲覧請求、株主代表訴訟、自分が解任された場合の損害賠償請求とは目的が異なります。

問題のある役員を辞めさせたい場合でも、感情的に解任だけを求めるのではなく、証拠、株主総会手続、持株要件、30日制限、会社損害、他の少数株主権との関係を整理する必要があります。総会後に慌てて動くのではなく、総会前から証拠と方針を準備しましょう。

坂尾陽弁護士

取締役解任の訴えでは、30日制限と証拠の質が大きな分岐点になります。会社側の反論を想定しながら、総会前の段階で提案・資料収集・訴訟方針を整理しておくことが重要です。

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取締役解任の訴えを検討する場合は、株主提案権、株主総会での質問、会計帳簿閲覧請求、株主代表訴訟、自分が解任された場合の損害賠償請求との違いをあわせて確認すると、対応方針を整理しやすくなります。

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