取締役の利益相反取引とは|会社法356条・承認・損害賠償と代表訴訟

取締役の利益相反取引とは、取締役が自分又は第三者の利益を図る立場で会社と取引をする場合や、会社と取締役の利益が客観的に対立する取引をいいます。会社法356条は、会社に不利益な取引が無断で行われることを防ぐため、重要な事実の開示と事前承認を求めています。

もっとも、取締役や親族の関係会社が取引相手であるからといって、直ちに違法又は無効になるわけではありません。少数株主が確認すべきなのは、誰のための取引か、会社にどのような不利益のおそれがあるか、適切な機関で承認されたか、取引条件が公正か、会社に損害が生じたかです。

  • 利益相反取引には、直接取引と間接取引があります
  • 取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では原則として株主総会の事前承認が必要です
  • 承認前には重要な事実を開示し、特別利害関係取締役は取締役会の議決に加われません
  • 無承認取引の効力は、直接取引か第三者が介在する取引かなどによって異なります
  • 承認があっても、会社に損害が生じれば取締役の損害賠償責任が残ることがあります

坂尾陽弁護士

「関係者との取引だから違法」「承認があるから責任なし」と一足飛びに結論を出さず、取引の構造、承認資料、価格の根拠、会社損害を順に確認しましょう。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年  京都大学法学部卒業
2011年  京都大学法科大学院修了
2011年  司法試験合格
2012年~ 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

弁護士 坂尾陽

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利益相反取引とは|会社法356条の基本

会社法356条1項は、取締役が一定の取引をしようとするとき、株主総会において、その取引について重要な事実を開示し、承認を受けなければならないと定めています。取締役会設置会社では、会社法365条1項により、承認機関は株主総会ではなく取締役会です。

会社法356条1項には競業取引も規定されていますが、本記事では、同項2号の直接取引と同項3号の間接取引を中心に扱います。規制の目的は、取締役がその地位を利用して自己又は第三者の利益を優先し、会社に予想外の損害を与えることを防ぐ点にあります。

直接取引とは

直接取引は、取締役が自己又は第三者のために会社と取引をする場合です。典型例は、取締役が自分の不動産を会社へ売却する、会社から金銭を借りる、取締役が代表する別会社を相手方として自社と契約する、といった取引です。

「自己又は第三者のために」という点では、取引の名義や、誰を代表・代理して契約するのかが重要です。同じ人物が複数社の役員を兼ねている場合でも、肩書きだけで判断せず、どの会社を代表して契約し、取引条件の決定にどの立場で関与したかを確認します。

間接取引とは

間接取引は、会社が取締役以外の第三者と取引する形をとりながら、会社と取締役の利益が相反する取引です。会社が取締役個人の債務を保証する、会社財産を担保に入れる、取締役個人の債務を会社が引き受ける場合などが典型です。

形式上の相手方が取締役本人でなくても、取締役の負担を会社へ移し、会社に損失リスクを負わせる構造であれば、間接取引として会社法356条の規制対象になり得ます。

直接取引と間接取引の見分け方

契約の相手方だけでなく、誰の債務・費用・リスクを会社が負担するのかを確認します。取締役本人が契約当事者なら直接取引、第三者との契約を通じて取締役が利益を受けるなら間接取引が問題になります。


直接取引・間接取引の具体例

同族会社では、取締役本人との契約だけでなく、親族会社、資産管理会社、取締役が代表する別会社との取引が多く問題になります。次の表は、少数株主が取引の構造を確認するための典型例です。

類型 具体例 主な確認資料
自己のための直接取引 取締役が所有する不動産・車両・株式を会社へ売却する、会社から借入れをする 売買・金銭消費貸借契約、価格算定、返済条件、担保、承認議事録
第三者のための直接取引 取締役が相手方会社を代表し、自社と業務委託、売買、賃貸借等を行う 双方の登記、代表権、契約書、見積り、選定理由、取締役会資料
債務保証 会社が取締役個人の借入れを保証する 保証契約、借入契約、資金使途、保証料、承認資料
担保提供 取締役個人又は関係会社の債務のために会社不動産を担保に入れる 抵当権設定契約、登記事項証明書、債務者、被担保債権、社内決裁
債務引受・肩代わり 取締役個人が負う支払債務を会社が引き受け、又は第三者へ支払う 元の債務資料、債務引受契約、支払明細、会社側の対価・利益
親族・関係会社との取引 親族会社への高額な外注費、賃料、貸付、資産譲渡 資本・親族関係、相場資料、比較見積り、成果物、支払実績

親族会社・関連会社との取引は自動的に利益相反ではない

相手方が取締役の配偶者、親族又は関係会社であるだけで、すべての取引が当然に会社法356条の利益相反取引になるわけではありません。取締役が相手方を代表しているか、取締役が実質的な利益を受けるか、会社と取締役の利害が客観的に対立するかを個別に検討します。

一方、相手方会社の株式を取締役が実質的に保有し、価格決定にも関与し、会社側だけが不利な条件を負う場合には、直接取引又は間接取引の該当性だけでなく、善管注意義務・忠実義務違反も問題になります。

会社との金銭授受がすべて会社法356条の問題になるわけではない

適法に決定された役員報酬の支払は、原則として会社法361条の問題であり、会社と取締役の間に金銭の移動があるというだけで直ちに利益相反取引になるわけではありません。また、既に確定した会社の債務を通常どおり履行するだけの場面や、会社に不利益を及ぼすおそれが客観的にない取引は、規制対象外となることがあります。

ただし、役員報酬を装った特別な支払、返済期限や利息を後から取締役に有利に変更する行為、会社側の債権を放棄する行為などは、別途、利益相反や任務懈怠の検討が必要です。


利益相反取引に当たるかの判断ポイント

利益相反取引の判断では、「会社に実際の損害が出たか」だけを見るのではありません。会社法356条は事前規制であるため、取引時点で会社と取締役の利益が対立し、会社に不利益が生じるおそれがある構造かを確認します。

確認項目 判断のポイント
取引当事者 契約名義人、代表者、代理人は誰か。取締役はどの立場で署名・決裁したか
受益者 金銭、保証、担保、債務免除等によって実質的に利益を受ける者は誰か
会社側の負担 支払、保証、担保、信用リスク、機会損失などを会社が負うか
取締役の関与 相手方選定、価格交渉、契約締結、支払承認に関与したか
取引条件 市場価格、第三者条件、担保・返済条件、解約条件と比べて公正か
承認・開示 適切な機関へ重要な事実を開示し、取引前に承認を受けたか

名目ではなく取引の実質を見る

「業務委託料」「紹介料」「顧問料」「貸付金」「立替金」などの名目が付いていても、実際の役務、返済、成果物、価格根拠がなければ、会社にとって不利益な関連当事者取引である可能性があります。

資金流出の事実と証拠の集め方は、社長・役員による会社横領・私的流用|少数株主が取れる対応で詳しく解説しています。本記事では、その資金流出を会社法356条の利益相反取引としてどう評価するかに焦点を当てます。

結果が会社に有利でも承認手続が不要とは限らない

最終的に会社へ利益が出たという結果だけで、事前承認が不要になるわけではありません。取引開始時に利益相反の構造があるなら、原則として重要な事実を開示して承認を受けます。反対に、形式だけを見て規制対象を過度に広げるのも適切ではないため、取引の名義と客観的な利害対立を両方確認します。


承認機関と取締役会承認の手続

利益相反取引の承認機関は、会社が取締役会設置会社かどうかで異なります。会社の登記事項証明書や定款で機関設計を確認し、誤った機関の承認で済ませないことが重要です。

会社の機関設計 承認機関 主な根拠
取締役会を設置していない会社 原則として株主総会 会社法356条1項
取締役会設置会社 取締役会 会社法365条1項

承認前に「重要な事実」を具体的に開示する

承認は、単に「関連会社との取引を認める」と抽象的に決議すれば足りるとは限りません。判断に必要な重要事実として、少なくとも次の事項を確認します。

  • 取引の相手方と、取締役との資本・親族・役員関係
  • 取引の目的、種類、期間、金額又は上限
  • 価格、利率、担保、保証、支払条件、解約条件
  • 会社が負担するリスクと、取締役又は第三者が得る利益
  • 第三者との比較、価格算定、他の選択肢
  • 継続取引であれば対象期間、更新条件、限度額

継続的な取引を一括承認する場合でも、対象となる取引の範囲、期間、金額、条件が不明確であれば、後の個別取引まで承認されたかが争われます。議案資料と議事録の双方に、承認対象を特定できる内容を残すことが重要です。

特別利害関係人は取締役会の議決に加われない

会社法369条2項は、取締役会決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができないと定めています。利益相反取引の相手方となる取締役は、通常、特別利害関係人に当たり得ます。

その取締役は採決に参加できず、定足数も議決に加わることができる取締役を基準に計算します。議事録では、誰が重要事実を説明し、誰が退席又は議決不参加となり、残る取締役がどの資料を基に判断したかを確認します。

株主総会と取締役会を混同しない

会社法369条2項の議決参加禁止は取締役会の規律です。取締役が株主でもある場合の株主総会での議決権行使は別の規律となるため、「取締役会で投票できないから株主総会でも投票できない」と単純化できません。

取締役会設置会社では取引後の報告も必要

取締役会設置会社では、利益相反取引をした取締役は、取引後、遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会へ報告しなければなりません(会社法365条2項)。事前承認の議事録だけでなく、実際の契約条件、支払額、履行状況を報告した記録も確認します。


承認のない利益相反取引は無効か

利益相反取引について必要な承認がなかったとしても、すべての相手に対して当然かつ一律に無効になるとは限りません。直接取引か、第三者が介在する間接取引か、相手方が承認欠缺を知っていたかなどによって、取引の効力に関する扱いが変わります。

取締役本人との直接取引

会社と取締役本人との直接取引では、会社は、必要な承認がないことを理由に、その取締役に対して取引の無効を主張できると整理されます。取締役側が、自ら承認手続を経なかった取引の有効性を当然に会社へ押し付けられるわけではありません。

第三者が介在する取引

会社が取締役個人の債務を引き受けるなど、第三者との間で行われる取引では、取引の安全も考慮されます。判例上、会社が第三者に無効を主張するには、承認がなかったことに加え、その第三者が承認欠缺を知っていたことが問題になります。

したがって、少数株主側では、承認議事録の不存在だけでなく、相手方と取締役の関係、契約交渉への関与、相手方が会社の機関設計や承認状況を知っていたことを示すメール、議事録、契約書、登記等を確認します。

事後承認・追認で常に治るわけではない

問題発覚後に取締役会議事録を作成したり、後から「追認した」と説明したりしても、それだけで承認欠缺が当然に解消されるわけではありません。事後承認が問題になる場合も、適切な機関が、取締役の利害関係、実際の取引条件、会社損害など重要な事実を認識した上で、有効な決議をしたかを確認します。

議事録の日付、招集通知、出席者、決議参加者、資料の作成時期が一致しない場合は、後付け資料の可能性も含めて慎重に検討します。

無承認イコール即時回収とは限りません

無承認取引でも、契約の相手方、善意・悪意、既に履行された内容、会社が受けた利益、事後承認の有無によって請求内容が変わります。無効、返還、損害賠償のどれを求めるかを分けて検討します。


利益相反取引による損害賠償責任

利益相反取引に必要な承認があったとしても、取締役の損害賠償責任が当然に消えるわけではありません。承認は、取締役が利害関係を開示し、会社として取引を許容するための手続です。取引条件が不公正で会社に損害を与えた場合には、会社法423条1項に基づく任務懈怠責任が問題になります。

会社法423条3項の任務懈怠の推定

直接取引又は間接取引によって会社に損害が生じた場合、会社法423条3項は、次の取締役について任務を怠ったものと推定しています。

対象者 具体的な立場
利益相反取引をした取締役 自己又は第三者のために取引をした取締役、利益が相反する取締役
会社が取引をすることを決定した取締役 会社側の契約・支払・保証等を決定した取締役
取締役会の承認決議に賛成した取締役 承認取締役会で賛成した取締役

ここで推定されるのは任務懈怠です。会社に損害が生じたこと、損害額、取引との因果関係まで自動的に推定されるわけではありません。少数株主側は、取引前後の会社財産、相場との差額、回収不能額、保証履行額などから会社損害を具体化する必要があります。

自己のために直接取引をした取締役には特則がある

会社法428条1項は、自己のために直接取引をした取締役について、任務を怠ったことが本人の責めに帰することのできない事情によるという理由で責任を免れることを認めていません。また、会社法424条により、会社法423条1項の責任を全部免除するには原則として株主全員の同意が必要です。さらに、自己のための直接取引については、会社法428条2項により、株主総会等による一部免除、定款に基づく免除、責任限定契約という会社法425条から427条までの制度も使えません。

もっとも、責任追及には、会社損害と因果関係の立証が必要です。また、取締役本人以外の役員については、担当、説明内容、賛否、認識、是正可能性を個別に検討します。任務懈怠責任の全体像は、取締役の任務懈怠責任とは|会社法423条・善管注意義務違反の要件を参照してください。

承認は免責決議ではありません

取締役会や株主総会の承認があっても、取引条件が会社に著しく不利で損害が生じれば、取締役の責任が問題になります。承認の有無と、取引の公正性・会社損害は分けて確認します。


少数株主が確認すべき証拠

利益相反取引の責任追及では、契約書だけでなく、利害関係、承認過程、価格の合理性、履行結果を一つの時系列にまとめます。取引が適法に見えるよう後から資料が整えられることもあるため、作成時期と相互の整合性を確認します。

関連当事者取引の証拠チェック

相手方会社の登記/株主・実質的支配者/親族関係/契約書/見積書/価格算定資料/取締役会・株主総会の招集通知/議案資料/議事録/特別利害関係人の退席・議決不参加/事後報告/請求書/振込記録/成果物/担保・保証資料/メール・チャット/会計帳簿/問題発覚後に作られた資料

議事録は「承認あり」という結論だけを見ない

取締役会議事録や株主総会議事録があっても、承認対象が特定され、重要な事実が開示されていたかを確認します。「関連会社取引を承認した」とだけ記載され、相手方、金額、条件、取締役の利益が示されていない場合は、どの範囲を承認したのかが争われる可能性があります。

取締役会では、特別利害関係を有する取締役が採決に参加していないか、残る取締役に必要な情報が渡されていたか、反対・留保意見が議事録に残っているかも重要です。

価格と会社損害を別々に立証する

承認手続に瑕疵があっても、損害賠償を求めるには会社損害を具体化する必要があります。不動産売買なら鑑定・近隣相場、貸付なら回収可能性・利率・担保、業務委託なら成果物・工数・第三者見積り、保証なら保証履行額や求償可能性を確認します。

「相場より高そう」「親族会社だから怪しい」という評価だけでなく、比較可能な第三者条件を集めると、取引の不公正さと損害額を説明しやすくなります。

株主が取得できる資料には要件がある

株主総会議事録、取締役会議事録、会計帳簿などは、それぞれ閲覧・謄写の要件が異なります。取締役会議事録では会社の機関設計によって裁判所の許可が必要となる場合があり、会計帳簿閲覧請求には持株要件、請求理由、拒絶事由の問題があります。

先に「どの取引の、何を証明するために、どの資料が必要か」を整理すると、閲覧請求や証拠保全の精度が上がります。


利益相反取引に関する判例

利益相反取引の判例では、間接取引の範囲、無承認取引の効力、株主全員の同意、実際に承認決議が存在したかなどが問題になっています。

最高裁大法廷昭和43年12月25日判決|取締役個人の債務を会社が引き受けた事例

この事件では、取締役個人が第三者に負っていた債務について、その取締役が会社を代表して会社に債務を引き受けさせました。最高裁は、取締役本人との直接取引だけでなく、取締役個人に利益となり会社に不利益を与える債務引受も、利益相反取引の規制対象に含まれると判断しました。

また、第三者が介在する取引について、会社が無承認を理由に無効を主張するには、相手方が承認の不存在を知っていたことの主張・立証が必要であるとしました。無承認取引が常に誰に対しても当然無効になるわけではないことを示す重要な判例です。

最高裁第一小法廷昭和49年9月26日判決|実質株主5名全員が合意した事例

この事件では、取締役と会社との株式譲渡について、旧商法上必要とされた取締役会承認がありませんでしたが、会社の実質的な株主5名全員が合意していました。最高裁は、会社利益と株主を保護する規制趣旨に照らし、株主全員の合意がある以上、別途の取締役会承認を要しないと判断しました。

ただし、この判例を、支配株主だけの同意や、多数決による承認で足りるという意味に広げることはできません。少数株主が反対している会社では「株主全員の合意」はありません。名義株主の有無、実質株主の範囲、同意した取引条件まで慎重に確認する必要があります。

知財高裁令和6年4月10日判決|商標使用許諾契約の承認決議が争われた事例

この事件では、「東京芸術センター」等の商標をめぐる使用許諾契約が利益相反取引に当たるとして、契約締結を承認する取締役会決議が実際に存在したかが争われました。承認決議がされたと主張された取締役会の出席者は2名でしたが、そのうち1名は契約相手方会社の代表者を兼ねる特別利害関係取締役であり、議決に加われませんでした。残る1名だけでは必要な定足数2名を満たさないとして、知財高裁は有効な承認決議を認めませんでした。

その結果、契約に基づく商標使用料請求は認められませんでしたが、予備的に請求された商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償は認められました。この判決からは、議事録の形式だけでなく、招集、出席、議決資格、定足数、決議内容、後の追認主張を具体的に検証する必要があることが分かります。また、契約が無効でも、他の法的根拠による請求まで当然に消えるわけではありません。


少数株主が取れる対応

利益相反取引が疑われる場合は、取引前か取引後か、会社が動くか、証拠がどこにあるかで対応を分けます。最初から代表訴訟だけに絞らず、取引停止、資料確保、会社自身による回収、役員責任の追及を段階的に検討します。

段階 行うこと 注意点
1. 取引構造の整理 当事者、受益者、金額、会社負担、取締役の関与を図にする 親族・関係会社という理由だけで断定しない
2. 承認資料の確認 機関設計、招集通知、議案、議事録、特別利害関係人、事後報告を確認する 抽象的な一括承認や後付け資料に注意する
3. 価格・損害の確認 相場、第三者見積り、回収可能性、履行実績を比較する 手続違反と損害額を分けて立証する
4. 取引前の対応 説明要求、監査役等への通知、取締役の行為の差止めや保全を検討する 会社の機関設計、損害の程度、緊急性を確認する
5. 取引後の回収 無効・返還、債務不履行、不当利得、任務懈怠責任等を整理する 相手方の認識や会社が得た利益も考慮する
6. 会社が動かない場合 提訴請求を経て株主代表訴訟を検討する 対象取締役、行為、損害、責任原因を特定する

会社に責任追及を求める

本来、会社が取締役や取引相手に対し、無効、返還、損害賠償等を請求します。しかし、取引をした代表取締役や支配株主が会社を支配している場合、会社自身が動かないことがあります。監査役、他の取締役、株主総会等へ資料を示し、会社として調査・回収するよう求めます。

会社が動かなければ株主代表訴訟を検討する

会社が取締役の任務懈怠責任を追及しない場合、一定の要件を満たす株主は、会社のために株主代表訴訟を提起できることがあります。制度全体は、株主代表訴訟とは|少数株主が取締役の責任追及を検討する前に知るべきことで解説しています。

代表訴訟で認められた賠償金は、原則として原告株主個人ではなく会社へ支払われます。利益相反取引による会社損害と、少数株主固有の損害を混同しないことが重要です。

取引の無効と役員責任を同じものと考えない

契約が有効でも取締役の任務懈怠責任が成立する場合があり、反対に、契約の効力が否定されても、返還範囲、会社損害、相手方の別の請求が残る場合があります。誰に対して、何を、どの法的根拠で請求するかを分けて設計します。


利益相反取引に関するよくある質問

親族の会社との取引はすべて利益相反取引ですか

すべてではありません。取締役が相手方会社を代表しているか、実質的な利益を受けるか、会社と取締役の利益が客観的に対立するかを確認します。ただし、親族関係は相手方選定や価格決定の公正性を検討する重要な事情です。

取締役会の承認があれば損害賠償責任はありませんか

承認があっても責任がなくなるとは限りません。取引によって会社に損害が生じた場合、取引をした取締役、会社側で取引を決定した取締役、承認決議に賛成した取締役には、任務懈怠の推定が及ぶことがあります。取引条件の公正性、損害、因果関係を別途検討します。

承認がなければ契約は必ず無効ですか

必ず一律に無効とはいえません。取締役本人との直接取引か、第三者が介在する取引か、相手方が承認欠缺を知っていたか、事後承認が有効に成立したかなどによって扱いが異なります。

特別利害関係人である取締役は取締役会に出席できますか

少なくとも当該議案の議決には加われません。説明のために一時的に出席する場合があっても、採決への参加や他の取締役の判断への不当な影響が問題になります。議事録で説明、退席、採決の経過を確認します。

後から取締役会で追認すれば問題は解消しますか

常に解消するわけではありません。追認をする機関、重要事実の開示、特別利害関係人の扱い、決議の成立、既に生じた会社損害を確認します。後から議事録を作成しただけでは、有効な追認があったことの十分な証明にならないことがあります。

株主全員が賛成していれば承認手続は不要ですか

最高裁第一小法廷昭和49年9月26日判決は、実質株主全員の合意があった事案で別途の承認を不要としました。ただし、全員同意の存在と範囲を厳格に確認すべき事案固有の判断です。少数株主が反対している場合や、取引条件を知らされていない場合に適用できるとは限りません。

利益相反取引で回収したお金は株主が受け取れますか

会社が損害を受けた場合、返還金・賠償金は原則として会社が受け取ります。株主代表訴訟も会社のための請求です。株主個人の権利が直接侵害された場合は別の請求が問題になりますが、会社損害との区別が必要です。


まとめ

  • 会社法356条の利益相反取引には、直接取引と間接取引があります
  • 承認機関、重要事実の開示、特別利害関係取締役の議決不参加を確認します
  • 無承認取引の効力は、取引類型や第三者の認識などによって異なります
  • 承認があっても、会社損害が生じれば取締役の任務懈怠責任が問題になります
  • 少数株主は、利害関係、承認過程、価格、履行結果、会社損害を資料で整理します

利益相反取引の問題では、取引相手が誰かだけでなく、取締役がどの立場で関与し、誰が利益を受け、会社が何を負担したかを具体化することが重要です。承認議事録があっても、重要事実の開示や特別利害関係人の扱い、取引条件の公正性まで確認しなければ、責任追及の見込みは判断できません。

坂尾陽弁護士

少数株主側では、契約の違法性を先に断定するより、取引構造、承認、価格、資金移動、会社損害を一つの時系列にまとめることが、差止め・回収・代表訴訟の選択につながります。

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